「う〜ん……おいし〜……」 頬を大きく膨らませながら、買い食いしているコロッケを頬張る少女。少女の頭には小さな丸い耳と、お尻には大きく丸まっているモフモフの尻尾が生えていた。 リスの獣人アリス。食べることが好きな彼女は、獣人の住む少し変わった異世界で、学校に通いながら平和な日々を過ごしていた。 「やっぱ下校中の買い食いは、 この背徳感からしか得られない 美味しさのアクセントが あるんだよね? ラビィちゃん?」 「いや何言ってんのか よく分からんけど……」 「ほんとアリスは よく食べるよねぇ〜……。 そんなに食べてお家が 破産したりしないの?」 「嫌だな〜ロップちゃん。 さすがにそんなには 食べないよぉ〜あはは〜」 仲良しのウサギの獣人ロップ。彼女にからかわれながら、コロッケを大事に味わいながら、帰路につくのであった。 「ただいまリス〜」 「あ、アリス……」 「あれ? どうしたの お父さん。今日は 早いじゃないの〜」 会社員のアリスの父。普段はまだ会社にいる時間帯に父が家にいたので、アリスは首を傾げていた。父親の傍らには母親もいた。2人はアリスに背を向け立ち尽くしていた。 「すみません……!! お金は必ず返しますので!!」 「……へ?」 両親の視線の先には、いかにもな反社会的な格好をしたサングラスの狼の獣人たちが立っていた。アリスの父は、ひたすら男たちに頭を下げていた。 「そんなペコペコされても 困りますよお父さん。 ウチらは貸したもん 返して欲しいだけなんですわ」 「その小さな耳を揃えて半年以内。 借金支払ってもらいますわ」 「はいぃ〜っ!! 必ず返しますので……!!」 「そんじゃまた来ますわ」 男たちはゾロゾロと、アリスの家から立ち去っていった。明らかに尋常ではない様子に、アリスは固まっていた。 「お、お父さん……? 今のは一体……?」 「まぁ、見ての通りだが?」 「見ても分からんよ! ちゃんと説明して!?」 「お父さんは会社の同僚の 借金を肩代わりして、 こんな有様になっているのよ」 「ええええええ……?」 母親から借金について聞かされ、開いた口が塞がらないアリス。コロッケで幸せな気持ちになっていたのが、遠い過去の記憶のようになっていた。 「どうするんですかあなた? このままじゃウチは 破産してしまいますよ……?」 「そ、そんなぁ……!?」 破産という言葉を聞きショックで崩れ落ちるアリス。冗談半分で聞き流していたことが、現実になってしまったのだ。 その日から、借金の工面をするため、アリス家の食事は質素な物になり、量も少なく、アリスはお腹を空かせた日々を送っていた……。 「アリス……? 大丈夫……?」 「だ、大丈夫だよロップちゃん……。 ただちょっと、お腹が空いて 毎日が絶望的なだけだから……」 「全然大丈夫じゃないからそれ……」 この世の終わりのような顔をしてフラフラと歩くアリス。ロップは気が気でなかった。 「しょうがないな……。 今日はあたしが何か おごってやるよ……!」 「え!? そ、そんな悪いよ……」 「いいからいいから! ほら! あそこのラーメン屋さん なんてどう!? アリス ラーメン好きでしょ……!?」 「うぅ……!! 好きだけども!!」 申し訳ない気持ちでいっぱいのアリスだったが、空腹には抗えず、ロップに連れられ、結局アリスは、ラーメン屋に足を踏み入れていた。 「ほらほら? アリス何が良い? 豚骨! チャーシュー! よりどりみどりよ! 遠慮しないで言ってみ!」 「う、うぅ〜……。 とんこつぅ……ちゃーしゅー……」 申し訳なさそうに店内のメニューを見渡すアリス。店の中は、スープや脂の匂いが充満していて、容赦なくアリスの胃袋を刺激していた。 その中で、一際存在感を放っていたメニューがあった。 「激流ラーメン……?」 店内の壁にデカデカと貼られたポスター。そこに写真が添えられていた激流ラーメンなるメニュー。ポスターには、大盛りチャレンジメニューと書かれていた。 「あっ! これ腹ペコの アリスにピッタリじゃん!」 「えぇっ!? でもこれ めちゃくちゃ高いよ!?」 「ほら、よく見てみ! 完食したらお代無料! さらに賞金贈呈! だってさ! 今のアリスのためにある ようなメニューじゃん!」 「すいませーん! 激流ラーメンひとつ!」 「ロ、ロップちゃん!!」 「あいよ! 激流ラーメン一丁!」 勝手にチャレンジメニューの激流ラーメンを注文してしまうロップ。だが、彼女たちを待ち受けていた物は、想像を絶するラーメンの姿であった……。
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