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空はしばらく指を彷徨わせてから、慎重に言葉を選んだ。 『アキさんは、批判コメントがきて辛くない?』 『傷付きはしますよ、誰でも意地悪なこと言われれば嫌な気分になるもんです』 アキからの返事は早い。 彼女はこの文字を迷いなく打ってるんだろうか。 『そうだよね……』 『でも大丈夫ですよ、あんまり気にしてませんから。うち双子の弟と妹がいるんですけど、私がゲームで一人勝ちとかすると「ばーかばーか」って言うんですよ。「お姉ちゃんなんか大嫌い」とか言われたら、結構傷付くんですけど、二人とも私の事本当は大好きですからね』 ……? 彼女は文字入力中らしい、空はそのまま次の言葉を待った。 『そこに書かれたコメントの言葉が、その人の思いの全てではないと思いますし、その日は運悪く、その人にとってすごく嫌な事が重なってたのかも知れないし』 まさか、批判コメントした人を擁護してくるとは思わなかった。 『私だって三日もおやつ抜きで暮らしたら、その辺ですれ違っただけの人にも悪態ついちゃうかもしれません!』 ぐっと力こぶのムキムキスタンプが届く。彼女からこのスタンプをもらうのはこれで何度目だろうか。 あの子なら、本当に力こぶくらい作って話をするのかも知れない。 『そ、そう……かな?』 僕ならおやつ抜きでは荒まないけど、色々な事情で荒んでいる人がネットにもいるのだろう。 『だからそんなに気にしてませんよ。毎回面白いコメントくれる人もいますし』 『面白いコメント?』 『そうなんです、このLeonNoteさんって人なんて、毎回そんなテンションで大丈夫かなって心配になるくらい、絵文字連打ですごいんですよーっ』 添えてあるURLのコメント欄を見れば、ものすごい数の絵文字で飾られたハイテンションなコメントがあった。 「っ、ぶふふっくっ……ふふっ、あはははははっ」 確実にテンションがおかしいコメントは、読んでると心の底から「大丈夫か、しっかりしろ」って言いたくなる。 『あはは本当だ、熱烈なファンみたいだね』 「……だからさあ、なんでそんな大爆笑になんの? お前、アキちゃんのお悩み相談に乗ってんじゃねーの?」 呆れ顔の大地にもスマホを見せれば、やはり爆笑した。 「っ……せ、線が真っ直ぐ引けねーだろ……」 『LeonNoteさんも、空さんの曲のおかげで出会えた、大事なファンです』 僕の……、おかげ……? 『空さんに話したら、何だか心が軽くなりました。ありがとうございますっ』 あ、どうしよう。話を切り上げられてしまう。 まだ、どうして彼女が泣いていたのか、肝心の部分がそのままなのに……。 『実は私、今日ちょっとへこんでたんです。でも空さんと会長さんに励ましてもらったから、いつもより元気になっちゃいましたっ』 今だ! 『へこんでた? 何かあったの?』 慌てて送信ボタンを押す。ここを逃したら、もう聞き出せそうにない。 ……ん? 会長……? よく見れば、彼女が励まされたという人は僕と僕だった。

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