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 言われて初めて、残りの二人も石像についている「長い何か」を注視した。 「くっついてるんじゃないのかもしれない、のかな……?」 「おいぃ〜キョウ〜言葉足んねえ〜」 「んっと……何て言えばいいのかな、えっと……これさ、刺さってるのかな?」 「刺さってる?」 「うん。刺さってるように見えるんだよね。何が刺さってるんだろう?」 「結構長いよね、三十センチ以上はある」 「いや、タマちゃん、もっとあるよ。長い」  鏡也の視線がふと鋭くなって、その長い物体の正体を見極めようとする。もっとよく見ようとかがみ込んだ、その時だ。ぶわり、と突風が三人を叩いた。思わず顔をそちらに向ける。 「え?」  双子が、起こった出来事を把握しきれず疑問の声を上げるのと、 「危ねえ!」  危機を察知した剣吾が思わず身を投げ出し双子をかばうのと、  飛来した影から何かが射出されたのは、ほぼ同時だった。  肉を裂く鈍い音。けたたましい鳴き声。羽音。  目の前に、巨大な鳥。体長二メートルはありそうな巨大さだ。赤い鶏冠。黄色いくちばし。白と黒が混ざった羽。そこだけ見れば普通の鶏と変わらないが、なによりまずはその大きさ。人間より大きな鶏など居ようものか。さらに奇妙なのは、長い尾羽の付け根あたりから伸びる爬虫類のような尻尾。蛇のような、トカゲのような、鱗すらある尻尾だ。  だが、問題はもっと別のところにあった。 「……お兄ちゃん!」  双子の、悲鳴にも似た声。剣吾の左脇腹を貫く長い物体は鈍色に輝く尾羽だ。長い長いそれが、まるで剣の如く硬化して彼の体に突き刺さり、しかし、血が出ていない。それどころか尾羽自体が輝きを失い、見る間に別の物体へと変化してゆく。まるで、石のように。  あまりの出来事に息すら止まってしまう双子。体がすくむ。迫る巨大な鶏。目が合う。動けない。  張り詰めた恐怖を打ち破ったのは、旋風のような速さで飛び込んできた人影だった。 「させるかああああッ!」  鶏の右翼を片手で掴み、引き寄せると同時に空いたもう片手で下からくちばしを鷲掴む。足元を払いながら思い切り鶏の頭部を地面へと叩き付けると、重量のある音が響いた。すかさずとどめを刺したいところだったがそうはいかない。長い爬虫類のような尾が鞭の如くしなり、飛び込んできた人物を襲う。咄嗟に翼を掴んでいた手で防御し、逆に自らの腕に巻きつけて固定した。 「お二人とも、大丈夫ですか!」 「ま……真文さん……!」  暴れる巨大鶏を組み伏せたのは、ここの家主をなだめていたはずの真文だった。片方の翼をなんとか足で踏みつけ、抵抗を弱めようとする。 「この個体は、コカトリスです!」  バサバサとやかましい羽音に負けじと、真文は声を張り上げた。  コカトリス、雄鶏と蛇が合わさったような見た目であると言い伝えられる怪物。まさに、目の前にいる怪鳥はそれであった。  伝承に曰く、毒を持つであるとか、その視線を受けると命を奪われるであるとか、もしくは焼かれてしまうであるとか、石になってしまうであるとか。 「前に出現したものと同じであるなら、石化が始まっています! 剣吾さんの体が……!」 「石化?!」

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