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 今日は一軍監督代行発表の記者会見だ。  北海道カムイ戦から空け、僕達は本拠地がある大阪に戻って来た。  ここは大阪府内のホテル、メガデインズの一軍メンバーが大広間に集まっている。  それは僕達だけじゃない、マスコミ各社も待機していた。 「ハイデンとベールの姿がなくね?」 「そういやそうだな」  ハイデンとベールの姿が朝から見えない。  実は僕だけ神保さんから話を聞いたのだが、二人とも自分から家族の都合やらケガがあるとのことで、僕達とは別便で東京の羽田空港へと向かい帰国したとのことだ。 「今日の監督発表が楽しみだね、どんな人がなるんだろうか」 「そうですね」  この神保さんという人は不思議な人だ。ヤケに新人の僕に親切だし、チームの内情その他諸々を教えてくれる。  それにこれは高橋さんから聞いたのだが、神保さんは時々ブルペンから姿を消すことがあるらしい。  内緒で色々と副業をやっているからとのことだが……。 「皆さんお集まり頂き、誠にありがとうございます」  天堂オーナーが壇上に立った。今日は白のスーツではなく赤のスーツだ。  胸にはバラではなく、べっ甲で作った犬のブローチを付けている。 「選手の皆も北海道から帰って来て早々にご苦労様、北の大地での9連敗は感動したね。まるでV9を達成した気分だよ」  イヤミ交じりに言った。  チーム状況がチーム状況なので仕方ないか……。 「それでは早速、新監督の発表を致します!」  天堂オーナーの合図と同時に照明が消され、ボス戦で流れそうな音楽が奏でられた。  鳥羽さんが呆れ顔だ。 「格闘技かよ」  七色のライトが照らされ始め、グルグルと回る。  ピタリと止まると、大広間の入り口に一斉にライトが集まった。 「西木代行監督の登場です!」  西木さん!?  僕は入り口を見た、確かにそこにいた。  ユニフォームではなくスーツ姿ではあるが、口はへの字に曲げて頑固そうな顔は変わらない。  西木さんは僕達選手の一人一人を見てから壇上へと上がった。 ――パシャパシャ  記者団のカメラのシャッターが一斉に切られる。  への字口がパカリと口が開いた。 「えーっ……福井監督の代行に就任致しました西木育雄です」  西木さんは簡単な挨拶を済ませると続けた。 「代行といえど一軍監督になりました。目標は『優勝』これだけは変わりません、我々プロは勝つことが仕事であると考えております」  選手達は話半分聞き、天堂オーナーはうんうんと頷いている。 「ただ勝つには『新しい風』が必要……」  僕達選手に紙が配られ始めた。 (これはオーダー表?)  その紙には、オーダー表が書かれていた。 1.遊 安孫子 譲 2.右 国定 造酒 3.二 河合 子之吉 4.中 碧 アラン 5.DH 6.一 鳥羽 修斗 7.三 森中 亨 8.捕 徳島 凡太 9.左 佐古 如水  オーダー表を見た僕達に衝撃が走った。  特にこれまでトップバッターを務めていた佐古さんと正捕手の鳥羽さんだ。 「バ、バカな! この佐古如水が9番だと!?」 「俺がファースト……」  驚くことはそれだけじゃない。  河合さん等の二軍メンバーや国定といった知らない名前もある。  それにDHの欄が空欄だ。 「次の京鉄バイソンズ戦は、このオーダーで戦います」  西木さんの予告先発ならぬ予告オーダーだ。  記者団はザワつき一人の記者が質問した。 「DHが空欄ですが?」 「それは試合の当日に分かります」  一方、天堂オーナーはこのサプライズに驚くばかりだ。  おそらく西木さんから、このオーダー発表を聞かされていなかったのだろう。 「ま、待て、ハイデンやベールの名前がないじゃないか。それにアランくんは別として無名の選手ばかりだ」 「ご不満ですか?」 「そりゃそうだよ。このチームはハズレが運営している、僕の指示通りにしてもらわないと困る」  僕の指示通り?  なるほど、噂に聞いていたがフロントが現場に介入している話は本当だったんだな。  そんな天堂オーナーに対して、西木さんはきっぱりと答えた。 「メガデインズはオーナーの玩具ではありません」  天堂オーナーは爪を噛み始めた。  こんなきっぱりハッキリ言われたのは初めてなんだろう。 「こ、こんな横暴が……」 「気に入りませんか」 「当たり前だ!」 「ならばこうしましょう。次の試合で負けたら辞任します」  とんでもない監督発表となった。  次の京鉄バイソンズの試合に負ければ、西木さんが即辞任とは……。 ☆★☆ 「監督が代わるらしい」  京都ドームに京鉄バイソンズナインが集まっていた。  明日は京都から大阪へと移動し、浪速ブレイブスタジアムへと向かう。  浪速メガデインズとの一戦があるのだ。  全体練習というワケではないが、オニキア達を始めとする選手が集まっている。 「変わる?」 「西木という男になるようだ。手に入れた内部資料によると西木はそこそこプロで活躍した後、自費で海外へコーチ留学。その後オライオンズのコーチとなったが、フロントとチーム方針で揉めて辞任。うるさ型の男だが指導力は本物みたいだ。退団の発表があった際、若手を中心にした選手達から抗議があったようだからね」  これは監督である花梨がしゃべっているのではない。  大きな影がオニキアに対し話しているのだ。 「人心掌握という名の洗脳が上手い男だ。オニキアちゃんはどうかな?」 「はい……やっと闇属性の魔法をマスター出来ました」 「流石は賢者。呑み込みが早い」  オニキア達を除く、京鉄バイソンズの選手や首脳陣は目が虚ろだった。  闇属性の誘惑呪文『キャプテーション』により完全に操られていた。 「お膳立てはしてあげた。勇者アランを必ず消すんだ、さすれば元の世界へ返してあげよう」 「その際は判官と弁天の二人も……」  大きな影は頷きながら答えた。 「うむ。そのために判官には竜騎士の力、弁天にはバトルマスターの力を授けた。異世界に行っても活躍出来るだろう」  判官と弁天は黙って頭を垂れ、跪いている。  この二人も、かつてはドラフト上位指名で期待された選手だった。  だが入団後は伸び悩み、年々試合でもあまり使われなくなり、ファンからは期待外れやお荷物呼ばわり。  ベテランから足手まとい、同僚からは見下され、若手からはバカにされる日々。  終いに家族や友人、アマ時代の監督からも『野球を辞めろ』と言われるようになった。 ――このつまらぬ浮世。  それは判官が言った言葉だ。  彼らはこの世界が嫌になっていた、違う世界に転移し人生をやり直したかったのだ。  オニキア自身、最初は二人を元の世界へ戻るために利用する道具と見なしていた。  しかし、彼らの境遇を知るうちに同情、また共に練習することで仲間としての友情が芽生えてしまっていた。 「質問をよろしいでしょうか」 「何だい改まって」 「シュランという男のことですが――」 ――ヌゥ……  大きな影がより一層、オニキアを包み込んだ。 「それは君が知ることではない、黙って次の試合に集中するんだ」 「ハ、ハハッ!」

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