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「えっへん」  自慢気に片手で木刀を掲げる少女。そのドヤ顔も萌える。 「へ……へぇ~。す、凄いね」  史実で武蔵が小次郎と対決した際、使用したと伝えられる木刀。この娘が掲げているのは、恐らく発泡スチロールか何かで出来ているんだろうが、結構なクオリティーだ。ただ一つ、俺の知っている史実と違う部分は、木刀の全体に五寸釘がびっしりと打ち付けられている事だ。それはまるで、八十年代のヤンキー漫画に出てくるような釘バット。いやいや、流石に武蔵はこんな卑怯な武器で小次郎を撲殺しないだろ。  「……それで小次郎と闘うつもりだったの?」 「如何にも。相手は巌流、佐々木小次郎。備前長光に対抗する為、念には念を……でござるよ。ぐふふふ」  どこぞのシリアルキラーの様なヤバい笑い方をする少女。なんか、やっぱ危ない子かも。いくら発泡スチロールとはいえ、釘はマズイ。こんなの警察に見つかったら、凶器準備罪で確実にお縄だ。 「あのさ、それ、ちょっと持ってみていい?」  釘木刀を没収する為、少女にそう促した。 「別に構わぬが、貴殿に持てるでござろうか?」  おいおい、舐めてもらっちゃ困るよ君。デカくても所詮は発泡スチロールでしょ。  少女から釘木刀を手渡された。 「──ぐぅおっ!」  は?   は!?   はぁ!?   ちょっと待て。なんだコレ! 洒落にならないくらい重いぞ!? これ、本物の木刀じゃねーか!  今までの人生の中で、俺の右手が受け取った重量物で一番重かったのは、ボーリングの球だ。しかし、少女から手渡されたこの釘木刀は、ボーリングの球など可愛く思えるぐらい重い。なんなら、少し手首を痛めてしまった程だ。 「大丈夫でござるか? 怪我は?」 「あ……あぁ、大丈夫だよ」  マジか。こんなにも重い木刀を片手で軽々と持ってたよな。もしかしたら、マジで宮本武蔵? いやいや、それはないない。だって女の子だし。万に一つあり得るなら、タイムスリップした際、タイムパラドックスが起きて女体化したとか? てゆーか、そもそもタイムスリップなんて現実にあるのか?  様々な憶測が頭の中を漂い始めたが、釘木刀を見てふと我に返った。  ヤバい。  発泡スチロールじゃなくてこれは本物の木刀だ。こんなの見つかったら、マジで警察沙汰だぞ。 「あのさ……」 「何でござるか?」 「とりあえず、ウチ来る?」

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