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「なつみちゃん、椅子をどうぞ」 「お、お邪魔します……」  拓真先輩の部屋に正体され、椅子をすすめられた。なんだか変なことになったなぁ。  拓真先輩は、穏やかな微笑みを浮かべ、私を見つめている。その眼差しにドキドキする。ユネも体を小さく戻して、私の膝にちょこんと座る。 「あ、あの私の正体を誰かに……」 「安心して。誰にも言わないから」 「ありがとうございます。なぜ私を、ここに呼んだのですか?」 「話の前に、オレの昔の写真を見てくれる?」  差し出された写真を受けとり、ちらりと見て仰天してしまった。だって、その姿に驚いてしまったから。あどけなさが残る、可愛らしい容姿。今の拓真先輩の面影はあるものの、かなりふくよかで、肌も荒れていた。 「驚いたろ? 昔のオレはデブでニキビだらけだったんだ。悩んでたときに、叔母が経営するエステサロンを紹介してもらってね。ダイエット方法や肌の手入れの仕方、体や顔のマッサージとかを教えてもらった。努力して、今の姿があるってわけ」 「そうだったんですか……」  意外だった。拓真先輩は生まれた時から美しくて、才能に恵まれた人だと思ってたから。 「昔の姿を見て、オレのこと嫌いになった?」 「そんなこと、ないです。むしろ親近感が湧きました。先輩も悩むことがあったんだって」   拓真先輩は嬉しそうに笑顔を見せる。   「ありがとう。それで提案なんだけどね。なつみちゃん、肌のことで悩んでるだろ? 魔物から助けてもらったお礼に、君をキレイにさせてもらえないかな?」  先輩の意外な提案に、私とユネは驚き、声も出せなかった。  ◇ 「なつみちゃん、肌にふれるよ。いい?」 「は、はい。お願いします」  拓真先輩の提案を受け入れるかどうか悩んでいたら、ユネが声をかけてきた。 「なつみ、ずっと肌のことで悩んできただろ。彼から悪いものは感じない。気持ちだけでも受け入れたら?」  ユネに背中を押され、拓真先輩の気持ちを受け入れることにした。  拓真先輩はまず私の肌の状態を確認したあと、伯母さん直伝のフェイシャルマッサージをしてくれるという。  先輩のベッドにそっと横たわると、フェイシャルマッサージをじっと待つ。 「なつみちゃん、肌にふれるね。嫌だったら言ってね」 「お、お願いします」  先輩の顔がすぐ近くにある。私の顔をじっと見つめている。ああ、ドキドキする。心臓が飛び出してきそう……。  でもドキドキしたのはそこまでだった。  なぜなら、私の顔や首筋、肩を撫でるように行うマッサージはたまらなく気持ち良かったから。私の荒れた肌を刺激しないように、そっと優しく。思いを込めるように丁寧に。ああ、気持ちいい。体が溶けていきそう……。  いつしか私は先輩のベッドで、うとうと寝てしまっていた。 「……ちゃん、なつみちゃん、終わったよ」 「ふぁい!」    すっとんきょうな返事して飛び起きると、拓真先輩がにこにこと笑っていた。 「私、寝てました? はずかしいです……」 「いいんだよ、むしろそれが目的だから」 「どういうことですか?」  先輩の言ってることが全くわからない。 「君の肌荒れ、寝不足とストレスも大きいと思うんだ。でも魔法少女としての活動もある。ならせめて、オレの部屋でマッサージを受けてリラックスして、少しだけ仮眠をとったらいいと思って。これからはそうしなよ」 「でも先輩の迷惑になりますし」 「オレね、伯母さんのエステサロンの経営を、いずれ受け継ぎたいと思ってるんだ。だからこれはオレにとっては貴重な練習。何より、魔法少女である君を手助けしてあげられるなら、こんなに嬉しいことはないよ」 「先輩……」  こうして私とユネは、魔法少女としての戦いの合間に、拓真先輩の部屋へお邪魔するようになった。

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