「ただいま」 「おかえり。ご飯ならもう食べれるよ」 「ん、すぐ行く」 帰宅したあるては顕子と軽く会話を交わし、着替えと鞄を置くために自室に向かう。 (夕飯食べたら絵の続きだ。それと――) 今夜何をするかを考えながら部屋に入り、まずは鞄からスマートフォンを取り出して通知を確認する。 ぴよちゃん いーよー!寧ろ感謝だよー! 灯夜に謝ったことに対する返信が来ていた。 「感謝……?」 その文面の意味はあるてには理解出来なかったが、取り敢えず気にすることは無いと言うことはわかった。 (ま、まずは制服から着替えてご飯だ。あまり遅いと『何してるんだい! 早く来ないとジャイアントスイングするよ!』とか言われかねないし) 顕子の物騒な発言は本当に口だけとわかっていても、無駄に言われるのはやはり精神衛生上よろしくない。部屋着に着替えたあるてはそのままリビングへと向かった。 『あるちゃんの絵ぇ私は好きだけど、何て言うのかな。柔らかい表情とか極端な話垂れ目とか、そんな感じの絵って描かないよねぇ』 夕飯の最中、ふとあるては部活中に灯夜から言われた言葉を思い出す。この吊り目はあるて自身コンプレックスで――物心付いた頃からずっと見てきたこの顔が、絵柄にも影響していたと言う疑惑がそこにはある。薄々わかっていたが、再認識をさせられた。 (あ……) 目の前にいる顕子は、吊り目でなければ顔も似てるとは言えない。また、仕事からまだ帰宅していない父親も吊り目ではない。この家で吊り目はあるてだけだ。 (お母さんをベースにした女の子を描けば解決なのでは……?) こう思い付いたあるては軽く想像してみる。顕子を、自分の母親を、美少女にアレンジした姿を。 (いやいやいやいやおかしいおかしい! あーイカンって何血迷ったの私ぃ!) 「何だいあるて、何か愉快なこと考えてそうだね。顔に出てるよ」 「ソ、ソンナコトナイヨ?」 「ふーん? あたしゃてっきり、アンタん中のちっちゃいあるて達がぴーひゃらてんつく村祭りでもやってんじゃないかと思ったんだがね」 「やめっ、ちょっ……! 笑わせないでお母さ……」 食事中にも関わらず、あるては堪え切れない笑いに屈してしまう。 「あーあ、やっぱり愉快なんじゃないの」 待って、それは理不尽――と言いたかったが、笑いが治まらず何も言い返せなかった。 ――1分程経ち、あるては漸く落ち着きを取り戻し始めた。 「……で? 何考えてたんだい?」 あるてが落ち着くタイミングを伺っていた顕子が尋ねる。 「別に、大したことじゃないよ。ただ私とお母さんって顔似てないよなって思っただけ」 「まあ似てないね。でも娘は父親に似るって言うし、珍しいことじゃないよ」 「でも私、お父さんとも似てないよね?」 「そりゃそうさ。だってアンタ、お父さんが川で拾って来たワケだしね」 「何時の時代のネタよそれ?」 「ま、親子全員顔が似るってもんでもないし気にするこた無いよ」 何か上手いこと話を丸められているような感じがしたが、 「ああそうだ。明日の夜は他人丼にでもしようかねえ」 「……嫌いじゃないけど別のが食べたい」 これ以上この話をしても無駄だと諦めたあるては、あまり余計なことは考えないようにして夕飯を食べ進めた。
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