スキルイータ
第五十二話

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/*** リーリア・ファン・デル・ヘイデン Side ***/  イサークさんたちは、私から離れた位置で待機してもらう事になりました。  連絡方法は、魔蟲を使いに出す事になりました。  スパイダー種がいいだろうと思い、こちらに来ているスパイダー種で影移動ができる者を、紹介します。  イサークさん、ガーラントさん、ピムさんの表情が引き攣っていましたが、紹介したのでもう大丈夫です。それでなくても、ご主人様の客人として、私たちは認識していますので、魔蟲が危害を加える事は考えられません。  さて、クリスとナーシャさんの所に戻りましょう。  私が戻ってきた事を、怪しい動きをしているメイドが気付きます。当然ですよね。先程から呆れるくらいに、キョロキョロして居るのです、誰かを探しているのは、一目瞭然です。 「クリス。ナーシャさん。ただいま戻りました」 「おかえり、イサークたちとは何の話だったの?」 「いえ・・・ナーシャさんが、ハチミツやメイプルシロップばかり食べて、最近太ったんじゃないかという話をしていただけです」 「え?うそ?ねぇねぇクリスちゃん。私太った?」 「うーん。前よりは、丸くなったような・・・」 「うそぉぉぉどうしよう。どうしよう。でも、ハチミツはやめられない。ねぇねぇリーリアちゃんなにかスキルで痩せる方法ない?」 「嘘ですよ」 「え?うそ?なにが?」  クリスも解っていたようで、私の話に合わせてくれました。  3人で顔を見合わせて笑い合いました。 「なんだぁ・・・よかった」 「でも、本当に、ナーシャお姉ちゃん。程々にしないと・・・」 「大丈夫!その分運動するから!それで本当は?」 「え?あっご主人様がこちらに来られる時に、武器を見て欲しいというお話で、ガーラントさんに見てもらったほうがいいだろうという事で、予定をお聞きしていたのです」 「え?リーリアお姉ちゃんのご主人様?」 「はい?」 「ねぇリーリアお姉ちゃん。僕も、リーリアお姉ちゃんのご主人様に会えないかな?お礼をいいたい」 「大丈夫だとは思いますが、クリスのお父様にお聞きしなくてよろしいのですか?お礼ですか?」 「うん。だって、リーリアお姉ちゃんのおかげで凄く楽だし、お部屋に居ても今までと違って気持ちいいよ。全部、カズト・ツクモ様に教えてもらった事なのでしょ?」 「そうですね。ご主人様は偉大な方ですからね」 「あぁぁそうだぁクリス。ツクモ君のお嫁さんになればいいよ。そうしたら、私に沢山、ハチミツとパンケーキ頂戴!」 「ナーシャお姉ちゃん!僕なんて子供だよ、リーリアお姉ちゃんのご主人様じゃ・・・釣り合わないよ・・・」  ん?  ナーシャさんを見ます。気がついたようです。 『リーリアちゃん』 『何でしょう?』  急に念話で、話しかけられました。 『クリスちゃんに、ツクモ君の年齢の事話した?』 『いえ、聞かれませんでしたし、必要ない事ではないのでしょうか?』 『あぁ・・・そうね。まぁ会えばわかるから、黙っていよう』 『はい。解りました』  なんとなく、ナーシャさんが含み笑いを浮かべています。  さっき、太ったと言われたことへの仕返しでしょうか?  私は別にかまいませんので、ナーシャさんに従う事にします。  メイドが消えています。  そろそろ、なにかをしかけてくるかも知れません。  誰かと会っているようです。指示を受けているようなので、仕掛けがあるのでしょう。 『ナーシャさん。いつでも戦闘できる準備をしておいて下さい』 『いいけど?なんで?』 『先程、イサークさん達と会っていた理由に関係します。お願いします。理由は後ほど』 『わかった。用心しておくね』 『ありがとうございます』  メイドが戻ってきました。 「クリスティーネ様」 「え?なに?」 『ナーシャさん。何か来ると思います』 『え?解った』 「そろそろ、お屋敷にお戻りになったほうがよろしいかと思います」 「まだ大丈夫です」 「そうですか?お体は大丈夫だとは思いますが、一度ご休憩されたほうがよろしいと思います」 「そうね。ナーシャお姉ちゃん。リーリアお姉ちゃん。どうですか?」 「クリスの好きにしたらいいと思う。私は疲れていないし平気。それに、体調悪くなったら、治療のスキルを使うから大丈夫!」 「そうね。私も平気だけど、クリスちゃんはまだ無理しない方がいいわよね?」 「解りました、一旦休憩しましょう。どこか落ち着ける場所は、ありませんか?」 「それなら、あそこの路地を抜けた所に休憩できるスペースがあります」  路地で仕掛けてくるのでしょうか? 『ナーシャさん。メイドに気をかけて下さい』 『わかった!』  路地を進むと3名。後ろから2名ですか・・・。本当に、なんで同じような方法で成功すると考えるのでしょうか?  スパイダーにお願いして、後ろから来ている二人を拘束しましょう。  その後で、アントさんに引きずって来てもらいましょう。 「おい!ここは通行止めだ。通りたければ、女を1人置いていけ!」 「はぁ?バカなの?」  ナーシャさんもこの手の輩にはかなり好戦的になるようです。  ニヤニヤしたあの男を思い出させます。殺したくなってしまいます。メイドがちらちら後ろを気にしています。大丈夫ですよ。後ろからは誰も襲ってきませんからね。 「早くしろよ!なんなら全員相手してやるからな」 「クリスティーネ様お逃げ下さい!」  メイドが前に出て、庇う祖ぶりを見せます。 『クリス!クリス!』 『リーリアお姉ちゃん!』 『私の後ろに、そして、合図を送るから、後ろに逃げるフリをして、後ろからは誰も来ないから安心して』 『わかった!』  クリスの怯えた表情が少し消えて、私の後ろに隠れます。  前方の3人のクズは、腰に手をやります。それを見て、ナーシャさんも腰の獲物に手をそえます。 「おいおい。この人数に1人でか?剣じゃなくて、別の物で相手してやるよ。俺は、亜人でも構わないからな!」 「おい。順番を守れよ。それに、その女の腰のポーチも、依頼主からもってこいと言われているからな」  バカ確定。 『クリス。今です』 『はい』  クリスが後ろに逃げ出します。  男たちはニヤニヤ笑っています。バカですね。成功すると思っているだけで、何も考察しようとしません。  そろそろ、アントが角を曲がります。 「え?」  最初に気がついたのは、クリスです。  男たちが声をあげます。思い出したのでしょう。 「おい。メイドを殺るぞ。その後は、亜人をやって、女二人を連れ去る!」  ボスらしき男がわめきます。  剣をメイドに向けています。横の男に何やら指示を出していますが、既に遅いです。 「動いたら死にますよ?」 「何?」 「・・・あっ・・あ」  ボスらしき男以外の二人の肩にスパイダーが乗っています。  目の前に、ビーナが現れます。 「おま・・・蟲使いか?」 「さぁどうでしょう?クリス。どうしました?」 「あれ?リーリアお姉ちゃんが使役しているの?」 「そうですよ。怖いですか?」 「・・・ううん。平気。でも、この人・・・」  後ろから連れてこられた人の中に知っている人が居るようですね。  私が目線を外したすきに逃げようとしたボスがスパイダーの糸に絡め取られています。  メイドは、自分が狙われる事がないと思っていたようで、剣をむけられて腰が抜けてしまって、立てないようです。情けないですね。自分が狙われないとなぜ思ったのでしょうかね?  前から来ていた3名も拘束します。  なにやら、人族の言葉らしき物で叫んでいましたが、私には理解できない言葉のようです。 「ばけも・・の。お前の主人・・・も、ばけ・・」 「それ以上臭い口を開くようなら、二度と口を聞けなくしますよ?」  私だけなら、いいでしょう。私が敬愛するご主人様の事を蔑むようなら許しません。後ろで縛られていた、クリスの顔見知りがなにやら言おうとしていましたが、剣で喉の皮を切ります。  予定では、私が傷つけられる・・・ですが、そこまでの強さはなかったようです。 「俺を開放するように、そこの化物に命令しろ、売女の娘と、収納袋を持つ女二人だぞ、お前たち!何枚スキルカードを渡した!俺を助けろ!」  まだ居るのでしょうか?  近くに、気配は感じません。どうやら、このバカは、前に居る3人がなんとかしてくれると思っているのでしょう。現実が見えていない人なのでしょうか? 「クリス?」 「ママは、売女じゃない!ママは、ママは、ママは・・・!!!」  クリスがいつもかぶっていた帽子が地面に落ちる。  そういうわけですか?クォータというのでしたか?  どうりでスキルがこっちよりだったのですね。私には、判断できませんが、ご主人様なら、私たちを受け入れてくれているご主人様ならなんとかしてくれるでしょう。  クリスの帽子を拾い上げて、清掃を発動します。 「クリス。落としましたよ」  どうしたらいいのか、私にはわかりません。わかりませんが、泣いているクリスを見たら、目の前のゴミの喉に、剣を落とすのは間違いではない事だと思えてきます。喉元の剣に、少し力を入れます。 「リーリア殿!」  イサークさん達です。 「待ってくれ!そいつは、襲撃の依頼主に繋がる糸じゃ!」  そうでした。でも、 「クリス。どうしますか?このまま、貴女がこの剣の柄に手を添えるのなら、私は迷うことなく、このゴミを殺します。貴女が、真実を、この男の雇い主を知りたいとおもうのなら、私から剣を取り上げて下さい。私は、貴女の意思に従います」 「僕は、お父様・・・ママ。ママ」  クリスは、泣き顔のまま、私から剣を取り上げます。  イサークさんから、安堵の空気が流れてきます。 「後、お願いしていいですか?」 「あっあぁ任せろ、そこのメイドも俺たちが預かる。ナーシャ!一緒に来てくれ!」 「え?あっ解った!クリスちゃん・・・・・・リーリアちゃん。クリスティーネをお願いね」 「はい。わかりました。行きましょう。クリス」 「うん」  クリスの手を握ってきます。  お屋敷まで帰る事にします。 「リーリアお姉ちゃん。一緒にいてくれる?」  今にも消えそうな声です。解っているのでしょう。そして、どうなってしまうのかも理解したのかも知れません。 「いいですよ」 「ありがとう・・・聞いていい?」 「はい。なんでしょうか?」 「僕っていらない子なのかな?」 「私にはわかりません。でも、私は、クリスと居て楽しいですよ?ご主人様のご命令だという事もありますが、嫌いな人と一緒に居たいとは思いません」 「・・・ありがとう」  クリスは、私の手を強く握りしめて、お屋敷までの道を、黙って歩いています。  お屋敷が見えてきました。  門番はそのまま中に通してくれます。  いつものクリスの部屋ですが、いつもと雰囲気が違います。 「やっぱり、お父様なのかな?」 「さぁどうでしょう。イサークさん達が尋問してくれるでしょう。そうしたら、解ると思いますよ?怖いですか?」 「・・・よくわからない。お父様なのでしょう。なんでこんな・・違う。僕だけなら、なんで、リーリアお姉ちゃんまで・・・それに、自分のメイドまで・・・僕、わからないよ」 「そうですね。わからない事は、考えてもしょうがありません」 「・・・」 「クリスは、どうしたいのですか?」 /*** イサーク Side ***/ 「ピム。領主の所に走ってくれるか?」 「イサークでも?」 「解っている。でも、襲われてから、裏取りしていたら・・・」 「そうだね。街領隊にも話を通しておくよ」 「頼む。ガーラント」 「解っておる。イサーク。お主は、ナーシャを抑えるのじゃぞ?」 「あぁ解っている。リーリア殿が俺たちに先に話してもらった事を感謝しないとな」  そうだ。  ナーシャを抑えるのが俺の役目になってくるだろう。  間違いなく、あいつの事を知ったら、間違いなく暴走するだろう。リーリア殿とクリスからも引き離したほうがいいだろう。  俺と、ガーラントは、リーリア殿からの合図が来ない事を祈った。  しかし、合図が来てしまった。 「イサーク!」 「わかった。行くぞ!」  剣を手に持って、疾走する。  戦っているであろう場所に踏み込むためだ。 「ガーラント」 「おぉよ」  ガーラントが先に角を曲がる。  俺もそれに続く。 「い・・イサーク」  はぁ?  これほどの差があるのか?  そこには、拘束された状態で転がされている2名の男。  そして、ナーシャと対峙しているが、既に後ろと前と横をビーナに包囲されている男。  転がされて、喉に剣を当てられていて、手を離すか押し込めば、死に至る事がよく分かる。  俺たちもよく知る人物だ。領主の息子のエンリコの執事長をしている男で、元領街隊の隊長だ。全盛期には、俺とガーラントが二人がかりで、なんとか勝てる人物が、抵抗できない状態になっている  喉の剣は、いつでも殺せるという意思表示なのだろう。  剣を握る手に力がはいる。クリスの涙を見たせいだろう。  それなら・・・。 「リーリア殿!」  俺は、俺たちが到着した事を告げる。それで止まってくれる事を祈っている。 「待ってくれ!そいつは、襲撃の依頼主に繋がる糸じゃ!」  ガーラントも解っている。リーリア殿に声をかける。 「クリス。どうしますか?このまま、貴女がこの剣の柄に手を添えるのなら、私は迷うことなく、このゴミを殺します。貴女が、真実を、この男の雇い主を知りたいとおもうのなら、私から剣を取り上げて下さい。私は、貴女の意思に従います」  なんて事を・・・重い選択を迫る。 「僕は、お父様・・・ママ。ママ」  クリスが剣に手をのばす。確かに、転がっている男は、殺されても文句が言えない。  どれだけ、クリスが慕っていたか。クリスの母親が頼りにしていたか。それが解っていてなお、襲ったのか?  クリスは、柄に手を伸ばすが、躊躇する。  リーリア殿手に手を伸ばして、剣を受け取る。リーリア殿も抵抗する事なく、剣をクリスにわたす。剣が喉から離れた瞬間に、喉に足を押し当てて、喋れなくする。 「後、お願いしていいですか?」 「あっあぁ任せろ、そこのメイドも俺たちが預かる。ナーシャ!一緒に来てくれ!」  ナーシャをクリスから引き離す。後ろを見ていなかったのだろう。リーリア殿を信頼していたのかも知れない。  メイドを庇っていた。あいつ。メイドも殺すつもりだったのだろう。中央の男が、拘束された事を確認して、ビーナ達は消えていった。 「え?あっ解った!クリスちゃん・・・・・・リーリアちゃん。クリスティーネをお願いね」 「はい。わかりました。行きましょう。クリス」 「うん」  リーリアは、剣をクリスから受け取って、自分の収納袋にしまう。  そのまま、クリスの手を握った状態で、屋敷の方に歩き始めた。

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