つかわしめ戦記ゆめ語り
プロローグ
涼やかな音に誘われ、美月睡蓮は目を覚ます。 仰向けのまま、ぼぉっと眺めた。 カーテンも窓も開けっ放し。 窓際に吊るした風鈴が、抜けるような青空を背景に小さく揺れていた。 「どんな夢を見ていましたっけ……」 そう呟いて額に乗せた手が触れたのは、汗ばんで濡れる前髪だ。ここが豊富な木々に囲まれている場所とはいえ、扇風機だけでは到底暑さを凌げない。 睡蓮は布団から上体を起こしてタオルケットを剥ぎ、肩から落ちたキャミソールの紐を直すと、胸元を摘まんでパタパタと風を送った。 「ふぅ……とても暑いです。ですが素晴らしいお天気のお陰で、たくさんお洗濯が出来ちゃいますねっ」 気怠い暑さを吹き飛ばすように、睡蓮はぴょんと畳の上へ立ち上がる。 壁に寄せた低い机の前まで進むと、祖母が手縫いをしたという、色彩豊かなパッチワークの座布団の上に睡蓮は座った。 睡蓮は机を飾る雑貨の一つ。手毬柄の和紙が貼られた小物入れへと視線を移し、引き出しの中にある髪ゴムを取ると、うなじに張り付く肩までの黒髪を、漆塗りの櫛を使って高い位置で結ぶ。 それから窓へ向かい、両腕をぐーんと伸ばして草木や太陽の匂いを睡蓮は胸いっぱいに取り込んだ。 「お父さんお母さん、おはようございます。私は元気ですよ」 すると二回。 太陽の光が睡蓮の笑顔に応えるように、きらっと輝いたのだった。
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