勇球必打!
ep25:不協和音

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「何が大リーガーだ! このヘッポコ守備め!!」 「Shut up黙れ!」  佐古さんとハイデンの喧嘩が始まった。  最近ハイデンの怠慢な守備が目立ち、カバーに入る佐古さんの負担が大きい。 「そこのベールもそうだが、コイツら日本の野球を嘗め過ぎだ!」  佐古さんは椅子に座るブールを指差した。 「You got a problem文句あるのか?!」  マズいな……ハイデンだけでなくベールも入ってきた。  でも、佐古さんが怒るのも無理はない。二人は夜な夜な出かけてナイトクラブで遊んでいるらしい。  それに体調不良を訴えて練習もサボりがち。強豪チームから移籍した佐古さんにとって、それは許されないものなのだろう。 「やめなよ。こんな時に喧嘩してもしょうがないだろ」  神保さんが間に入って取り成そうとしている。  チームの空気は最悪だ、今日もブッフに敗戦。そもそもの切っ掛けは、大リーガーコンビの二人に原因がある。  ハイデンの怠慢な守備によるエラー。そしてベールはサイン無視によるフリースイングが目立つ。  そして二人の成績も最近微妙、態度も不真面目とくればしょうがない。 「神保さん、あんたは黙っててくれ!」 「ダメダメ、喧嘩はよくない」  話がだんだんこじれてきている……。  今にも佐古さんがハイデンとベールに飛びかかりそうだ。 「そこをどけ! じゃないとアンタも……」  佐古さんが拳を振り上げた。  いけない!  ――僕が止めようと身を乗り出した時だ。  キュッ。 「……ッ?!」  見事なまでの『裸締め』により、佐古さんは絞め落とされた。 「いい加減にしてくれよ」  佐古さんを絞め落としたのは、キャッチャーの鳥羽さんだ。  『総合空手覇道塾』なる武術を野球と同時並行でたしなんでいたらしい。  僕の世界で言うならば、鳥羽さんは武闘家だろう。ポツリと鳥羽さんが言った。 「勝てないとチームはまとまらないのか」  そして、鳥羽さんは睨みを利かせる。 「Y、YES」 「Gotchaわかったぜ」  二人は鳥羽さんに恐れおののいていた。  言葉は分からなくとも、鳥羽さんが言いたいことを体で感じ取っているようだ。  しかし、鳥羽さんの言葉は僕の胸にズシリと響く。 ――勝てないとチームはまとまらないのか。 (耳の痛い話だな)  僕は魔王イブリトスとの戦いを思い出していた。  チームがまとまるには勝つ以外にしか方法はないのか。  それとも――― ☆★☆  試合終了後、ブッフ親衛隊は勝利の美酒に酔いしれていた。  球場外で二次会を開き、ブッフの各選手の応援歌を奏で盛り上がる。  互いに肩を組む者、ハイタッチする者と様々。  応援団長のパウロも上機嫌である。 「今日はこれでお開きにしましょう。もう夜も遅いですからね」 「パーさん楽しかったよ!」 「オライオンズも連勝だしね」 「オーホッホッホッ! 明日も皆で応援しましょうね」 「うん、じゃあね!」 「また明日!」  応援団は解散、団員達はそれぞれ帰宅していく。 「本当、野球の応援って最高。あの世界じゃ味わえない高揚感があるわ」  時間は夜の0時。  団長のパウロはまだ帰らずにその場に残っていた。ある人物との待ち合わせがあるからだ。 「少し遊びが過ぎるぞ」  大きな影がいつの間にか傍にいた、音もなく静かに……。 「遊んじゃダメかしら」 「お前の魔曲は勇者に呪いを与えるためのものだ」 「急かさないで頂戴な。明日も試合があるのよ」  パウロは不敵に笑みを浮かべながら続ける。 「アタシの新魔曲『ミネルヴァ』『鼠捕りの末路』『閻魔門』既にこの三つを完成させたわ。ブッフ親衛隊の合唱も演奏も完璧に仕込んだ。それの初お披露目が明日の試合よ」 ――ビッ!(指でタクトを振るうパウロ) 「まず『ミネルヴァ』……相手の感情を刺激し怒りを増幅させる!」  大きな影はその効果を尋ねる。 「その効果は?」 「精神が弱い人ほど、ちょっとした仲間のミスでイライラしちゃう」 「チーム内の友情パワーが無くなると」 「そういうこと♡」 ――ビッ!(指でタクトを振るうパウロ) 「次に『鼠捕りの末路』……対象者の特技やスキルを封印!」  大きな影は拍手する。 「なるほどね。これでアランは異世界の特技やスキルが発動できないとことか」 「そうそうインチキはダメよ♡ ダメダメ♡」 「しかし、話からして魔法の方は……」 「そのツッコミは聞き流して欲しいもんだぜ! 黒幕さんよ!!」 ――ビッ!(指でタクトを振るうパウロ) 「最後は『閻魔門』……これはヒ・ミ・ツ♡」  大きな影が首を傾げた。 「秘密だと?」 「シーズンの終盤に効果が現れるわ」 「終盤ね……」 「イベントが発生すればのお話だけどね。肝心なのはフラグ立てよ♡」 「フッ……その前に勇者を殺せばイベントは発生しないか」 「まっ色々条件はあるけど細かいことはなし♡ フリーシナリオは何が起こるか分からないから楽しいの♪」  二人に夜風が当たる、生温くも冷たい独特の風だ。  パウロは月に向かってタクトを振りながら言った。 「応援歌ってヤツは凄いわよね。古来より音楽は生物の心を癒し、あるいは心を奮い立たせることに成功したけど、そこに集団での合唱や手拍子あるいは動きを取り入れることで、生物の心をより一層動かすまでに昇華した」 「急にどうした?」 「この世界の住人に、応援歌というものを発明した人間に敬意を表しているのよ」 「パウロよ……自分の役割を忘れてはおるまいな」 「理解してるわ、アタシはただのザコモンスター。ザコはザコなりの運命を受け入れ、その役割を全うする」 「ならば答えよ。お前の役割は?」  タクトを振り終え、パウロは大きな影の方を向く。 「ゲームの盛り上げ役」 ☆★☆ 「ただいま」  僕はクエスト通商に帰って来た。  マリアムは居間にいてお茶を飲んでいる。 「帰って来たか。オディリス様はまだ帰ってこんぞ」 「あ、ああ……」 「悪いが晩飯はカップ麺や。お湯を注いで食べるんやで」  何だか不愛想だ、僕は恐る恐る尋ねた。 「お、怒っている?」 「別に……」 「いや怒ってるだろ」 「怒っとらんわ! この扇風機!!」  これは怒っているな……。  メガデインズがブッフに連敗したからだろう。それに今日の試合内容が悪すぎた。  守備や走塁のミス、更にはチャンスでの凡退が目立った。僕も一発を狙い過ぎて【鬼神斬り】を連発、扇風機と化してしまっていた。 「それにしてもブッフの応援は凄いな」 「ん? ブッフの応援」  僕は苦し紛れにブッフの応援についての話題を出した。  今の最悪のチーム状況を話しても、火に油を注ぐだけだと思ったからだ。 「昔はゲ○ゲの○太郎とか○リーちゃんとか、昭和アニメの応援歌ばっかりで野暮ったかったんやけどな」 「どういうこと?」 「それは――」  マリアムはパソコンのところまで行き、何やら検索し始めた。

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