――B! U! F! F! オー! ブッフ!! 「声が小さい! それじゃあチームは勝てないわよ!!」 ――B! U! F! F! オー! ブッフ!! 「イイ感じよ! みんな声が合わさって来たわ!」 場所は長崎ファルコンズの本拠地、長崎poipoiドーム。 長崎ファルコンズ対房総ブッフオライオンズの試合。 ファルコンズを指揮する、ヒゲの監督こと佐世保二四三は頭を抱えていた。 「我が軍は育成にも成功、補強もして戦力も充実。今年こそ日本一を目標にシーズンに挑んだ……」 昨年のワ・リーグ優勝チームはファルコンズ。 日本シリーズでは東京サイクロプスに敗れはしたものの、Aクラス常連の強豪である。 しかし……。 ――カツーン! 「相手はオライオンズ。元京鉄の加納が残した世紀の大迷言『東京はブッフより弱い』と表現されるほど、メガデインズと並ぶほどの超弱小チーム。正直、開幕相手にはおいしい相手と思っていたが……」 ――カツーン! 「我が軍の投手陣を壊滅状態に追い込んだというのか!?」 『最多セーブ投手経験者の盛も撃沈ッ! これで8失点目だ!』 8回途中まで8-1とブッフが大量リード。 ドーム内の長崎ファンは意気消沈とし、片やブッフファンは狂喜乱舞していた。 ――オライオンズが本当に好きだから♪ 「最高ヨ!!本当に最高!!」 ――みんなでこの喜びを分かち合おう♪ 「いい具合にアドレナリンが出てるわ!!」 今年から応援団『ブッフ親衛隊』の団長を務めるパウロ(♂)は喜んでいた。 「これなら勇者ちゃんをイジメられるわね♡」 試合は結局ブッフの三タテに終わった。 「YES! YES! YES!」 『今年は違うぞオライオンズ! 監督のヴィンセントも大喜びだ!!』 弱小球団の躍動、異世界からの転移転生者達の介入。 今年のプロ野球は大異変の年となるだろう……。 ☆★☆ 今日から房総ブッフオライオンズとの3連戦だ。 初めて本拠地である浪速ブレイブスタジアムでの試合となったのだが……。 「お、お客さんが全然いないではないか!」 元東京サイクロプスの佐古さんが驚いていた。 スタジアムの観客はまばら。正直言って閑古鳥だ。 「あそこじゃ、イチャつくカップルがいる。あっ! 麻雀やってるヤツもいるぞ!!」 ベンチでは、ショートの安孫子さんがグラブを手入れしながらニヒルに言った。 「へっ……佐古のヤツ、相当なカルチャーショックがあるらしいな」 そう言えばマリアムが言ってたな。 人気のエ、実力のワと呼ばれているらしく、両リーグには圧倒的な人気格差があるって。 その中でもメガデインズは不人気中の不人気だ。 人気球団にいた佐古さんにとって、衝撃的過ぎる客数なのだろう。 「これでは『サコタイム』を見せれんではないか!」 「知るかバカ、さっさとグラウンドへいくぞ」 今シーズン初めての本拠地での試合だというのにお客さんが少ない……。 それほどまでにメガデインズが弱くて不人気球団という証明なのだろう。 僕も佐古さん達と一緒にグラウンドへ向かう。いよいよ試合が始まるのだ。 ――B! U! F! F! オー! ブッフ!! 僕がグラウンドに立つとライト側から大声援が聞こえた。 ブッフの応援団だ、軍隊のように統率が取れ見事という他ない。 ちょっとブッフの選手が羨ましいなと思った時だ。 「いつも試合は見とるで!」 だみ声が聞こえた。 ふと外野スタンドを見ると法被を着たおじさんがいる。 どうやらメガデインズの応援団の人のようだ。 「入団テストの時にコスプレで来たって話は本当か!」 「あの小柄で可愛い子は誰だ! 一緒に歩いているのを見たぞ!」 声援と野次ともつかない応援が聞こえる……。 人数は少ないが熱心なファンのようだ、僕のどうでもいい個人情報まで知っている。 「プレイボール!」 試合が始まった。メガデインズの先発はイルケアガーバーだ。 名前が長く言いにくいので『ガーバー』という登録名に変更している。 大リーグ通算121勝の大物らしく、速球とシンカーを主体に三振を取る投手らしい。 またカーブやスプリット、チェンジアップなる変化球を駆使し投球の幅が広いとのことだが……。 「フォアボール!」 いきなり二者連続の四球だ。 「ガーバー! ガバガバやん!!」 「ハンバーガー! しっかり投げてよ!」 レフトからファンの野次が聞こえた。ちょっと面白い。 『三番 ファースト 興田源氣 背番号44』 ブッフに沖田と同音の姓名の選手が左打席に入った。 打席に立つと左右に揺らしタイミングを取っている。 「偽タオル!」 「開幕のピッチングが酷すぎて野手転向か!」 (うるせえ、俺の方が先にプロだっつーの!) 沖田も興田……ややこしいが二人同時にディスられていた。 「うふふ……チャンスね。さァ気合入れてチャンステーマ行くわよ!!」 ――ララララララララ! 唸るような声がスタジアムを包んだ。漆黒の応援団が跳躍している。 ――オーオーオーオーオー! 楽器の一つ一つが、僕の五臓六腑に響き渡る……。 ――房! 総! ブッ! フ! 興田ッ!! 待てよ―――これは!! ――カツーン! 興田の引っ張り気味に打った打球は、僕の頭上高く通過。 白球はメガデインズ応援団が待つ、ライトスタンドへと入っていった。 『スリーランホームラン! 興田、初球を見事に捉えました!!』 興田はダイアモンドを一周。ライトからは罵声が聞こえる。 「何やっとるんじゃーっ!」 「貧打のブッフにホームラン打たれてどないすんねん!」 ――興! 田! 興! 田! レフトスタンドのブッフファンは狂喜乱舞。 太鼓の音色は不規則なリズムを刻みながら喜びを表していた。 「何で闘争のドラムが……」 僕はブッフの応援団を方をずっと見ていた。 彼ら彼女らが使用しているものは『闘争のドラム』に間違いない。 特殊な音波が発生する音色と特定のリズムを打つことで、闘う者の潜在能力を引き出し攻撃力を倍加させるアイテムだ。 それにあの曲調は妖魔が使用する『魔曲』と呼ばれるものだ。使役する魔物を鼓舞し戦わせるために作った楽曲で、冒険の途中に何度も苦しめられた記憶がある。 『四番 レフト海老原瑛人 背番号8』 さて試合は続く、今度はレフトの海老原。社会人卒のプロ5年目、内角打ちが得意で『ツーシーム打ちの名人』と呼ばれる。 ――カツーン! ツーベースを打たれた、続くサードの鏑木にはヒット。 これでノーアウト二三塁でDHのストローマンだ。 「相手はマイナーリーガーや!」 「ガーバー、格の違いを見せたれ!」 メガデインズファンの声援が飛ぶも……。 『ああーっと! ガーバー暴投!!』 暴投により追加点を献上。結局この試合は初回の4失点が響き敗戦。 降板後、ガーバーは僕にこう言った。 「投げて打たれる。それが野球さ」 僕はそれ以降、ガーバーの姿を見ていない。 それにしても、ブッフの応援団だ。闘争のドラムをどこで入手したんだ。
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