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 僕は一軍に合流。  ロッカールームに入ると、腕に覚えのありそうな人達が僕をチラチラ見ている。  冒険序盤に経験値とお金を稼ぐために訪れたギルド、初めて入ったときの何とも言えないあの雰囲気に似ていた。久しぶりに針で刺されたような感覚だ。 「新人だな」 「そ、そうですけど」  ガッシリとした男が話しかけてきた。  岩のような顔、長いもみあげが威圧感を与える。その風貌と佇まいから、かなり腕の立つ人だ。 「挨拶しな」  僕は男の人に注意された。  男の人の圧に押され、僕は直立不動の姿勢だ。 「は、はい。碧アランと申します!」 「最近の若いヤツは常識を知らんのか、普通は一軍に来たら挨拶をするだろ」 「す、すみません」  男は睨みを利かせ僕を見ている。  西木さんとは別の形で怖い、魔物でいったらオーガキングだ。 「ムギ、あんまり新人をイジメるなよ」 「あ、兄ィ……俺はそんなつもりじゃあ」  そうすると細身で物腰が柔らかそうな人が出て来た。  穏やかな印象があるが、真綿の中に針を潜ませるような雰囲気だ。 「すまんな新人君。ん……ひょっとして外国人?」 「い、いえ」 「顔立ちは外国人っぽいけどハーフかな。まァいいか」 「失礼ですがあなたは?」 「私は神保錬じんぼれん、選手兼投手コーチ補佐だ。あそこの怖い顔の男は麦田力也むぎたりきや、あんなガタイだけど投手さ」 「よろしくお願いします」  ジンボさんの存在が安心感を与えてくれる。勇者ながら、ギルド内は強面の人が多いので緊張した。  ギルドには様々な種族がいるようだ。あそこでは、僕と同じような金髪の男と褐色肌の男が会話している。 「試合の前に練習だってよ。メジャーでは考えられねェよな」 「だいたいニホンの練習は長すぎる」 「全くだぜ、さっさと適当に終わらせて出かけようぜ。ニホンの女だけは最高だからな」  何だか不真面目な会話が聞こえる……。ジンボさんは頭を少しかいていた。 「ハイデンとベールって新外国人なんだけど、彼らの言っていることは理解出来る?」  僕には同じように聞こえるが、ジンボさんには違う言語で聞こえるのだろう。  オディリスから与えられたスキル【言語学】で、この世界の言葉は全て同じに聞こえるからだ。 「い、いいえ」 「あらら、そりゃ残念だ」  僕は誤魔化すことにした。本当のことを言ったら揉め事が起きるだろう。 「新人そろそろ試合前の練習だ。さっさと準備しろ」 「は、はい!」  僕はムギタさんに言われ、急いでユニフォームに着替えた。 ☆★☆  試合前の練習もそこそこに終了。  僕達はグラウンドに集まっている。スタメン発表がされるらしい。 「するで」  また福井さんは主語と述語が抜けていた。  おそらくは『スタメンを発表するで』と言いたのだろう。  福井さんがスタメンメンバーの名前を次々と言っていく。 「アランは6番ライトや」  僕は昨日の約束通り先発出場、気合が入る。  それは支配下登録をかけての試合なのもあるが――。 ――ニッ。  対戦チームは既に到着、そこには笑う女性がいた。 「オニキア……」  そう相手は『京鉄バイソンズ』だ。 ☆★☆ 「プレイボール!」  審判の声と共にオープン戦が始まった。  球場の観客は少ないが、取材陣が多く集まっている。カメラの先はオニキアだ。 「いい女だな、試合に出ないのか」  ベンチにいるハイデンは、隣に座る黒い肌の男と話をしている。 「今日は見学だけらしいわ」 「そりゃ残念だ」  あの人は通訳のブルボンさん。  僕と同じスキル【言語学】を身に付けているようで、この世界の言語を一通り使いこなせるらしい。  一方、試合は淡々と進み、共に無失点。  先発投手は麦田さんで、無失点で仕上がりは上々のようだ。 『6番 ライト アラン 背番号006』  球場内に女性の声が響いた。  いよいよ僕の出番だ。 「久しぶりだな」  僕が打席に立つと相手チームの捕手に話しかけられた。  懐かしい顔だ。 「お前は確か元山」 「覚えてくれて嬉しいね」  元山はマスク越しに不適な笑みを浮かべている。  片倉さんの話しぶりからして、てっきりメガデインズに来るものと思っていた。 「京鉄バイソンズに雇われたのか」 「京鉄の方がサラリーの条件が良かったのでな。それよりも自分の心配をしたらどうだ」 「自分の心配?」 「相手が悪い。今日の先発は生きる伝説『鈴草魂魄すずくさこんぱく』さんだ」 ――ギン!  相手投手の顔を見た。ずっと僕を睨んでいる。  ミノタウロスのように鼻息が荒い。 「鈴草さんは通算300勝の伝説的左腕……云わばチームの顔的存在よ」 「300勝……」 「そう300勝だ」 「それって凄いの?」 「なッ?!」  モトヤマは立ち上がった。信じられないような顔だ。  僕はザコから中ボスを含めると1000勝以上はしている。  300勝ってそんなに凄いのだろうか。 「無礼なやつだ」  モトヤマはスズクサという人の元に行き、何やら話をしている。  僕はその間、オニキアの方を見ていた。  彼女は足を組んでベンチに座り、僕の方をずっと見ている。 「あの新人、オニキアって女を見てるな」 「一目惚れか」  ベンチから野次る声が聞こえる。  僕と彼女の関係のことなど知らないだろう。 「どうなっても知らんぞ」  モトヤマが何やら言ったが、よく聞き取れない。  僕はある特技を試すために集中していたのだ。  折角の試合だ、僕が持つ特技を試合の中で試してみたい。 「プロの洗礼じゃ」  スズクサが小さくそう言った。  洗礼? 何をするつもりだろうか。 ――スッ……  僕を睨みつけ、体を後ろに引き、腿を上げる。  無駄のないフォームだ、修羅場を潜り抜けてあの型を身に付けたのだろう。 ――投げたら……。  スズクサはドンと右足を踏み込む。 ――アカン!  左腕を鞭のようにしならせ……。 ――ブッ!  投げた。  それにしても、投げたらアカンって……。  あの人は投手なのに何を言っているんだろう。  あれ? 僕の手首近くに……。 「これがプロの世界だ!」  わざとこのコースに投げたな。  まあ一か八かだ。 「鬼神斬り!」  僕は内角のボール球を思い切り叩きつけた。 ――ゴン!  金属音に似た鈍い音がした。  気づくと白球はバックスクリーンに消えた。 「へッ?!」  モトヤマはマスクを脱いで驚いている。  僕が使用したのは特技【鬼神斬り】。  命中率は3/8だが、当たると会心の一撃の威力を誇る。 (当たってくれてよかった)  僕はダイアモンドを一周。その時にオニキアと目が合った。 ――パチパチ  オニキアは小さく拍手している。  僕はその様子を見てホームイン。  ベンチへと戻るが――。 「アカンやん!」 「えっ?」  福井さんにいきなりダメ出しされた。  一体どういうことだ?  ベンチにいる神保さんが僕にそっと教えてくれた。 「待てのサインが出てたぞ」  しまった……僕はオニキアに気を取られていた。

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