靴を脱いで靴箱にしまう。上履きを下ろした時には耳まで真っ赤だった。 ……か、会長さん、私の事覚えてくれてたんだ……。 『おはようございます』も心なしか優しかったのに、あの優しげなイケボで『今日は早いね』……なんてっ! あああ、こんな事なら録音しながら通ればよかった! いやいやだめよアキさん、それは盗み録りと言うものだわ。犯罪よ……。 でも私に向かって話しかけた言葉なら、個人で楽しむ範囲なら……(※事前承諾のない録音行為は犯罪です) 「アキちゃん?」 「ひゃぁぁっ、まだしてませんっっ!」 急に声をかけられて慌てて振り返れば、ミモザだった。 「……何を?」 不審そうに見つめられて、真っ赤なままで引き攣り笑いを返す。 「犯罪」 「……アキちゃん?」 というか、ミモザまだ来てなかったんだね。 私はよっぽど早く学校に来たみたいだ。 「アキちゃんが私より早いなんて珍しいと思ったら……一体何をしようとしてるの?」 「ご、誤解だよ。私は何も……」 そこまでで、当初の目的を思い出す。 「じゃない! 空さんから曲が届いたのっ、聞いて聞いてっっ!!」 「えっ、ほんと!?」 ミモザの席で、私のスマホで再生した曲をイヤホンで聞いてもらう。 どうかな? すごいよね? すごいでしょ? 色々言いたいけど、聴き終わるまで我慢我慢。 ミモザは目を閉じて、両手で両耳を押さえて静かに聞き入っている。 しんと静まり返った朝の教室には、まだ私とミモザしか来ていない。 スマホに表示されている曲の進行状況バーを見ながら、あと何分、あと何秒……とひたすら数えて、曲が終わったところでようやくミモザが目を開いた。 ミモザの瞳にうっすら涙が溜まっている。 あ。ええとハンカチ……。は、持ってきてなかった。 今日は朝から何をおいても学校に来てしまったんだった。 ミモザはシワひとつないハンカチを取り出すと、すっと目頭を押さえる。 朝の清らかな光が差し込む窓際の席で、その姿はまるで一枚の絵画のようだ。 「ほわぁぁ……すごぅい……」 「ねっ、凄いよねっ!?」 ミモザがため息と同時に吐き出した感想に、すかさず食いつく。 「私……、もう、今日が命日でもいい……」 「ちょっ、死なないでよミモザっっ」 「学校ではそう呼ばない約束だよぅ?」 「あっ。そうだった。ごめんごめん」 周りに人がいないからか、感動中だからか、ミモザの指摘はいつもより優しい。 「空さん、私達の歌なんて言ってた?」 「素敵な歌声をありがとうございますって書いてあったよ。あとにゃーちゅーぶにアップしてもいいですか? だって。いいよね?」 私は空さんからもらったDMを開いてミモザに見せる。 「う、うん……。でもなんかこれ、素敵になりすぎてて詐欺っぽくない?」 ミモザの言葉に私は思わずふき出した。
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