犠牲者達の鎮魂歌
風
西からの風に乗ってくる、ふわりとして強烈な腐乱臭の源は、隣の小さな村の一角にある、小さな屍の山だった。 「いやぁ、助かりました。火葬技師になる人が少ないことと、この村に来たがる人が居ないこととで、困っていたのですよ。本当に、君が来てくれてよかった」 この村を治める細身の優男、成宮 和真が、笑って言った。 俺は愛想笑いをして頷きながら、屍を見た。そして、この村に来たがる人間がほとんどいない事に納得した。 屍は、殆ど獣人間だった。 先月、この地域の火葬技師が、町役場近くの社会教育センターの中ホールに集められた。そこで町役場の職員から、隣の村の斎場に行ってほしいと話があった。 皆が躊躇う理由が分からなかった俺は、手を上げた。 それでここに来たのだが、俺は今、その事を激しく後悔していた。 「後悔というのは、必ず事の後にあるものだ。事の前に悔いなどはないだろうからな」 いつか、高校の国語教師が言っていたのを思い出した。至極当然なそれが、異様に腹立たしかった。 「えっと……」 成宮は、困ったように俺を見た。俺はそっと応えた。 「私は相沢 翔大と申します」 「そうか、では相沢君。早速だが、彼らを火葬してくれるか?」 「……わかりました」 「ありがとう」 成宮は、優しく笑って言った。その目はどこか悲しそうだった。
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