作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

午前の授業は、実に辛かった。 いや本当に、隠キャに“好奇の視線”はやめてくれ。 体が溶ける。 教室への入室に始まり、立ち振る舞い、一挙手一投足、全てに視線が注がれる。 いやね、自分が蒔いた種だよ。 自業自得だよ。 でもやっぱ……辛ぇもんは辛ぇわ。 と思いつつも、表情には出すのはなんか負けた気がするし、改造スキル“感情OFF”を発動して、やり過ごすか…… ……。 「ヒイロ様、お時間です。」 「……え、もうそんな時間?」 「“そんな時間”です。」 危ねぇ……感情OFFを発動してから余計な事を考えない様に、無意識に思考も停止してたから、完全に“無”になってた…… こうなると、時間感覚が狂って仕方ない。 「……ありがとう マイン。じゃあ向かおうか。」 と言って マインと共に第四訓練場に向かい始めたものの、その道中も常に視線が注がれる。 加えて『夜伽役』だとか『男色家』等という声が聞こえる。 誰だよ、そんな事を言い始めたやつは。 ……あ、俺か。 しばらく、そう心の中で軽口を叩きながら、会場へと急ぐ。 訓練場に入ると、すでにクロス君が待っていた。 クロス君は 到着した俺の姿を見た瞬間、表情を緩めたがすぐ渋い顔になった。 一瞬でも表情が緩んだあたり、決闘が成立しないとは言え、精神的不戦勝に終わる結末は、望んでいなかったようだった。 特別な催しを行う場だけあって、他訓練場と比べ 大きく立派な見学席には、公開処刑執行を今か今かと待ち侘びる、百と数十人の見物客が パラパラと席を埋めていた。 クロス君は開口一番「逃げずに来たか。」とマウントを取りにかかったが、すかさず「逃げずに来て あげたよ。」と返す。 その返答にクロス君はキッと睨むと「口の減らんやつだ。」負け惜しんだ。 「両者 揃ったな」 と後ろから声がかかる。 振り返ると、学園自治会の役員がやってきた。 まぁ、役員と言っても その役は、俺たちと同じ学生が担っている。 なんかそういう所、創作の世界って感じがして良いよね。 ちなみに、やって来た役員は3名で構成されていた。 一人は、背が大きく ガタイも良い大男…… 一人は、背が小さく メガネをかけた男…… 一人は、もみあげ以外の髪を短く切り揃えた 男勝りな女…… ……そうです、クロス君の取り巻きの皆さんですね。 クロス君に目線を移しながら「クロス君……やっぱ、こういうのって あんま良く無いと思うの。」と軽く抗議する。 その言葉にクロス君は、ほんの一瞬 俺と目が合うと「なんの事かな?」と言って、そっぽを向き 肩をすくめた。 『分かりやすい嘘』をつくなんて、クロス君もまだまだだね。 という事で、クロス君と再び目を合わせようと、軽く身体を左右に振りながら覗き込もうとした。 しかし、クロス君の取り巻きの皆さんが俺の前に立ったことで、目論見はあえなく潰されてしまった。 「神聖な決闘の前だ。遊ぶのは程々にするのです。」 そう言うのは、メガネをかけた男だ。 「やだなぁ。こっちは茶番につきやってやってるゲストなんだよ?もうちょっと下手に出るべきじゃない?」と軽く挑発してみるもの、当の本人はガタイの良い男と相談しながら 手元の紙に何か書き込んでいる。 やだ、無視された。泣きそう。 余った男勝りな女は、俺の方を向くと「急な招集のため、一応確認だが……」と前置きする。 「事の発端となった此度の発言……今撤回するつもりはあるか?」 「いや、無いね。」 「そうか、分かった。」 男勝りな女はそう言い残すと、相談している男二人の元へ向かい、今のやりとりを報告する。 わぁ、完全に仕事モードだ。 「今、この決闘は成立した。これより学園式に乗っ取ったルールの下、クロス・セレティ、ヒイロ・ヘンドラーによる決闘を執り行う!」 その号令に、会場がワッと賑わい出す。 一方でクロス君は、少し複雑そうな表情を浮かべていた。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません