翌年、冬の嵐が終わると本格的な工事が始まる――――。 ワーカーロボットたちが切り立った岩壁に強固なくいを打ち込み、足場を作っては登っていく。時には斜度八十度に迫るまさに断崖絶壁だが、ロボットたちは文句を言うこともなく二十四時間体制で次々とくいを打ち込み続けた。 中には強風で振り落とされて転落していくロボットもあったが、粛々と別のロボットが穴を埋めていく。 世界の屋根、断崖絶壁に囲まれた渓谷には重機のうなる音、杭を打つ音が延々とこだまし続けた。 「頑張れ~! それいけ~!」 黄色いヘルメットをかぶったシアンは水色の作業服で管理棟の屋根に立ち、楽しそうにワーカーロボットを応援する。 「ちょっと! どこに乗ってるんですか!? 一メートルでも『一命取る』。危ないですよ、すぐに下りてください!」 下からエンジ色の作業服に身を包んだレヴィアが、こぶしをブンブン振りながら、怒って叫んだ。 「だいじょぶ、だいじょぶ!」 シアンはおどけた様子で、バレエのようにクルクルと屋根のてっぺんで舞う。 「うわぁ! やめてください!」 レヴィアは青い顔で叫んだ。 直後、ビュウと強い風が吹き、シアンはバランスを崩す。 あれ? 不思議そうな顔をしながら屋根に落ち、 うわぁぁぁ! と、悲鳴をあげながらゴロゴロと屋根を転がり落ちるシアン。 きゃぁぁぁ! レヴィアは目をギュッとつぶって叫んだ。 刹那、バシュン! と、破裂音が響き、ゴゴゴゴ――――と轟音が上がる。それは聞きなれない異様なサウンドだった。 きゃははは! と、楽しそうなシアンの笑い声が響き、レヴィアがそっと目を開けると、シアンは空を飛んでいた。 はぁ!? シアンは腰のあたりから轟炎を噴射しながら軽やかに宙を舞い、両手を高々と掲げながらレヴィアの前にシュタッと降り立った。 「ほうら大丈夫!」 シアンはドヤ顔でレヴィアを見た。 レヴィアは呆れた顔で聞く。 「い、いつの間にそんな改造してたんですか?」 「え? 冬の間暇だったじゃん?」 「暇!? メタアースはどうしたんですか? 私はずっと設計してましたよ?」 鬼のような形相でシアンをにらむレヴィア。 「あ、いや、そのぉ……。ロケットエンジンのテストが……いるじゃん?」 目が宙を泳ぐシアン。 「ボディに埋め込む必要はないですよね?」 レヴィアはずいっとシアンに迫り、首をかしげながら聞く。 「いや、ロケットの気持ちにならないとさ。はははは……。さらばっ!」 そう言うと、シアンはロケットエンジンを最大に噴射して一気に飛んで逃げた。 「あっ! ちょっと!」 噴煙を一直線に空へと描きながら空高く飛んでいったシアンをにらむレヴィア。 「……。もう、あの人は……」 直後、激しい閃光が空を覆い、大爆発を起こした。激しい爆発の衝撃が山々にこだまし、レヴィアを襲う。 ひぃ! 思わず倒れ込んでしまうレヴィア。シアンのロケットエンジンが爆発してしまったに違いない。 シアンだったものの破片が辺り一面にバラバラと降り注いだ。 ゆっくりと高く昇っていく黒煙を恐る恐る見上げ、レヴィアは真っ青になってブルブルと震えながらおののいていた。 開発中のロケットエンジンなんか自分に埋め込んではいけないのだ。レヴィアはいきなり訪れた惨劇に言葉を失う。 もちろん、ボディにシアンの本体が入っているわけではない。とはいえ、全ての感覚神経をつないだ先のボディが吹き飛んでしまったら、シアンのAIの回路が焼き切れてもおかしくない。 あわわわ……。 レヴィアは頭を抱えた。世界にはもう二人しかいないのだ。シアンが壊れてしまったらもうレヴィアはこの世に独りぼっちとなってしまう。 それは何億年も続くだろう永遠の孤独。考えるだけで震えがきてしまうすさまじい絶望だった。
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