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 ルイーズは暗黒龍のウロコを出し、ヴィクトルに返す。 「これは凄い役に立ったよ。さすがヴィクトル」 「迫力が圧倒的だからね」  ヴィクトルはニヤッと笑った。  ギュアァ!  暗黒龍がドヤ顔っぽいしぐさで重低音を発する。 「本当にありがとうございました」  ルイーズは暗黒龍に深々と頭を下げた。  暗黒龍はうれしそうにゆっくりとうなずく。  ヴィクトルは満足げに微笑み、大きく息をついた。  そして、胸に手を当て、ルイーズに向かってひざまずいた。 「さぁ領主様、ご命令を!」  兵士も騎士も静かになり、みんなが二人をじっと見つめる……。  ルイーズはそんな様子を見回すと、背筋をピンと張って魔物の群れを指さし、やや緊張した声で命じる。 「ヴィクトルよ、魔物を一掃するのだ!」 「かしこまりました。領主様!」  ヴィクトルはそう言って一歩下がり、顔をあげた。  二人はじっと見つめ合い、そしてニコッと笑い合う。  ヴィクトルはローブの袖をバッとはためかせながら振り返り、暗黒龍を見て言った。 「ルコア! 出撃だ! シールドは任せた!」  ゆっくりとうなずく暗黒龍。  ヴィクトルはニヤッと笑うとタンっと跳び上がり、そのままツーっと上空に飛んでいった。  パタパタと風に揺れる青いローブをそっと押さえ、これから始まる激闘の予感にブルっと武者震いをするヴィクトル。  ルコアも飛び上がり、天に向かって ギュウォォォォ! と叫ぶ。その恐ろしいまでの重低音の咆哮ほうこうは辺り一帯に恐怖を巻き起こし、襲いかかってくる魔物たちですら足を止める程だった。  直後、オーロラのような金色の光のカーテンが天から降りてきて街の外周を覆った。 「うわぁ~!」「すごいぞ!」  歓声が上がる。  その光のシールドはキラキラと光の粒子をまき散らし、厳粛なる神の御業のように見えた。  ヴィクトルは押し寄せる津波のような魔物たちを睥睨へいげいすると、フンッ! と全身に気合を込め魔力を絞り出した。ヴィクトルのMPは二十万を超え、魔術師千人分の規模を誇る。その圧倒的魔力が青いローブ姿の子供の全身を覆い、激しい輝きを放つ。  ヴィクトルは両手を大きく広げると魔法の術式のイメージを固め、緑色の精緻で巨大な魔法陣をババババッっと数百個一気に展開した。  見たこともない複雑で巨大な魔法陣が一気に多量に出現し、見ていた兵士たちはどよめく。  ヴィクトルはさらに魔法陣に通常以上の魔力を注ぎ込み、オーバーチャージしていった。魔法陣たちはギュイィィ――――ンと響きはじめ、パリパリと細かいスパークをはじけさせる。あまりの魔力の集積に周囲の風景は歪み始め、一触即発の緊張感で皆、息をのんだ。  さらにヴィクトルはその魔法陣群の手前に今度は真紅の魔法陣を同様に数百個展開させる。  緑に輝く魔法陣群と真紅に輝く魔法陣群は、お互い共鳴しながらグォングォンと低周波を周りに放った。  巨大なエネルギーの塊と化した緑と赤の巨大な魔法陣群、そのただ事ではない威容に、見ている者の目には恐怖の色が浮かぶ。  ヴィクトルは最後に緑の魔法陣群の角度を微妙に調節すると、城壁の上の兵士たちを振り返り、 「総員、衝撃に備えよ!」  と、叫んだ。兵士たちはこれから起こるであろう恐ろしい猛撃に怯え、みんな頭を抱えうずくまる。  ヴィクトルは麦畑を覆いつくす十万匹の魔物たちを指さし、 「爆裂竜巻グレートトルネード!」  と、叫んだ。  緑色の魔法陣は一斉にはじけ飛び、強烈な嵐を巻き起こし、一気に魔物たちを襲う。  それは直径数キロはあろうかと言う巨大な竜巻となり、魔物たちを一気に掃除機のように吸い上げていった。  大地を覆っていた十万匹もの魔物は、超巨大竜巻の暴威に逆らうことができず、あっという間に吸い集められ、宙を舞う魔物の塊と化した。  それを確認したヴィクトルは、 「絶対爆炎ファイヤーエクスプロージョン!」  と、叫ぶ。  真紅の魔法陣は一気にはじけ飛び、次々と激しいエネルギー弾が吹っ飛んで行った。  直後、天と地は激烈な閃光に覆われ、麦畑は一斉に炎上、池も川も一瞬で蒸発していく。  白い繭のような衝撃波が音速で広がり、小屋や樹木は木っ端みじんに吹き飛ばされ、金色のカーテンにぶつかるとズーン! という激しい衝撃音をたててカーテンがビリビリと揺れる。  その後に巻き起こる真紅のキノコ雲。それはダンジョンで見た時よりもはるかに大きく、成層圏を超えて灼熱のエネルギーを振りまいていった……。  ルイーズたちも兵士たちも、そのけた外れの破壊力に圧倒され、見てはならないものを見てしまったかのように押し黙り、真っ青になる。そして、はるか高く巻き上がっていく巨大なキノコ雲をただ、呆然と見つめていた。  あの可愛い金髪の子供が放ったエネルギーは、街どころかこの国全体を火の海にできる規模になっている。今は味方だからいいが、これは深刻な人類の脅威になりかねないと誰もが感じ、冷や汗を流していた。 3-19. 妲己襲来  十万匹の魔物は消し飛んだはずである。しかし、ヴィクトルの表情は険しかった。  ヴィクトルはMP回復ポーションをクッとあおり。キノコ雲の中の一点を凝視する。  ヴィクトルは何かを感じると、急いで金色のシールドの魔法陣をバババッと多重展開する。直後、キノコ雲の中から飛んできたまぶしく光輝く槍『煌槍ロンギヌス』がシールドをパンパンと貫き、軌道がずれてヴィクトルの脇をすり抜け、そのまま光のカーテンを貫くと城壁に直撃した。  ズーン!  城壁が大爆発を起こし、大穴が開く。  渾身の多重シールドがあっさりと突破されたことに、ヴィクトルは冷や汗がジワリと湧いた。やはりレベル350オーバーはなめてはならない。伝説にうたわれた全てを貫く奇跡の槍、『煌槍ロンギヌス』は本当にあったのだ。 「ルコア! 妲己が来たぞ!」  ヴィクトルが魔法陣を次々と展開しながら叫ぶ。  ギュアァァァ!  暗黒龍は咆哮をあげると、巨大な金色のシールドの魔法陣を次々と展開して妲己の猛攻に備えた。  ルイーズは新たな敵の出現に驚愕する。 「だ、妲己だって!? 伝説の妖魔じゃないか! なぜそんな奴が……」 「に、逃げましょう」  宰相はルイーズの手を取り、そう言ったが、ルイーズは首を振り、 「弟が我が街を守ってくれてるのです。見守ります!」  そう言って、青いローブを風に揺らす小さな子供を見上げた。  兵士たちも逃げることもなく、暗黒龍を従える人類最強の子供と、伝説の妖魔の戦いを固唾かたずを飲んで見守った。 「風刃ウィンドカッター!!」  ヴィクトルは、そう叫ぶとキノコ雲に向けて無数の風の刃を放った。ブーメランのような淡く緑色に光る風の刃は、まるで鳥の大群のように編隊を組んで紅蓮ぐれんのキノコ雲へと突っ込んでいった。  すると何かがキノコ雲の中から飛び出し、風の刃を次々と弾き飛ばしながら高速で迫ってくる。  ヴィクトルは真紅の魔法陣をバババッと無数展開すると、 「炎槍フレイムランス!!」  と、叫んで一斉に鮮烈に輝く炎の槍を放った。  激しい輝きを放ちながら、炎の槍の群れが一斉に敵に向かってすっ飛んでいく。  しかし相手は金色の防御魔法陣を無数展開しながら構わずに突っ込んでくる。  炎槍フレイムランスは魔法陣に当たり、次々と大爆発を起こすが、相手は速度を緩めることなく爆炎をぶち抜きながら一直線にヴィクトルを目指して飛んだ。  そして、手元には閃光を放つエネルギーを抱え、目にも止まらぬ速さで撃ってくる。  ヴィクトルは慌てずに銀色の魔法陣を展開し、飛んできたエネルギー弾を反射し、逆に相手へ向かって放った。  相手は急停止すると、手の甲であっさりとエネルギー弾を受け流す。  エネルギー弾は地面に着弾し、大爆発を起こした。  立ち昇るキノコ雲をバックに、相手はヴィクトルをじっと品定めするように眺め、 「小童! たった一年でよくもまぁ立派になりしや」  と、嬉しそうに叫んだ。  黄金の光をまとい、ゆっくりと宙を舞う黒髪の美しい女性、それはやはり、一年ぶりの妲己だった。赤い模様のついた白いワンピースに羽衣は、初めて会った時と変わらず上品で優雅な雰囲気を漂わせている。 「あなたに勝つために一年地獄を見てきましたからね。しっかりとお帰り頂きますよ」  ヴィクトルはそう言って平静を装いながら、秘かに指先で何かを操作した。 「ふん! たった一年でなにができる!」  そう言うと妲己は何やら虹色に輝く複雑な魔法陣を並べ始めた。それは今まで見たことのない面妖な魔法陣。ヴィクトルは顔を引きつらせながら必死に指先を動かす……。  直後、妲己の髪飾りに空から青い光が当たる。それを確認したヴィクトルは叫んだ。 「殲滅激光エクスターミレーザー!」    激しい真っ青な激光が天空から降り注ぎ、妲己を直撃する――――。  ズン!  妲己は真っ青な閃光にかき消され、同時に激しい爆発が巻き起こり、吹き飛ばされた。  地上二百キロの衛星軌道に設置された魔法陣から放たれた青色高強度レーザーは、全てを焼き尽くす爆発的エネルギーを持って妲己の頭を直撃したのだ。伝説の妖魔といえども無事ではすむまい。 「よしっ!」  ヴィクトルは確かな手ごたえを感じていた。  爆煙が晴れていくと、地面にめり込んだ妲己がブスブスと煙をあげながら黒焦げになっている。 「やったか……?」  ヴィクトルは恐る恐る近づいて行く……。  ボン!  いきなり妲己が爆発し、爆煙が巻き上がる。  何が起こったのか呆然とするヴィクトルの前に、爆煙を突き破って巨大な白蛇が現れた。なんと、第二形態を持っていたのだ。 「よくもよくも!」  白蛇は鎌首をもたげ、ギョロリとした真っ赤な瞳でヴィクトルを凝視すると、巨大な口をパカッと開け、ブシャー! と、紫色の液体を吹きかける。  ヴィクトルはあわててシールドで防御する。しかし、液体は霧状になり、ヴィクトルの視界を奪った。  その間に白蛇は真紅の魔法陣を次々と展開していく。  ヴィクトルは視界を奪われた中でその動きを察知した。チマチマとしたやりあいではらちが明かないと感じたヴィクトルは、イチかバチか間合いを詰める魔法『縮地』で瞬時に白蛇の目前まで跳んだ。  目の前には真紅に輝くたくさんの魔法陣、そして真っ白な大蛇……。  ヴィクトルはすかさず、巨大な銀色の反射魔法陣を展開した。  同時に放たれる白蛇の究極爆炎エクストリームファイヤー……。  果たして白蛇渾身の火魔法は、発射と同時に跳ね返され白蛇自身に着弾した。  ぐわぁぁぁ!  強烈な閃光が天地を覆い尽くし、爆発のエネルギーが周囲を焼き尽くす。  妲己は断末魔の叫びを上げながら自らの炎で焼かれていったのだった。  ヴィクトルは焼かれて消えていく妲己の魔力を感じながら、この一年の辛かった地獄の修業を思い出す。何度も何度も殺されて、殺される度に妲己を倒す一念で立ち上がっていたあのダンジョンの日々……。そう、この瞬間のために耐えてきたのだった。  ヴィクトルは静かにこぶしを握り、唇を真一文字に結ぶとグッとガッツポーズをする。  ステータスは圧倒的にヴィクトルの方が上だったが、レベルは妲己の方が上であり、思ったより危なかった。さすが伝説の妖魔である。  ヴィクトルは妲己の見事な戦いっぷりに敬意を表し、黙とうをささげた。

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