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 この組織の目的は名称そのまま、「外界」からやって来た害獣の駆除だ。生け捕りできるようならそうするが、目的は駆除であるのでその限りではない。  ならば、その「外界」とは一体何か。正直なところ、分からないのだ。推測できる、としか表現はできない。  行方不明、神隠し、表現方法は色々あるだろう。ただ、突然人がいなくなるという現象があり、その代わりにと言わんばかりに別の何者かがそこに来る。このような怪現象がしばらく前から発生している。極稀に「帰ってくる」人間もおり、彼等は口を揃えて「異世界に行っていた」と宣うのだ。異世界とやらはいわゆるファンタジーめいた場所であり、皆が同じ場所に移動しているわけではないらしい。  この際、それはいい。乱暴な論調ではあるが。問題は、そこに現れる「何者か」だ。世界の均衡を保つかのように、消えてしまった者、もしくは者達と同じような「何者か」が現れる。そう、ファンタジー小説に出てくるような何者かだ。もしかしたら向こう側で同じように暮らしている一般人かもしれない。教養を持った生物かもしれない。これもまた、それはそれで別問題であるので置いておく。  厄介なのは、話の通じない獣。または話が通じても聞く耳を持たない者。その場で暴れ出し、収集のつかなくなる状態。実害が出る、という一点である。この問題に対し警察や公安や自衛隊、果ては神社仏閣教会秘密結社までてんでバラバラに対応していたところをまとめ上げ、系統建てたのが「外界由来害獣駆除班」だ。各組織はそのままに、駆除班が先頭切って接触・対処・駆除を行い、対処しきれないようなものやその後の研究、対策などの割り振りを行う窓口も兼ねる。他機関や組織が、こちらの問題に煩わされないように設立されたというのが最も正しい表現であろう。  適切な駆除を行うためには手段を選ばない。例え、未成年を業務に従事させることになっても。そんな、組織だ。 「でさ、今回の報酬は具体的においくらになるのさーナミおばちゃーん」 「だから班長と呼べっつっとろうが! えーと、八体を生け捕りだろ? えーと……ゴメン、厚労省に聞いて」 「えぇぇー」 「生け捕りだし建物の被害もなかったし、まあそこそこ足されるんじゃないか」 「私ね、頑張ったんだよー! 水道管溶かさないように気を付けた!」 「僕もねえ、アスファルトが元の硬度を超えないように頑張った!」 「おいバカども、それ当たり前のことだから。俺が毎回毎回毎回毎回言ってることだから」 「お兄ちゃん何にもしてないじゃん」 「てっめタマこのやろ、兄上の恩を忘れたか」 「何かしてもらったっけ?」 「てっめ」  アルバイトと言うより、お駄賃稼ぎ程度の感覚である。叔母である那美もそのつもりで三兄弟を引き込んだ。  駆除班は基本的に、特殊能力保持者によって構成されている。三兄弟は言わずもがな、真文も那美も能力者である。能力者ならば他の組織にもウヨウヨいるので、さりとて珍しいものでもない……内部的な感覚の話ではあるが。 「ま、額がはっきりしたら渡すから。今日は解散! そして私は寝る!」  そう言うなり、那美は引き出しから潰れたハムスターの形をした枕を引っ張り出し、速攻で机に突っ伏してしまった。すぐさま寝入ったようですやすやと寝息が聞こえてくる。 「うっわナミおばちゃん、瞬殺で寝やがった!」 「いつくらいになるのか教えてよぅ〜ナミおばちゃーん」 「いくらぐらいになるのか教えてよぅ〜ナミおばちゃーん」 「こんなところで寝たら、風邪を引いてしまいますよ班長ぅ」  背もたれにあった猫柄のブランケットを真文が肩に掛けてやり、結果として余計に寝入ってしまう訳だが仕方ない。困った真文がメモ帳に「大音量目覚まし時計」と書いてデスクの上に置き、出現した時計を二時間後にセットした。 「今日はこれで解散ということで。お疲れ様でした」 「はーい」 「帰りまーす」 「お疲れ様でしたぁ」  これは、『外界由来害獣駆除班』の彼等が行う業務の記録である。

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