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しじみ こんばんは。一昨日は本当にごめんなさい もしもあるてさんがよろしければ、またお時間のある時にお話出来る機会をいただけたらと思います 返信お待ちしています  送信ボタンを押す。その直後、それは緊張なのか解放なのかわからない感覚に襲われ、道瑠は机に突っ伏した。 「ああぁぁぁ……」  思わず漏れる声と共に、力も抜けていく。 「なっさけないなー僕。兄さんと平木さんにここまでされないと一歩進めないのか……」  この独り言に己の無力さを実感する。座っていることすら疲れた道瑠はベッドに仰向けになり、ぼうっと天井を眺めた。 「……そりゃ悔しいよ、平木さんと比べたら。でも一番悔しいのは……いつまで経っても、兄さんに敵わないことなんだよ」  御影に言われたことを思い返し、意味無く天井に向けて伸ばした右手を眺めながら呟いた。  その頃、あるてはタブレットと睨めっこをしながらペンを走らせ、絵を描くことに集中していた。 (ちょっと違うな。もうちょっとここの色を――) 「ぅわっ!」  色々と考えながら作業をしているとあるてのスマートフォンから音が鳴り、驚いてしまう。大抵通知とは突然来るものではあるが、集中していた他に驚いた理由は、あまり聞かない着信音だったからだ。 (通話……? 誰から?)  あるてにとって誰かから通話が掛かってくることは珍しかった。スマートフォンを手に取り、画面を見る。 (……ぴよ?)  その着信は灯夜からだった。 「もしもし、ぴよ? 通話なんて珍しい」 『もしもーし。今大丈夫かな?』 「ん、大丈夫だけど」 『突然ごめんねぇ? ちょっと話があってー』 「話?」 『うん。そのー……ごめんなさい!』 「えっ!? ど、どうしたの急に?」  灯夜が突然謝ってきたことにあるては驚き、戸惑う。 『ここ最近の私の行いだよ。一昨日の休み時間から始まって、放課後にはあるちゃんに密着して慰めたり、結局聞くのをやめてあるちゃんを置いてけぼりにしちゃったり……』 「あっ…………、あッ………………」  理由を聞く中であるては特に、灯夜に慰められた時のことを思い出す。あの時は泣いていて、気持ちもいっぱいいっぱいで意識していなかったが、今冷静に振り返って当時の状況を理解する。パイプ椅子に座ったあるての両脚に、向かい合うような形で灯夜が跨りくっついていた。 「うっそ、マジで……?」  途端、あるての中で羞恥心が爆発を起こす。その結果顔は赤面し、激しく動揺してしまう。 『? あるちゃん?』 「ア、アンタ、まさか私をそう言う目で――」 『待ってー!? どうして何がそうなったの!? 確かに百合百合しいことしちゃったけどさあ!』 「百合百合しいとか言うな馬鹿!」 『落ち着いてあるちゃん! 私そっちの趣味は無いし、真面目に謝ってるんだから!』 「はぁ……はぁ…………。あー……もういいけどさ」  息を整えながらあるてが言う。 『ありがとー……と言いたいとこなんだけど、もう1つ謝らないといけないことがあって』 「今度は何?」 『これ聞いたら怒るかもだけど、まあ私への戒めってことで。実はね?』  ――――――――。 「ぴよおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!?」  灯夜から聞いた懺悔は、一昨日あるてが道瑠の前から逃げ去った後と今日の夕方とで2回、道瑠と接触していたこと。そして、かなり掻い摘んでだがその話の内容だった。 『何処までもお節介ってのはわかってるんだよぅ。でもあるちゃんって男の人との関わりってあまり無いし大丈夫かなって。……やっぱ、怒るよね』 「あーあー怒れるねこれは」 『……そうだよねぇ』 「アイツだけじゃなくぴよにまで良いようにされた私のチョロさに怒れる」 『そっち!?』  実際懺悔を聞いてあるてが感じたのは憤りよりも、驚きと困惑の方が強かった。 「いやアンタも要らんことしてくれたよ全く。明日学校で会ったらそのツインテの割れ目にチョップでもしないと気が済まない」 『やめてぇ! 私の頭蓋骨は砂糖細工なんだよう!』 「……けど、だから来たのかな」 『んー?』 「アイツから、謝罪と改めて話がしたいって来た」 (……やるべきことはやったんだね、あの馬鹿も)  灯夜は心の中で軽く道瑠を罵るが、その実、安心した。 『そっかー。それでそれで?』 「ちゃんと返したよ。ただ、まだ既読は……ん?」  あるてが一旦スマートフォンを耳から離して待ち受け画面を見ると、チャットアプリのアイコンの右上に『1』と書かれた赤丸があった。 「……え、いつの間に? ごめん、返信来てたからちょっと見るね」

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