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よく晴れた午後、ウインドランドの街は買い物客や旅人で賑わっている。街のほぼ中央にある宿屋兼食堂の「ナイス亭」も満員の客でごった返している。 「ビールはまだか?」 「肉の丸焼き、早くしてよ!」 客たちは店員に次々と注文や催促をしている。 「待ってな、今持ってくからよ」 店主のリチャードは調理場から笑顔で返事をする。昼に忙しいのはいつものことだ。客の不平にも慣れている。そう言う間に大きな肉の丸焼きを大皿に載せた。 「リナ、気を付けて持ってけよ」 「まかしといてよ!」 リチャードはウエイトレスをしている娘のリナに大皿を手渡し、次の調理に取り掛かる。リナは慎重に両手で大皿を運び、待ちくたびれた客のテーブルに置いた。 「おまたせ!当店自慢の肉の丸焼きでーす」 客たちは待ってましたと言わんばかりに、肉にかぶりつく。このナイス亭は料理に定評があり、常連客はもとより観光客にも人気がある。 朝から夜まで目の回るような忙しさだが、店員はみんな慣れっこだ。調理は店主のリチャードが担当し、おかみさんのジーナは調理の補助と会計、娘のリナと息子のエドはウエイターをしている。それと、もうひとり・・・ 「まったく、この忙しいのにあの子ときたら!」 そう、ナイス亭にはもうひとり、息子がいる。その息子は何をしているかというと・・・ 「どこかに隠れる場所はないかな?」 少年は森の中を、隠れ場所を探して走り回っていた。近所の子どもたちと、かくれんぼをして楽しんでいる彼こそナイス亭の長男、アズナだ。 「でもいいのか、店は忙しいんだろ?」 友達のトムが心配そうに聞く。アズナは平然として 「ん?いいんじゃない」 まったく気にする様子もなく答える。アズナは小さい頃から店の手伝いをせず、遊び回っていた。 父親のリチャードは、アズナが15歳になる来年から本格的な修業をさせようと思っていたので、特にとがめることもしなかった。しかし、店の手伝いくらいはしてほしいと思っている。 当のアズナはそんなことはお構いなく、毎日をエンジョイしていた。決して悪いことはせず、穏やかでのんびり屋の気の良い少年だが、責任感が無いのが玉にキズだ。 「俺、あっちに行ってみるよ」 アズナは森の奥深くまで行った。この辺は昼でも薄暗くて、来たことがなかった。 背丈と同じくらいの草をかき分けて進んで行くと、木々の木洩れ日に光っているものが見えた。近づくと、地面に何かが刺さっている。 「何だこれ?剣みたいだけど」

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