神殿を攻略できた事は良かった。 それは間違いない。盛大なおまけがいなければもっと良かった。 「クロ!お前、少しは黙っていられないのか?」 洞窟に帰ってから、クローエがうるさい。神殿に置いてきたほうが良かったか? 見たもの、見えたものをいちいち聞いてきて、答えると興奮する・・・。これを繰り返している。そして、食事をして大騒ぎをする。 眷属たちの部屋に連れて行ったのだが、俺とシロの部屋に入ろうとして、オリヴィエとステファナに注意されて、連行されていった。 そして、クローエが居なくなった事で、やっと静かになった。 そして、俺とシロは久方ぶりに自分の部屋に帰ってきた。 帰ってきたのは、チアルダンジョンの1階層だったので、そのまま洞窟に入った。時間を確認したら、夕方を少し回っていたので、今日は風呂に入って寝て。明日、ログハウスに行く事にした。 スーンとルートガーにだけ連絡を入れているので、まずは俺がいなかった時の話を聞く事にする。 チアルをどうするのかを決める必要があるが、すぐにどうこうする必要はないのかもしれない。ダンジョンは継続する方向で問題ないと思っている。ダンジョンの維持が決まっていれば、後は運用をどうするのかだけだ。今、チアルダンジョンに入っているのが、獣人族だけなので急ぐ必要はないと思っている。 あと、新しく得たレベル10のスキルカードを早く試したい。 やりたい事が多いけど、今の疲れた頭で考えながら実行すると結果に後悔しそうだ。 「カズトさん。お風呂入りました!」 「ありがとう。シロ。一緒に入るか?」 「はい!」 ダンジョンや神殿で行っていた生活スタイルを崩さないことにする。 ステファナとレイニーも下がらせている。ここは、俺とシロだけのプライベート空間になる。 風呂やテントでは2人だけだったが、本当の意味での2人だけになったのは本当に久しぶりだ。 シロを抱き寄せて、シロの感触と匂いを楽しみながら目を閉じた。 --- 「シロ。シロ」 「ふみゅ?あっおはようございます。カズトさん!」 切り替えが早いな。 「おはよう。今日は、ログハウスに行くからな。しっかり下着を付けて服を着てくれよ」 シロは自分の姿を見て、少しだけ赤くなった。 「カズトさんの前だけです!」 「それは嬉しいですよ。奥様」 全裸のシロを抱き寄せてキスをする。 「カズトさん。武装は?」 「腰に剣を下げるだけでいい。今日は、スーンとルートガーと、もしかしたらクリスが来るくらいだと思うからな」 「わかりました。しっかり武装します」 なんでそうなるのか・・・。わからないでも無いけど・・・。 シロはまだルートガーの事を全面的に許していない。俺が許して信頼しているので、それに従っているだけだ。なので、俺がルートガーと会うのを歓迎していない。それは解っているが、ルートガーは大切なクリスの旦那だ。それに、優秀な奴である事は間違いない。それでなくても、手駒が少ないのだ。使える者は何でも使わないとダメだろう。 「シロ。俺は、先にログハウスに行くから、ステファナとレイニーとオリヴィエとリーリアを呼んでおいてくれ」 「わかりました。他の者は?」 「チアルダンジョンで遊びたりなかったようだから、ダンジョンにでも行くのではないか?今日は、ログハウスから出ないから、護衛は必要ないだろうからな」 「はい。カイ兄さまとウミ姉さまに伝えておきます」 「頼む」 念話があるので、直接言ってもいいのだが、シロに伝言を頼むと嬉しそうにするので、シロが伝言役をお願いする事にした。 さて、ログハウスに移動するか。 執務室に入ると、すでにスーンが待っていた。 「大主様。ダンジョン攻略おめでとうございます」 「ありがとう。それで?チアル街や各区は?」 「はい。大きな問題はないと思われます」 「そうか・・・。何か有ったのか?」 スーンがなにかをいいかけた所で、ルートガーが執務室を訪ねてきた。 同時くらいに、完全武装したステファナとレイニーを連れてシロが執務室に入っていた。オリヴィエは執事服を、リーリアはメイド服を着ている。 俺は、執務を行う机の所に居るのだが、正面にはスーンが立っている。ルートガーは、置いてあるソファーに腰を降ろしている。シロは俺の横に立って、ステファナとレイニーは後ろに控える形になる。 オリヴィエとリーリアは隣の部屋に入ってお茶の準備を始めている。 「スーン。それで?」 「大主様がダンジョンに入られて、一ヶ月くらいしてから、大主様の意向を無視するような振る舞いをするものが出ました」 「ルートガー。どういう事だ?」 ルートガーの説明で少しは安心することができた。 この大陸に居た者ではなく、ゼーウ街や他の大陸から来た者たちが問題を起こしているという事だ。 「それで?」 「はい。帰ってもらいました」 「それだけじゃないだろう?」 「はい。パレスケープとパレスキャッスルとロングケープに伝達して、二度と上陸させないようにしました」 「わかった。ルート。他の問題はなかったのか?」 「えぇ・・・。と・・・」 なにか有ったようだ、シロを見たという事は、アトフィア教関連か? 「気にするな」 「はい。エルフ大陸から使者が来ました」 「え?エルフ大陸との話は終わっているよな?」 「いえ、シロ様・・・への求婚でした」 「ふざけるな。追い返せ!オリヴィエ。すぐにメリエーラ老を連れてこい!」 「お、お待ち下さい」 「なんだ!ルート!?邪魔するのか?」 「いえ、そうではありません」 「それじゃなんだ、早くしろ。この後、戦争の準備をして、エルフ大陸に攻め込む。愚か者に自分たちがしでかした事の重大さを教えてやる」 「ツクモ様。そのバカはすでにエルフ大陸に、囚人として戻っております」 「どういう事だ?囚人?」 今、ルートガーは囚人と言ったよな? 「はい。シロ様への求婚をしたバカエルフは、まずメリエーラ老になにかを言われて、諦めたようでしたが、自由区の酒場で・・・」 聞くに堪えないバカだったようだ。 酒場で暴れはしなかったが、悪態を付いていたようだ。俺の悪口を散々言った挙げ句に、スキルカードが手元になくて、メリエーラ老に泣きついたようだ。 その後で、メリエーラ老に謝罪するわけでもなく、今度はミュルダ老の所に言って、クリスを嫁に寄越せといい出したようだ、同じことを、フラビア/リカルダ/カトリナと繰り返した。 全員に断られて、悪態を着きながら再度酒場に言ったが、酒場には注意人物としての通達が出ていて、自由区だけではなく、ダンジョン区にある街でも断られて、俺が後ろで皆に有ること無いことを広めたのだろうという憶測で動き始めた。誰から聞いたのか、ログハウスに無断で侵入して、執事とメイドに捕縛された。一時は開放したが、同じことを繰り返そうと計画していたのを、ルートガーが組織してモデストたちが運用していた組織に実行前に踏み込まれて、犯罪者としてエルフ大陸に送還される事になった。 「わかった。ルート。バカの相手は助かった。気になったのが1点ある」 「はい。なんでしょうか?」 「スーン!」 「はっ」 「ログハウスの事が、バカにバレた事はしょうがない。もう住民の多くが知っているだろう。だが、襲撃が発生したのはなぜだ?その前で止められただろう?」 「大主様。申し訳ありません」 「理由を教えてくれ」 「はっ大主様が居ない時に、襲ってきてくれたので、一般的な侵入者の力量を測るとともに、防御態勢に不備が無いのかを探っておりました」 「・・・。そうか、それで?」 「はい。防御にあたった者の意見ですが、外階段はやはり防御しにくいという事です」 「そうか」 「ツクモ様。クリスと俺の意見なのですが、階段を廃止して転移門で移動する事はできませんか?」 「大主様。私も、ルートガー殿の意見に賛成です」 「ふむ」 「それで、スーン殿たちには負担になるかもしれませんが、下から見た時に、ログハウスを木々で覆ってしまって街からは見えなくしてしまう事はできませんか?」 「大主様。私もログハウスの秘匿性を高める意味でもっともよろしい方法かと思います」 「そうか・・・」 2人が同じ意見ならそれがいいだろう。 それに実際に侵入者が出た。見逃されて、泳がされていたのだとしても、執事とメイドが捕縛する範囲にまで来られたという事だ。 これから、シロと結婚すれば、ログハウスと洞窟の安全性を高めておくのは良い事だろう。 「わかった。スーンに任せる。外階段の件は少し待ってくれ考える」 「はい」 「はっ」 「そう言えば、ルート。ロックハンドはどうなっている?」 「ツクモ様。ナーシャ殿とカトリナ殿に何を許可されたのかわかりませんが、あれでは・・・」 「ん?俺が許可した?」 「はい」 ルートガーの話を聞いて頭が痛くなった。 確かに自由にしていいと・・・似たようなセリフを言った記憶はある。 それにしても、ロックハンドに甘味処の店を集めて、海岸線に温泉が湧き出したことを良い事に、宿区の様な浴場を作っただと? 魔の森にもいろいろ甘味の材料になりそうは物が有った。 甘味に魅了された女子たちがロンクハンドに集まって、日々甘味の研究をしているという事だ。 本当に好き勝手やってくれているようだ。 「どういたしましょう?」 どうしよう・・・。ん?実害はないよな? 「なぁルート。何か実害が出ているか?」 「・・・。いえ。パレスキャッスルとロングケープからロックハンドに向かう定期便の荷物が甘味や女性で埋め尽くされているくらいです」 「それは・・・。ダンジョンに潜っている奴らのテンションが下がらなければいいのだが?」 「問題ありません。ロックハンドに行けば、女性が居るのが解っているのか、ダンジョンで一山当てたら、ロンクハンドに休養しに行く流れになっています。保養所の様な役割になっています」 「ん?宿とかは?」 「各区の建築が一段落した者たちがロックハンドに移動して、建築ラッシュになっています」 そうか、問題はなさそうだな。 建築も間に合っているのなら問題にしなくて良さそうだし、街を作った奴らなら上下水道の意味も解って基礎工事を活かしてくれるだろう。魔の森の木材を使っているのなら一石二鳥にもなっているのだろう。 「わかった。違法な事や、無理矢理やっていないのだな?」 「はい。それは大丈夫です。カトリナ殿が、ミュルダ老やメリエーラ老に確認の連絡を入れてきます」 「それならいい。放置しておいて良いだろう。確認には行くけどな」 「かしこまりました」 スーンとルートガーからの報告を聞いていても、本当に、大きな問題はなさそうだ。 細かい問題は多発しているようだが、この大陸が一つになった事や、アトフィア教の排除が上手く進んだ事。コルッカ教が上手く入り込んだ事が大きいようだ。 あと、ゼーウ街が安定した事も大きい。 リヒャルトが上手くやってくれているようだ。 さて、問題が無いのなら開発を進められそうだな。 「スーン。ログハウスの周りを頼む」 「はい。上空からの視認はどういたしましょうか?」 「上空?」 「はい。竜族やワイバーンなどの飛行する者たちへの対応です」 「無視でいいだろう?ログハウスの上空1kmは飛行禁止。”飛行せし者は敵対行動として迎撃する”ではダメか?」 「かしこまりました」 「あっそうだ。上空に結界と防壁を貼り続ける事はできるか?」 「可能ですが、かなりレベルの高い魔核が必要です」 「それは大丈夫だ。シロ!」 「はい!」 シロがレベル7/8の魔核をスーンにわたす。 「足りるだろう?」 「もちろんです」 「ツクモ様。それは?」 「ん?魔核だぞ?ダンジョンからの土産だ。ルートも居るか?」 「いりません!」 「レベル9の魔核も有るぞ?」 「はぁあんたは・・・。また、そんな物を・・・。どうするつもりですか?」 「さすがに、市場に出せない事は解っているからな。眷属の増強とチアルダンジョンから採取できた”アーティファクト”にするつもりだ」 「・・・。わかりました。わかりましたけど、自重してくださいね」 ん?自重? あっ!!! 「そうだ、ルート。スーン。レベル10次元収納とレベル10プログラムというスキルは知っているか?」 「レベル10?次元収納は、知っていますが、神話級のスキルです」 「神話級?」 うーん。 あまり宣言していいスキルではなさそうだな。 ライが持っている事も秘密にしておいたほうがいいかもしれないな。ライの次元収納とレベル10の次元収納が違うかもしれないという事も伏せたほうがいい情報だろうな。 便利そうだから使うけど・・・。プログラムの方は、2人とも知らないという事なので、知られていないのだろう。 サブセットとかプログラムを生業にしていた一部の人間しかわからない言葉で説明されているからな。 少しだけ、ルートガーとスーンにダンジョンの説明をした。 クロとチアルの事も説明しておく。今後、顔をあわせるかもしれないからだ。 スーンは、執事とメイドを集めてログハウスを隠す為の話をするようだ。 ルートガーは、ミュルダ老たちに俺が帰ってきた事を伝えて、今後のことを話し合うようだ。 2人が執務室から出ていった。 俺の前には、まだ少しだけ温かい珈琲が置かれていた。 「シロ」 「はい」 「チアル街は問題なかったな」 「そうですね」 「よかった。これで、俺が居なくても問題にならない事が検証できる」 「そうですね。どうされますか?」 「しばらくは、上層部との話し合いにはなると思うけど、報告を全部聞いたら、開発を中心に進めるかな。ダンジョンでいろんな物を採取してきたからな」 「そうでしたね。どこで行いますか?」 「ログハウスの周りと、ペネムダンジョン内と、ロックハンドの周りかな」 「チアルダンジョン内ではやらないのですか?」 「うーん。育つのが解っているからな。それ以外の所で収穫できないと意味が無いからな」 「あっそうですね。果物がロックハンドの周りで育てばかなり喜ばれそうですね」 「そうだな・・・」 特にナーシャ辺りが歓喜しそうだな。 考えるのは後だな。 まずは、決裁が必要な書類に目を通すか。 目の前に置かれている書類の山を見つめる。 スーンとルートガーの話ではこれで減らしたとの事で、緊急的な事も含まれていたので、緊急的な物はルートガーが元老院に持ち込んで決裁を行った。それの確認書類が回されているという事だ。 サボっていたわけでも逃げていたわけでもないが、溜まってしまった物はしょうがない。 処理を始めるとするか・・・。シロもオリヴィエもリーリアもステファナもレイニーも手伝ってくれるだろう。 ルートガーが退出した事で、ステファナとレイニーは武装を解除した。シロも着替えてきたようだ。 書類との格闘を手分けして始める事にしよう。
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