一方、アキとミモザは教室近くの女子トイレに逃げ込んでいた。 「ひゃー。びっくりしたぁぁぁ。あのインテリっぽい眼鏡の人何者なの!?」 「あの人は放送部の部長さんだよ。入学からずっと成績トップで凄く頭いいんだって」 「インテリっぽいんじゃなくて、正真正銘のインテリか……。って、何でそんなこと知ってるの?」 「三門ちゃんが放送部だから、時々クラスに呼びに来てるのを見たことがあって……」 「あー。ミカちゃん今放送部なんだ。……ん? 放送部……ってさっき曲をかけてくれてた……?」 「うん」 「それってつまり、私達のファンってこと?」 「そ、それは分かんないけど……。って、アキちゃんなんでそんなにポジティブなのぅ?」 「あはは、ちょーっと自意識過剰だったかなー?」 「やだもぅー」 クスクスとかわいらしく笑ったミモザが、ふっと視線を落とす。 「……でも、このままあの曲が有名になっちゃったら、こういう事がまたあるのかな……」 アキ達の中学は学年ごとに上履きとリボン、ネクタイの色が分かれている。 今年は一年が赤、二年が青、三年が緑だ。そのため学年は一目瞭然だった。 クラスは各学年共に五クラスずつあり、生徒数はそこそこいるものの、顔を見られてしまった以上特定できないという事はないだろう。 「……あの部長さん、また来ると思う?」 アキが尋ねれば、ミモザは不安げに俯いた。 「どうだろう……目的次第、かなぁ」 「目的かぁ……。部長さんは少なくともA4Uの動画をよく見てくれてるってことだよね。じゃなきゃあんな事言えないし」 「そうだね。同じ学校に私達の動画を見てる人……いるんだね……」 アキは小さく震えるミモザの肩をぽんと叩いてにっこり笑う。 「じゃあ次までに、サインの練習しておかなきゃだねっ」 「えっ、そっち!?」 「私もミモザのためにもできるだけ誤魔化すつもりだけど、どうしてもバレちゃった時には、ファンサービスして内緒にしててもらわなきゃっ」 「な、なるほど……」 ミモザが、考えもしなかったという顔でポカンとアキを見る。 「私は将来的には顔バレしてもいいと思ってるけど、ミモザはまだそんな風には思えないでしょ? だから、少なくとも中学生のうちはバレないように、私もできるだけ気をつけるよ」 アキがグッと力こぶを作って言えば、ミモザにはとても心強く思える。 「ありがと……アキちゃん」 ふわりと花のように微笑むミモザを、アキは絶対に守り抜こうと決意を固めた。
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