「…………。」 恐る恐るクロス君の方に目を向けると、腕を組み目を瞑ったまま、仁王立ちしていた。 俺たちと彼らの間に、一陣の風が吹き抜ける。 その後、風が収まってもなお、反応を示さないクロス君の姿に、 このままでは威厳が下がると思ったのか、クロス君の取り巻きたちが一斉に抗議を始めた。 ちなみに、クロス君の取り巻きは3名で構成されている。 一人目は クロス君よりも背が大きく、ガタイも良い大男。 「お、お前、クロス様になんて事を言うんだ!」 「だって、言われっぱなしは嫌だったもん。」 二人目は 逆にクロス君よりも背が小さく、メガネをかけた男。 「この方が、どれだけ苦労されて、この学園に通われていると思っているのですか!?」 「そりゃ、クロス君も相応に苦労はしてるだろうけど……。」 三人目は もみあげ以外の髪を短く切り揃えた、男勝りな女。 「大体、テメェの方こそ実力磨いてこいよ!この空振り野郎!」 「待って、その発言は俺に効く。」 そんな愉快な仲間達を相手に、しばらく口論を繰り広げていたが 「黙れ!」 その気迫あふれる一言に、思わず口をつぐんだ。 当の本人も驚いたようで、我に帰ると、一瞬あたりを見回し状況を確認すると、目を瞑り静かに一呼吸入れた。 そして目を開くと俺に対して「言いたいことは分かった。今の言葉に対する答えは追って連絡する。では失礼。」と、言い残し立ち去った。 ……おー、ここでの発言は控えたか。 かなり賢いな。自分が彼くらいの年齢だったときは、そんなこと出来なかった。 その場で息巻いて、周りの困惑と忌避の目を意に解さず、喚き散らし、余裕綽々といったツラをぶら下げる野郎に無謀にも立ち向かう。 色んなものを奴らに奪われて奪われて、最後に残った『プライド』を守るために立ち向かうのだ。 だが、必死に守ったそんなプライドも、今に思えば案外 不要だった。 真に守るべきは…… 「ヒイロ様?」 「あぁ、すまない。少し考え事をしていた。」 うん、本当にどうでもいい考え事だった。 いや、なんだよ、『真に守るべき』って。 守るべきものなんて無い。全くない。 「予鈴が近いね。急ごう。」 ただ、自分が自分である要素を理解してりゃいいんだよ。 俺の場合は『自由であること』 それが分かったら、あとはそれを奪われないように守るだけ。 理解するのにずいぶん時間を無駄にしたけど、まぁ、散々だった前世も無駄じゃなかったってことで。 さ、今日もあいつらをタガメに転生させるために頑張るぞ!!! と、息巻いてたのが数時間前の自分。 早速『自分が自分である要素』が奪われそうです。 午前の授業が終わり昼休みに入ると、学園内にどよめきが にわかに走った。 念の為、マインに調べさせたところ、しばらくして、『学園の掲示板が原因』との報告を受けた。 現物を確認すべく、マイン共に現場へ向かうと 真新しい紙が一枚貼られていた。 小難しい言葉がつらつらと書かれたが、要約すれば次の通りだった。 《クロス セレティ》 《ヒイロ ヘンドラー》 《双方同意の下、決闘を明日行う》 《負けた者は勝った者の 従僕となる》 《ルールは”学園式”を採用する》 《学園自治会》 なるほど。そうきたか。 これは、あれだね。 『主人公が噛ませ犬程度の奴をサクッとやっつけるだけなのに、無駄に華々しく描かれるデビュー戦』ってやつだね。
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