目の前にそびえる化け物ハンバーガー“3D”。アリスはそんな化け物を前にしても、様々な悩みごとで頭の中がいっぱいで、全く動じていなかった。 「よぉ! オレサマは 通称“3D”!! 今まで数々の客を喰ってきた この店のボスって訳よ!!」 ついには意思を持ち喋り始めた化け物バーガー。あまりの恐ろしさに店内の客は皆凍り付いている。 「小娘! これから オレサマが テメェを美味しく いただいてやるから 覚悟しやがれェ!!」 「うん。美味い……」 「えっ……?」 アリスを威圧する“3D”だったが、気が付くとすでにハンバーグの10段分が平らげられていた……! 「な、なんだとォ!?」 テーブルや床をも溶かすトロけすぎるチーズにも全く怯まず、アリスは黙々と“3D”を食べ続け高さを減らしていく……。 「や、やめろォ!! 喰うのはオレサマだ!!」 重なった体を大きく広げ、逆にアリスを飲み込もうとする“3D”。その間にもさらに10段、“3D”は低くなっていた……! 「肉厚でジューシーなパティ、 シャキシャキレタスと 濃厚なチーズ……。 シンプルな味わいだけど 不思議と病み付きになる……」 「こ、このガキ……!! こんなに美味そうに オレサマを喰ってやがる!?」 “3D”に舌鼓を打つアリス。今まで恐れられて生きてきた“3D”は初めての感覚を味わっていた。 「こ、これがお客に 美味しく喰われるって 感覚か……。ヘヘッ……。 悪く……ねェぜ……」 “3D”はアリスに完食され成仏した……。あっさりと店の化け物を平らげたアリスに、店は騒然となっていた。 「ごちそうさまでした……。 美味しかったです……」 ペコリと店員にお辞儀をすると、店の空気など気にせず、アリスはさっさと店を後にした。 「お腹は満たされたけど、 心が満たされない……。 私、どうしちゃったんだろ……」 激しい虚無感に包まれたまま、徘徊を続けるアリス。彼女は横断歩道を渡ろうとしていたが、その信号は赤く発光していた。 「ツラい……苦しい……! 誰か……助けて……!」 周りが全く見えていないアリス。彼女のすぐそばまで、大型トラックが迫っていた……! 「アリスっ!!」 間一髪! アリスは、勢いよく手を引っ張られ、歩道に引き戻された。アリスの手を掴んだ人物。それは……。 「ロップちゃん……!?」 アリスの前に友人のロップが現れた。突然のことにアリスは目を丸くしている。 「良かった……。心配して ずっと探してたのよ……。 メッセージ送っても全然 既読付かないし……! 家に行ってもいないって言うし!」 「メッセージ……? あっ! ごめん! 気付いてなかったよ……」 急いでスマホを確認するアリス。メッセージアプリには大量の通知が届いていた。 「耳を澄ましてずっと探してて、 そしたら微かに 声が聞こえてきたから 急いで駆け付けたのよ……」 「わざわざこんな暗い中、 私を探してくれたの……?」 友人の優しさに涙を浮かべるアリス。ロップは照れ隠しで頭を掻いている。 「それもあったけど……。 本題はこれ。あんたに 見せたい物があったの……」 「“食戦鬼GP”……?」 ロップはスマホでとあるサイトのページをアリスに見せた。そこでは、大食いの王者を決める大会の参加者を募集していた。 「なんで私にこれを……?」 「そのページの下、よく見て」 「え……? 下……。 ……ルビーちゃん!?」 大会の概要欄の下には、デカデカとルビーの写真が載っていた。彼女は、 前大会“食戦鬼GP”の優勝者だったのだ。 「あんたこの子に負けて 凄く悔しそうだったじゃない……。 だからこれに出場して リベンジしたらどうかなって……」 「悔しそう……?」 ロップの言葉にハッとなるアリス。今まで心につっかえていた物の正体がついに判明したのだ。ようやく虚無感の正体が分かり、アリスは涙を流していた。 「そ、そっか……。 私、悔しかったんだ……!!」 「えぇっ!? 自分で 気付いてなかったの!?」 「ゔん!! ぎづいでながっだ!!」 「まったくこの子は……。 あっ。それとここ。 この大会、賞金が 物凄いんだって! 優勝したら闇金の借金も 返せるんじゃないの?」 「ほんとだ……!! ロップちゃん……!! おじえでぐれで、 ありがどゔ……!! 」 「分かったから……! ほら、ハンカチ!」 アリスが無意識に求めていた物、それを全て用意してくれたロップ。かけがえのない親友の存在が、アリスにはとてもありがたかった。
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