スキルイータ
第十三話

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/***** ??? Side *****/  三人の冒険者は、サラトガの街を出て、ブルーフォレストの中を進んでいた。  そこに、一人の男性が合流してきた。  リーダ格の男性が女性を気にしながら、合流してきた小柄な男性に声をかける 「どうだ?」 「やっぱり、街道は駄目な様だ」  小柄な男性は、もうひとりの大柄な男性から、水筒をもらって、口に含む。  落ち合ったのは、ブルーフォレストの中だが、魔物やダンジョンに向かう者たちを避けていたので、通常ルートからかなり外れている 「そうか、ブルーフォレストに逃げ込んで正解なようだな」 「ごめん。私が我儘言ったせいで・・・」  女性が俯きながら消えそうな事でつぶやく。 「そうだな。お前の責任だな」 「おい!」 「いいの・・・わたしが、兄さんを・・・でも」 「あぁお前のわがままに付き合った結果だ、ミュルダに戻れたら、酒を満足するまでおごってこらうからな」  うつむいていた女性が、大柄な男性の顔を見て、意味を悟った。 「もう少しいい方があるだろう・・・に・・・。でも、後から参加した僕が言うのはおかしいけど、気にする必要はないと思うよ。ミュルダ老も感謝しているだろうからね。じゃなかったら、僕がここに居るわけが無いからね」  小柄の男性が、努めて明るい声で、他の3名に告げている。  ミュルダ老は、3人が所属する街、ミュルダの領主である。小柄の男性は、その領主から使わされた斥候の一人なのだ。 「それで?」 「ん?あぁダンジョンも駄目だよ。ってよりも、ダンジョンはより危ない状況みたいだよ。サラトガの街より先に、ダンジョンの入り口を、アトフィア教の奴らが固めていたよ」 「あいつら・・・が、出張ってきていたのか?」 「詳細はわからないよ」 「そうか、でも、状況は思った以上に悪いな」 「そうだね」  リーダ格の男と、小柄な男が話し込んでいる。 「ねぇ兄さんたちの行動と、何か関係あるのかな?」 「わからん」  大柄な男が一言で議論を終わらせた。  小柄の男が、一同を制する。 「え?な」  リーダ格が、剣に手を置いて、女性を黙らせる。 (最悪だ。ブルーベアーだ) (一頭か?) (あぁこっちに気がついた様子は無いが・・・時間の問題だ) (わかった、お前はここにいろ。行くぞ!)  大柄の男は、背負っていた大盾を構えた。  リーダは、剣を構えて、ベアーの側面に出るような動きを見せる。斥候は、木を上って、ベアーの頭上を取るようだ。彼らが、今まで倒してきた魔物と同等か一段上の魔物との死闘が始まった。  ブルーベアと評された魔物は、3m級のこの辺りでは標準的な魔物だ。彼らにとっては難敵である事には違いはない。  大盾を構えた男が、うまくヘイトを取った。ベアの突進を、盾で往なしている。ベアが体制を崩した所で、リーダが、剣でダメージを与えていく 「硬い!」 「なんとかしろ、そんなに持たないぞ!」 「わかっている」  突進や攻撃を防いでいる盾がきしみ音を上げている。大柄な男は、固有スキルで”体力向上”を持っている。 「ナーシャ。スキルを使え!」 「わかった!」  ナーシャと呼ばれた女性は、スキルを取り出して、詠唱を始める。  唱えているのは、拘束のスキルだ。ベアの動きを封じるようだ。  スキルの詠唱が終わって、「バインド!」拘束のスキルが発動する。  ブルーベアの動きが止まった。 「いまよ!」  ナーシャがタイミングを取る。スキルの発動は、本人が一番良くわかる。  大柄の男は、盾を投げて、メイスを掲げて、ブルーベアの頭を殴打している。斥候も木から降りてきて、持っている剣で、ブルーベアにダメージを与えていく。リーダは、距離を少し取って、助走を付けてから 「どけ!トドメだ!」  その声と同時に、大柄な男と斥候は、ブルーベアから離れる。  剣を前に突き出しながら、リーダがブルーベアの首めがけて、体ごと押し込んでいく、ブルーベアの巨躯から、声にならない音が漏れた。絶命したようだ。  リーダ格の男性は、肩で息をしながら、ブルーベアの首に刺さっている剣を抜く。血の匂いが漂う。  大柄の男が近づいてきて 「どうする?」 「全部は無理だろう?」 「そうだな」 「魔核だけ取り出して、後は捨てておこう、血の匂いに魔物たちが引き寄せられたら、その間に逃げられるだろう」  リーダ格の男性の指示を受けて、斥候が倒されたベアから手慣れた手付きで、魔核を取り出す。それを大柄の男に預けた。 「ほぉレベル5だな」  取り出した魔核を”鑑定”したのか、大柄な男がそう判断した。 「当たりだったな。スキルは?」 「出なかった」  斥候がベアが倒れている当たりを探して答える。 「しょうがない。離れるぞ」  4人は、武器の血を葉っぱや倒したベアの身体で拭き取ってから、その場を立ち去った。  4人の姿は、森の中に消えていく。  倒されたベアは、蜘蛛の魔蟲と蟻の魔蟲が器用に、解体し始めた。そして、現れた蜂が解体したベアをどこかに運んでいった。 /***** カズト・ツクモ Side *****/  ログハウス周りの改良を、新しくライの眷属になった、エルダーエントに頼んで、俺は居住区に戻った。  カイとウミが丁度帰ってきた所だった。 『主様』『カズ兄。僕頑張ったよ!』  呼び名が、ウミはいつの間にか、”カズ兄”と呼び始めている。ライが、カイとウミを、兄と姉と呼ぶのを真似したようだ。カズト兄様にいさま→カズトにい→カズにぃと移り変わっていった。俺も、カイやウミやライは家族のように思っているので、カイやウミが呼びやすいように呼ばせる事にした。  その結果、カイは『主様』と呼ぶようになって、ライは『あるじ』となったようだ。 「カイ。ウミ。無理はしなかったのだろうな?」  二人から、44階層の状況を聞いた。40階層からは、丘陵が続いている。普通に、外の天気と連動しているのは、ダンジョンの不思議だという事にしておこう。深く考えると”どつぼ”に嵌りそうだ。  目印になるような物が少なく、草食系の魔物が多いのか、探索は時間がかかる場所になっている。魔物の肉の確保が必要になった時には、倒しに行きたいとは思うが、現状肉にもそれほど困っていない。そのために、カイとウミで下の階層につながる場所を探してもらう事にしていたのだ。 『主様。45階層へとつながる場所だと思われる場所が見つかりました』 「そうか、それなら、明日全員で行くとするか?ライいいよな?」 『わかりました』『大丈夫です』  軽く食事をしてから、明日に備えて休む事にした。フロアボスが居るのは間違いないだろうからな。  カイとウミからも、スキルを渡された。今回は魔物も最低限しか倒していないので、スキルの数も少ないようだ。それでも、44階層のスキルなので、使い勝手が良さそうなスキルになっている。すでに持っているが、治療のスキルや結界系のスキルは何枚有っても困らないと思っている。  固定化した時のレベルの差が出るのかも検証したい。  レベル5爆炎とレベル6爆炎では、スキルとして発動する時にあきらかな違いが存在する。固定化した時にでも同じような差がでるのか?それとも、レベル依存で強さが違うのなら、レベル5を固定化してから、使ってレベルアップしたほうが強くなるのか? /***** ??? Side *****/  男女4人は後ろを確認しながら、ブルーフォレストの中を進んでいた。  手に持った武器からは、魔物の体液だろう、滴り落ちている。 「しばらくは大丈夫か?」  大柄な男が、斥候の男に声をかける。 「あぁさっきのが最後だろう、近くに魔物はいない」  斥候は、大柄の男に辺りの様子を答える。  その答えを聞いて、少しだけホッとしたのか、大柄の男が、リーダ格の男性に問いかける。 「少し休むか?」 「いや、水場にはたどり着きたい。そうしたら、食料が手に入るかもしれない」 「そうだな」  リーダ格の男も休みたい気持ちはあった、ゴブリンとコボルトといえ、連戦は避けたい。体力だけではなく、気力も奪われてしまう。しかし、一旦座ってしまったら、次に動き出すまでに時間がかかってしまうのは、経験的にわかっていた。そのために、リーダ格の男は、皆に無理をさせている認識は持っていたが、もう少し進む事にした。  普段足を踏み入れない場所に四苦八苦しながら、一本だけ存在感を示す木が見える場所まで来た。  眼の前の木々よりもはっきりと高く存在感がある大木を見ていた。話し合っても、誰も大木の存在は知らない。あれだけ目立つ木なら、ダンジョンに向かう時の目印にもなるだろう。  今自分たちが居る場所から、距離的には、2~3日の距離だろう。  4人は、水場を探しながら、山に向かう事にした、その後、安全が確保しながら、大きな木を目指す事にした。  経路を先に山に向かうと定めたのに意味はなかった。持ってきた水は少しだがまだ余裕があることや、森の中で安全を確保するのは、それほど簡単な事ではない。目標がなくては心が先に折れてしまう。そうならない為にも、当面の目標を定める事にしたのだ。  それに、あれだけ大きな木があるのだから、水場も近くにあるだろうと考えていた。水場があり、安全が確保できる場所なら、しばらく拠点にして次の動きを決める場所にしてもよいと思っていた。  目標が定まった事から、心に余裕が産まれたのか、リーダ格の男や大柄な男性も、今まで以上に周りを見て感じる事ができるようになっていた。  ブルーベアと対峙してから、半日程度の距離を進んだのだが、森の奥地に向っているのは間違いがない。魔物を避けて居るとはいえ、戦闘も何度か行っている。  しかし、思った以上に、順調に森の中を進んでいる。 「おい。何かおかしくないか?」 「やはりそう思うか?」 「あぁかなりな。異常だといえる」  リーダ格の男性と大柄な男が、森の中で、ある事が気になっていた 「どうしたの?」  女性は、森の中が、普段よりも”静かな”事に気が付いていない。二人はそれだけではなく、魔物が少ない事も気になっていた。 「魔物が少ないと思わないか?」 「え?こんなものじゃないの?いつもと同じくらいだよね?」 「あぁそうだな」 「それじゃ・・・「そうだ、俺たちが通っていたダンジョンに向かう道と同じくらいしかいない!”おかしい”と、思わないか?」」  リーダ格の男性は、女性の言葉を遮るように言葉をつづけた。確かに、4人はここまで、ゴブリンやコボルトの小集団と数回の戦闘を行っている。 「え?」  女性はまだピントと来ていない。 「あぁそういうことか・・・話は分かったよ」  あとから合流して、ダンジョンに、入っていなかった斥候も話がわかったようだ。 「え?え?なに?」 「ダンジョンに向かう道は、いつも同じだよね?」  斥候が、女性に言い聞かせるように話す。 「そうね。サラトガの連中が指示した道ならある程度安心できるからね」 「うんうん。それでも、数回の戦闘は覚悟しなければならないよね?毎日、パーティが行き来して、警備隊が出て、魔物を倒していてもだよね」 「うん。私たちも何度も戦闘をしているよ」 「そう、毎日パーティが活動している道と同じ程度にしか出てこない、人が入らない森っておかしくない?それに、この森は静かすぎる。まるで・・・誰かが管理して、魔物を間引いているようだよね」 「あっ!」  女性は気味悪そうに、辺りを見回す。  いわれて心当たりがあるのだろう。そして、今自分たちがいる場所が。ブルーフォレスト呼ばれる。魔物の楽園だった場所。その奥地に向かっていることを思い出したのだ。 「考えても仕方がない。先に進むぞ」  リーダ格の男性は、気持ち悪さを飲み込むようにして、目標にしている山を目指す。

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