そこへミモザが保冷剤を抱えて戻ってきた。 「あっ、愛花、いいところにっ」 アキが笑顔で出迎える。 「えっと、私、愛花と麗音さんと三人でちょっと相談したいんですけど、会長さんと新堂さんは少しの間だけ外に出ててもらってもいいですか?」 その言葉に衝撃を受けたのは陸空だった。 「…………ぇ……」 掠れた声がポツリと落ちる。 「会長らは貴女らが心配なようだ。そちらの録音室からなら、こちらの様子がガラス越しに見えるだろう」 麗音の配慮に、陸空が頭を下げる。 「ありがとう」 「えっ、何? 俺何させられんの? えっ、どゆこと!?」 不安を口にする新堂を引きずるようにして、陸空は隣の録音室に入った。 ミモザはその間に手早く保冷剤にハンカチを巻き付けて、殴られた麗音の頬の冷却を始めていた。 「怪我について問われなかったのか?」 麗音の問いにミモザは申し訳なさそうに目を伏せる。 「えと……部長さんが……転んだって言っちゃいました」 「構わん。むしろ好都合だ」 少しだけ優しげな声の響きにミモザはハッと顔を上げる。 痛みもあってか、麗音の表情はしかめ面のままだったが、この人は最初に会った時から礼儀正しくて優しい人だったんだ。とミモザにもようやく理解できた。 三門の言っていた通りだった。 どうして私は友達の言葉すら素直に信じられなかったんだろう。 「……っ、私……」 ミモザの視界が滲む。 この人に怪我をさせてしまったのは、私が人を信じられなかったからだ。 自分の身の安全ばかりを願って、空さんまで振り回して。 「失敬だが、落涙は堪えていただけまいか」 「ぇ?」 顔を上げれば、麗音はそのままの姿勢でミモザにハンカチを差し出していた。 ミモザ自身のハンカチは今麗音の頬を冷やす保冷剤に巻き付けられているし、アキは「ごめん愛花、私ハンカチ持ってないんだよね」と苦笑している。 ミモザは麗音のハンカチをありがたく受け取った。 「貴女が涙すると、我がまた殴られそうだ」 麗音の言葉に、ミモザが驚きを浮かべる。 「あ、ミモザ。新堂さんは、愛花が涙目で麗音さんが私達の上着持ってたから、無理矢理脱がされたのかと思ったんだって」 「!?」 「よくそんな漫画みたいなこと思いつくよねー。私も会長も驚いたよ」 笑いながら、アキが続ける。 「新堂さん、麗音さんに土下座してめーーっちゃ謝ってたし、愛花に嫌われたかもってすんごいショック受けてたから、その……あんまり避けないであげてくれたら、いいなーって思うんだけど」 「う、うん……」 ミモザには覚えがあった。 今までも繰り返し、迷惑をかけてしまったと謝罪し、悔やんでいた人。 その上、少女漫画のような展開を思い描いてしまう人。 空さんが会長で間違いないとしたら、その会長と一緒に私達を助けに来てくれる人って……。
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