ムサシは浴衣姿で、ほのかに頭から湯気を立てている。 なにコレ。さっきと全然違うぞ。 身体からは、石鹸の爽やかな香りが漂い、更に湯上がりで頬っぺたが赤く火照っている。ヤバい、可愛さマシマシだ。 「じゃあムサシちゃん、すぐに食事の用意をするからもう少し待っててね」 「はい母上!」 おお、完全に懐いている。 まるで糠床から出して真水で洗った漬物の様に綺麗になったムサシは、居間をキョロキョロと見渡し、テレビが視野に入った瞬間、驚きの表情を浮かべた。 「こ、これは、さても立派な紙芝居にござるな」 出た。あくまで剣豪設定を貫き通しているのに感服する。そこまでやるなら、その設定に敢えて乗っかってやるか。 「これはテレビっていう機械……カラクリってやつだよ、観てみる?」 手招きすると、ムサシは両腕を少し広げて、パタパタと足音を立て此方に小走りしてきた。 「テ……テレビ?」 まじまじと画面を見つめるその姿は、本当に生まれて初めてテレビを見たかのような、そんな初々しさが全身から迸っていた。 そうだ。面白い事を思い付いた。 テレビを地上波からCS放送に切り替え、時代劇チャンネルを選択した。 「え~っと、今やってるのは……暴れすぎ将軍ぐらいか」 徳川吉宗が主人公の時代劇だ。ムサシがタイムスリップしてきたのだとしたら、これは未来の話になるんだよな? 画面に侍達が映った。丁度ドラマの後半、殺陣のシーンだ。どれどれ、どんな反応を示す事やら。 「……」 無言で時代劇を視聴している。どうやら、迫力のある殺陣のシーンに心を奪われている様子だ。 「侍達がこの薄い板の中で決闘している……」 おーおー、いいねいいね。本物っぽい言動じゃないの。多少驚きはしているものの、意外と冷静だな。設定にブレが出始めたか? 暫くムサシを観察していると、「は~い、お待ちどおさまぁ。ご飯よ~」と母さんが俺達を呼んだ。 テレビにかじりついているムサシを引き連れ、食堂へ移動した。
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