鐘刃四天王『白虎』『青龍』『玄武』の3チームを撃破。 いよいよ、四天王も残り1チームとなる。 僕達は魔法陣により、四天王最後のステージへと召喚された。 「えらいピカピカしたところやなァ……」 マリアムは辺りを物珍しそうに見渡すのも無理はない。 煌びやかな球場だったからだ。 ここは夜のように暗いが、球場内は色とりどりの照明により瞬いている。 まさに光の球場と言ってもいい華やかさがあった。 ――チャッ♪ チャッチャッ♪ チャッチャッ♪ 「な、なんだ……」 球場に明るい音楽が流れた。 南国のリゾート地、もしくはカジノで流れそうな明るい音楽である。 ――叩けティー♪ 響け快音♪ 踊れ南のオールスター♪ 「な、なんやこの変な歌は……」 マリアムを始め僕達は混乱した。 どこからともなく明るくもおかしい音楽が流れたからだ。 「あ、あれを見て下さい!」 湊が何か気付いた。 指先の方向はセンターバックスクリーンだ。 ――オーレオレ♪ 『朱雀』の機動力野球ゥ♪ 怪しげな赤い鳥仮面を付けた男がライトアップされている。 その周りには鐘刃サタンスカルズのユニフォームを着た女性……いや妖精族『ニンフ』が取り囲んでいた。 「私は鐘刃四天王『朱雀』のサコスイ、よくぞここまで上がって来た」 声は思いっきり佐古さんだった。 皆、何とも言えない表情で暫し沈黙している。 もう色々と突っ込みどころ満載であるが、勇気を振り絞った湊とドカが優しく言ってあげた。 「佐古さんじゃないですか」 「えっ……」 「声で思いっきりバレてるで」 「うぐっ……」 かなり動揺する佐古さんだが、首を横に大きく振る。 「わ、私は佐古如水ではない! 朱雀! 朱雀なのだァ!!」 その否定を無視し、鳥羽さんと森中さんが追撃のツッコミを入れる。 「フルネームなんて本人しか知ってない情報だぞ」 「何で可愛い妖精さんに囲まれてるんだよ!!」 佐古さんは二人の言葉を無視して話を強引に進めた。 「他の四天王と私を一緒にするなよ。東京サイクロプスで磨いた王者の野球と私の佐古理論を混ぜた『全く新しい現代野球』で貴様らを――」 「自分でネタバレしてるじゃないか」 ジト目のネノさん。 一人喋り続ける朱雀……いや佐古さんに先制のスキルを発動させた。 ――スキル【盗む】発動! 〝朱雀の仮面を うばいとった!〟 「更にニンフちゃん達に『サコタイム』というパフォーマンスプレイを叩き込むことで――」 「仮面が取れてるぞ」 「あうわっ!?」 ネノさんがスキル【盗む】を発動。 朱雀の仮面を剥ぎ取るとその素顔が顕わとなった。 その正体は――もちろん佐古さんだ。 「さ、佐古くんじゃあないか!」 「オーナーは気付かんかったんかいな!」 天堂オーナーのボケにツッコミを入れるマリアム。 続いて実況の小前さんと解説のブロンディさんもボケる。 「何ということでしょう! 朱雀と名乗る謎の野球仮面の正体は佐古如水だったァッ!!」 「マンダム――こいつはビックリだぜ」 「お、お前らもかーいっ!」 ――スパパパーン! 久々のハリセンでの攻撃、しかも三連発だ。 マリアムにツッコまれた3人は、ハリセンでの攻撃をものともせずに続けた。 「何で君がここに」 「佐古選手は鐘刃サタンスカルズの闘いから逃げ出したはずッ!!」 「敵前逃亡するやつは男じゃねェな、どういうことか説明しろ」 3人の言葉を聞き、佐古さんは肩を震わせながら言った。 「ふふふ……バレてしまっては仕方がない」 「元々バレてただろ」 ネノさんの言葉を無視し、佐古さんは詩人のように語り始めた。 「鐘刃サタンスカルズの野球……私はその時の強さに恐怖したと同時に『憧憬の念』を抱いたのだ。圧倒的で暴力的な野球……東京では感じられなかった強さ、美しさがあったのだ」 叙事詩の語り部のように話している。 そんな若干ナルシストな佐古さんを天堂オーナーが遮った。 「ちょ、ちょっと待ちたまえ! 東京、東京と……だったら何でFAでメガデインズに来たのかね?」 確かにごもっとも。 先程から佐古さんは自分がメガデインズだった時のことはあまり触れず、東京サイクロプスのワードしか出さないでいる。 「そこの西木が就任会見で言ってただろう。私の事を『30歳を越え肩と足が衰えている』と」 「……」 西木さんは佐古さんの指差されるも黙っている。 佐古さんの顔は以前の顔と違い、修羅のような顔に変わっていた。 「この佐古如水、己の変化に気付かぬほど耄碌しておらぬ! 肉体が衰え年棒が減る前に、ザコいメガデインズに入ればレギュラーとして数年間活躍出来ると思ったまでよッ!!」 ――バァーン! 佐古さんは鐘刃の部下となり感化されたのだろうか、体をうねりながら独特のポーズを取っている。 「老いは醜い……特にスポーツ選手は。私は確かに恐怖から逃げ出したが逆に良かった。球場から逃げ出すところをバッタリ鐘刃様と遭遇してな。私の野球センスや理論を高く評価していることを伝えられ、こうして四天王としてスカウトされたのだ。そして、今や私は異世界の特技とスキルを得た。これでもう肉体が衰えていく心配もなくなった、異世界パワーで60歳までプレーしてやる」 ――チュッ♡ 「あっ……」 そして、佐古さんは傍にいるニンフの頬に口づけをした。 ニンフは顔を赤らめ照れている様子だ。 「ククク……羨ましかろう、このように部下として可愛い野球ニンフちゃんも与えられた。彼女達は化粧がケバいMegaGirlsと違い清楚でおしとやか! 鐘刃様の部下になってから毎日ハーレム状態を楽しんでいるよ」 佐古さんは邪な表情を浮かべると……。 「調子に乗りやがって……」 「鼻の下を伸ばしてンじゃあねェぞ!!」 元山と森中さんが憎悪の眼差しを向ける。 それは『嫉妬』というマイナスパワーだ。 ――カ”ッ”!! 〝黒い意志〟だ。絶対にブチのめす、という強い覚悟……。 下手をすると魔人へと落ちるであろう暗黒の決意を伺わせる。 そして……。 「誰がケバいですって?」 「私達はまだ2×歳よ」 「ムカつくおっさんですゥ!」 ――ボ”ッ”!! MegaGirlsからくすんだ黄金の炎が見えた。 〝鬱金色の炎〟といってもよい、それは怒りという動物的情熱。 人をケルベロスのような魔獣に変えんとする内なる力だ。 佐古のイラつく言動と挑発で嫉妬と怒りに燃えるメガデインズ。 ネノさんとマリアムは、冷静さを欠くチーム状態に警戒感を持っている様子だ。 「負のオーラが出始めてるぞ」 「あ、あかん……冷静さに欠けとる」 チームに漂う『絶対殺すマン』的な負の感情。 佐古さんは計画通りといったドヤ顔だ。 「そのような獣に近い感情で勝てると思っているのか? スモールベースボールで細かく、そしてエゲつなく走り殺してやろう!!」 自信満々の表情……。 だが、西木さんと赤田さんは何故か笑っている。 「西木さん」 「ああ、チームにもう一つの炎を灯した」 ☆★☆ ――浪速メガデインズVS鐘刃四天王『朱雀』 5回裏『108-0』でメガデインズのコールド勝ちとなった。 いともたやすく行われるえげつない行為に佐古さんは悶絶していた。 「何故だ……」 「さ、佐古様!」 前のめりに倒れ、野球ニンフ達に介抱される佐古さんに西木さんが言った。 「お前なら知っておろう、世紀の大迷言『東京はブッフより弱い』を」 ――ビィーン!! 佐古さんは目は見開いていた。何かを思い出したらしい。 「10年前……私がルーキーとして参加した日本シリーズ。京鉄の加納が言った大失言ではないか」 東京はブッフより弱い? 僕は何のことか分からず赤田さんに尋ねた。 「何ですかそれは?」 「10年前、東京と京鉄が対戦した日本シリーズがあってな。第1戦から3戦まで京鉄が3連勝、誰もが京鉄悲願の日本一と思われた時だ、第3戦で投げた加納鋼郎がヒーローインタビューで歴史的な言葉を放った」 ――『東京はブッフより弱い』 「それを聞いた東京は発奮。その後に4連勝して逆転日本一になったのだ」 「なるほど……」 僕は納得した。 過ぎたる挑発は自身の慢心を生み隙が生じる。 「陰陽相まって完成した。佐古は偶発的にもメガデインズを更なる境地へと導いたな」 赤田さんはニカッと笑う。 時に嫉妬や怒りは、人を更なる高みに押し上げるパワーが働くということか。 「い、言っておくが……私は後悔してないぞ。肉体が劣化する前に異世界パワーを身に付け……この野球ニンフ達とハーレム状態を……築けたことをな……」 佐古さんはそのまま気を失った。 美しいニンフの膝枕の上で……。 元山と森中はそんな佐古さんを見ていた。 「く、くそう……」 「最後の最後まで……」 ――ドン! 「「羨ましい野郎だぜ!」」 「アホか」 二人を見る、マリアムら女性陣の目は冷たいのは言うまでもない。
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