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……あ、そういえば、明日どこで決闘するかを聞きそびれてしまった。 まだクロス君の姿は見えるし、声をかけようか…… と思ったけど、先程の会話を聞いていた聴衆の視線が痛い。 あぁ…ちょっとヤバいかも。昔のことを思い出しちゃう。 今俺を見ている彼らに悪意が無いのは分かるのだが、それでも陰キャには、十分 致死性の毒物だ。 もう、あまりに遠い昔だから、どういう時にどういう奴がいたまで もう思い出せない。 けど、周囲からの視線の感触だけは、ありありと思い出せる。 クルリと半回転し「マイン、場所を移そうか。」とだけ告げると、間髪入れずに歩き始める。 少し急だったからか、マインは「は、はい。」と戸惑った声で応答した。 角を曲がるまで、視線は張り続けていた。 しばらく歩いて、手頃な空き教室を見つけたので入る。 そして、放課後までに調べて欲しいものを、マインに依頼する。 1つは先ほど聞きそびれた『決闘の会場』について。 もう1つは『クロス君が会得している秘剣』についてだ。 最後に「いつも頼ってばかりで申し訳ないけど、頼んだよ。」と告げると、マインは「何言ってんの?」と言って微笑んだ。 「もっと頼ってよ。」 上目使いで そう言い残すと、シュンという風切り音と共にマインは消えた。 マインの表向きの役割は『従者として俺の身の回りの世話をすること』なのだが、その実『諜報活動』を兼ねている。 ま、生まれが生まれなもんでね。 ……いや〜それにしたって凄いよね。 チート積んでる俺でさえ見逃しかけるほどの、身のこなし。 昔っから”素早さ”には定評があったけど、影を伝って移動する『影渡』ってスキルを身につけてから さらに磨きがかかってる。 加えて、五感が鋭い。 とりわけ視力は、遠近ともに強く、夜目への対応も早い。 戦闘能力もある程度ある。 それらの能力を買って、今の『従者 兼 諜報員』を担ってもらっている というわけだ。 さてと。 昼休みの時間も残りわずかだ。 教室に戻る前に、マインの出席率を守るための処置をしておかねば。 それにボチボチ一万字超えただろうし、ココらでチート能力でも発動させて、『クソテンプレ異世界転生小説』であることをアピールしておこう。 まず、先ほどまでマインがいた所に残っている”情報”をもとに、改造スキル『複製』で”マインと瓜二つの人形”を出現させる…… 次にこの人形に 改造スキル『並列思考』を結びつけて…… さらに、『並列思考』を自立化させるために、思考パターン”main_ver.18”を設定して……と…… これで”従者としての責務を全うしているマイン”にしか見えていない『偽マイン』が完成した。 一応本物と見分けがつくように、アホ毛の方向を逆にしているが『多少の雑談程度』ならバレないほどに精巧な作りだ。 その裏には、膨大な苦労があったわけだが……それをここでタラタラ書いてたら、話がダレるから、別の機会に。 と、どうでも良いことを思い出していると、自立運転し始めた偽マインが一歩、俺の方へと踏み出し言った。 「ヒイロの役に立ちたいんだよ。」 んん? 自立早々、何を言い出してんだ……? まさか、シンギュラリティでも起っちゃったか? ……いや待て。 エロゲもとい、ギャルゲをしこたまやってきた俺になら、この『脈絡のない一言』の意味が分かるはずだ…… さっき、マインは何を話してたか…… 改造スキル『複製』は、その場にあったモノを読み取り、再現する代物だ。 条件によっては、残留思念も読み取ることもあるが…… ……あぁ、なるほど。さっきの言葉の続きか。 『何言ってんの?』 『もっと頼ってよ。』 『ヒイロの役に立ちたいんだよ。』 ……か。 うーん、重たい。 気持ちは嬉しい。 隠キャ根暗オタクだった前世で、そんなことを言われたら、そのまま婚姻届けを出しに行きたいくらい嬉しい。 それでも、彼女を『世界を救い、タガメに転生させる』という”本来の目的”のための駒にするつもりは無い。 そのために、色んな事をしでかしてきたのだが……彼女だけは徹底してついてきた。 だから、彼女には『商人の倅の従者 兼 諜報員』として生きて欲しいと今は思っている。 俺という存在は異質で異物だ。 異界の知識と常識を携え、上位存在から『この世界で生きる意味』を与えられている。 そんな野郎に振り回されないで欲しい。 黙って俺を見つめる偽マインの頭を、精神年齢アラフォーの親心を持って撫でる。 偽マインは思考パターン”main_ver.18”に基づき「え、なに?なに!?」と言って驚く反応を見せた。 ……まぁさっき“親心”なんて言ったが、『子の親』になんか、なったことないんだよな。

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