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朝方。 鳥が誰よりも早くさえずり始めた頃に、目が覚める。 前の世界じゃ眠れず、ようやく寝始める時間帯だったが、この世界に来てからはそんなこともなく、今では朝から自重筋トレをこなす、健康優良児になってしまった。 筋トレの最中、ふと昨日作った、改造スキル“簡単!魔力放出”を試しに発動してみる。 俺を中心にブワッと、魔力の層が半球状に展開される。 ……思ったより、魔力の消費量が多いが、1戦やるだけなら問題無いだろう。 発動を止めると、魔力は霧散していった。 とりあえず、コケ脅しにはなりそうな出来だ。 筋トレを終え、身支度を済ませると、通学カバンを持って朝食を取りに向かう。 ダイニングに入ると、すでに父とマインが食べ始めていた。 席に着くと、間もなく朝食が配膳される。 今日も完璧な仕事ぶり。貧乏性を引きずる俺にとっては、未だに慣れない事の一つだった。 「おはようございます。父さん、マイン。 「あぁ、おはよう。」 「おはようございます。」 「父さん、今朝も早いね。」 「今日は冒険者ギルド連合に、用があってね。」 「冒険者ギルド連合?一介の商人になんの用があって?」 「なんでも武具や薬が 大量に必要らしい。」 「……何かあったの?」 「うむ……最近、魔力に犯された動植物に関する依頼が 増えているらしい。その対策として用意しといてくれだと。今日はその打ち合わせで、終わったら各ギルドへの納品準備だろうね。」 「また遅くなりそうだね。」 「まぁな。だが、せっかくの仕事だ。キチッとやって、正当報酬でも貰うさ。」 「それが良い。」 本当によく出来た父だと思う。 わずか4年ほどで、王国有数の企業へと発展した”ヘンドラー商会” 彼は持ち前のバイタリティと 各界へのパイプを駆使し、商会の『縁の下の力持ち』として、現場を指揮している。 また 更なる発展のために、同時に複数の事業を展開させているため、その負担は計り知れないのだが、当の本人は「なんのこれしき」と笑って案件を片付けている。 まさに『商会の顔』 それが、我が父『コレーグ・ヘンドラー』なのであった。 「それはそうと、ヒイロ。今日は騎士団長の倅と、決闘するらしいな?」 「まぁね。」 「そうか……あまり無理するなよ?学園の決闘なんて、所詮は“ごっこ遊び”の域は出ないが、やりすぎだけは本当にやめてくれよ?互いに”守るべきメンツ“があるからな?」 「ハハハ、大丈夫だよ。」 「お前の言う大丈夫は、大体 私の苦労に直結するんだよ……そもそも、なんで騎士団長の倅なんかと決闘に……」 「そう頭を抱えないでよ♪俺にも考えがあるんだ。そっと見守っておいて欲しいね。」 「ハァ……何を言っても無駄だろうし、今回も静観するとするよ。」 俺が勝手をして、彼が抗議の末に諦める。 もはや様式美とも言える問答に、初めて会話を交わした時のことを思い出す。 「ありがとう、父さん。」 目を見て 改まって 礼を告げる。 父さんは、目を2度3度と瞬きして一言「ど、どうした?」と 気味悪がった。 それから朝食を手早く済ませると、自宅前に停めている馬車に マインと共に乗り込む。 ちなみにこの馬車は、ヘンドラー商会が展開する事業の一つであり、代名詞だ。 よって『通学』と『機能性・デザイン性を伝える宣伝』を兼ねている。 少々目立つデザインなので、降りる時は周囲から視線を感じる。が、これも商会のためだと割り切る。 今日も普段通りに、学園の門を無事くぐる。 運命の決闘、数時間前のことであった。

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