/*** カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ Side ***/ ナーシャたちが帰ってきた? 「領主様」 「あぁわかった。それで?」 「はい。4名揃って、ご相談があるとおっしゃっています」 「相談?わかった」 相談? スキルカードがなくなったか?いや違うな。 会えばわかるか、サラトガに行っていたはずだが・・・。 会議室に向かう。 そこには、馬鹿面の1人の男と、可愛い娘が1人、そして、酒飲みが1人と、街領隊の斥候の1人が座っている。 「ただいま!」 「ただいまじゃない。今まで何をやっていた?」 ふぅ変わった所は・・・違うな。あまりにも変わっていない。 認識しているだけだが、1ヶ月近く放浪していたとは思えない。 「領主様。ナーシャが話し始めると、長いので、俺から話していいですか?」 「イサークか、頼む。その前に、儂からお主に聞きたい事があるが大丈夫か?」 「はい。なんでしょうか?」 「お主たち、あまりにも小奇麗な格好だが、どうやって逃げてきた?まさか?」 少し沈黙が流れる。 イサークたちはお互いの格好を見て、なにか納得している。 そして、ナーシャに関しては、笑いだしてしまった。 そんなにおかしな事なのか? 「失礼しました。領主様。それを含めまして、俺たちがどうやって、ここに帰ってきたのかお話します」 そう切り出したイサークの話は、信じられない話の連続だ。 イリーガル・デス・スパイダーや、イリーガル・デス・アント。イリーガル・デス・ビーナを眷属化している? エルダー・エント?それだけじゃなくて、イリーガル・デス・ブルー・フォレスト・キャットとイリーガル・ブルー・スキル・フォレスト・キャットに、イリーガル称号を持つ、スライム? イサークたちが夢を見たとか、集団幻覚のスキルを使われたと言われたほうが信じられる。 しかし、目の前に出された物で”村”が存在しているであろう証拠になりえるかも知れない。 そして、バカ息子のステータスカードと副隊長のステータスカード。それに、バカ息子が持ち出した、速駆の指輪に間違いない。 「イサーク。これは?」 「はい。そこの主ツクモ殿が、洞窟を解放する時に倒したゴブリン共が持っていたそうです」 「そうか・・・しかし」 「はい。ツクモ殿が倒したという事も考えられますが、これを見てください」 そういって出されたのは、ザイデルのステータスカードだ。 あの裏切り者?あいつなら、確かに・・・やりかねない。ザイデルが、バカ息子と副隊長を騙して、闇討ちにして、スキルカードやアイテムを奪おうとしたと考えられる。ステータスカードを、アトフィア教に持っていけば、奴の教団内での発言力も増したのかも知れない。 闇討ちをした状態で、ブルーフォレストの奥地に踏み込んで、”なにか”に襲われたのだろう。 「イサーク。事情はわかった。納得できない事もあるが、お主たちが感じたことだろう。それを尊重する」 「ありがとうございます」 「でも、まだ、お主たちが、小奇麗な状態の説明はできていないぞ?」 「え?あっまずは、カズト・ツクモという人物が居るという事実を信じてください」 「あぁ解った。それで?」 「多数のイリーガル称号だけでなく、属性持ちに進化した魔物を多数従えているのも認識してください」 「あぁ納得しよう」 一息着いた。 イサークとピムがなにやら小声で話している。 「ねぇイサーク。だしていい?」 「まだ待て、さすがに、それはやばすぎる!」 今日の話しは長くなりそうだ。 「領主様。誰か、鑑定が使える者はいませんか?」 「鑑定持ち?おい!」 後ろに控えていた、執事が一歩前に踏み出す。 鑑定にも種類がある。普段は、秘密にしているが、こいつは触らなくても鑑定出来るスキルを持っている。 「はい」 「よかった。触っても、いいですが、絶対に、大きな声を出さないでください。俺たちが、カズト・ツクモ殿に貰った物で、ヤバそうな物をいくつか出します」 まずは、ガーラントが小汚い袋を取り出す。あの中になにか入っているのだろう。 そう思ったが、そのままテーブルの上に置いた。 執事が、ガーラントに触ってもいいかと訪ねている。この袋で間違い無いようだ。 「これは、ツクモ殿から借用している物で、返さなければならないが、異常性がわかっていただけると思う」 ガーラントがの宣言を聞いて、執事が再度鑑定を行っているようだ。 「中を触っても?」 「いいですけど、中身はまだ出さないでください」 執事が中に手をいれる。小汚い袋なのに、大切に触るのだな。 執事が、儂の方を向き直して、袋を儂の方に渡す。 「領主様。我が目を疑いました。今日始めて、スキルの結果を信じないという行動に出てしまいました。何度鑑定しても同じ結果が出ます」 「それで?」 「この袋は、”収納スキルが付与された袋”で、ございます」 収納スキル。別に珍しい物ではない。 商人も使っている物も多い。 「収納スキルなら、商人も使っているだろう?」 「いえ、違います。”収納スキルが付与された袋”で、ございます」 「だから・・・あっ!え?そうなのか?」 「はい。回数無制限の収納スキルが付与されています」 「アーティファクトではないか?」 「そうです。領主様。考えてみてください。アーティファクトでも、スキル収納が着いた袋は・・・」 「商人にしたら、殺してでも欲しいと思うな。しかし」 「はい。アーティファクトとしては、それほど珍しい物ではありません。アーティファクトとしてはです!」 たしかに、アーティファクトとして珍しい物ではない。 それに、このミュルダにも、1つ保管されている。本当に、街の緊急時に放出する物が収められている。 「領主様」 「なんだ?」 「袋を見てください」 「袋・・・・え?これ・・・は?」 「おわかりですよね?」 「あぁこの袋は、ミュルダで買う事が出来る・・・街領隊の装備品ではないか!」 ”なぜ?”が頭の中から離れない。 これを作った者が・・・いや、話の流れから、カズト・ツクモという人物が作ったのだろう。 「ご理解頂けましたか?」 「・・・あぁ」 「でも、まだ始まりです」 イサークが、袋を手にとって、1つの魔核を取り出す。 大きさから、レベル5か6程度のものだろう。珍しいと言えば珍しいが、それほどの価値がある物ではない。 イサークが、それを、執事に渡す。 受け取った執事の手が震えている。あの執事が震えるもの? それほど危ないものなのか? 「イサーク殿。間違いないのですか?」 「ガーラントの鑑定でも、実際に使った俺たちも、疑いましたが、その鑑定結果で間違いないです」 「ふぅ・・・試してみていいですか?」 「問題ないですよ。俺たちも何度も使っていますが、問題はありませんでした」 何度も使っているという事は、あの魔核もアーティファクトの一種なのか? 執事が魔力を流し込んで、魔核に付与されているスキルが発動する。スキルの発動時には、微妙な変化がある。 3回変化が観測できた。 3回?同じスキルを3回かける意味は? 「どういう事だ?」 「領主様。この魔核に付与しているスキルは」 執事はここまで行って、言葉を切った。ガーラントとイサークを見ている。 ふたりとも、うなずいている。 「ふぅー”結界と防壁と障壁”のスキルが着いています。それも、使用制限がありません」 「は?もう一度言ってくれないか?」 「結界と防壁と障壁です。領主様」 少々投げやりになっている執事の声を久しぶりに聞いた。 現実逃避したくなる事実だな。 レベル5のスキルが3つ付いている?それだけでも・・・えぇぇいわからん。価値なんて解るか! 冒険者なら、親を殺してでも欲しがる奴がいるかも知れない。レベル5に付与している事を考えると、街領隊で使わせたら・・・無限の可能性がある。 「イサーク。これも?」 「はい。ツクモ殿の眷属である、ドリュアスが、俺たちに渡してきた物です。どうぞ好きに使ってくださいと渡されました」 「は?貸すだけでも・・・いや、盗んだ・・・違うな」 「そんな事、気にしていないと思うよ。ね」 突然、ナーシャが横から話に加わる。 3人が諦めているような表情を見せるが、納得している所から、考えると、”この程度”の物という認識なのだろうか? 騙して・・・いやダメだ、全部話を聞くまでは結論を急ぐな。 「領主様。落ち着かれましたか?次の話にはいっていいですか?」 「まだ有るのか?」 イサークと、ピムと、ガーラントが、深い溜息をついた。 「”まだ”じゃなくて、始まってもいませんよ?これは、ピムが1人で、ツクモ殿に面会した後の話で、俺たちは会っても居ないときです」 「は?」 「次にうつります」 そう言って、イサークが取り出したのは、よくあるデザインで、今、イサークが着ている物と同じデザインの服の上下だ、綺麗になっているし、かなり上等な素材を使っているのだろう。 「イサーク殿?触っていいですか?」 「えぇもちろんです」 執事が青い顔をしている。それほどのものには見えないのだが? 「・・・。ガーラント殿?」 「あぁ残念ながら本当じゃよ。お主も、あれを見たことが有ったのだな」 「はい。あれは本当に美しかった・・・」 あれ? 何のことを言っている? 「おい。何の事を言っている?」 「その前に、領主様。その服は、俺だけじゃなくて、ピムとガーラントとナーシャも、同じ素材の物を持っています。あぁ下着は、何枚か必要だろうと言われて、複数枚もらいました」 「は?複数?え?あっそう言えば、イリーガル・デス・スパイダーが居るのでしたね?」 「えぇ正式には、イリーガル・グレーター・デス・フォレスト・スパイダーです。それの亜種や、属性種が、それは沢山居ました」 今、なんと言った? イリーガル・デス・スパイダーだけでも・・・イリーガル・グレーター・デス・フォレスト・スパイダーだと、伝説級の魔蟲ではないか?よく、此奴等生きてかえって・・・あっ! 「まさか・・・そ」 「領主様。そうです。この服は、私の鑑定では、”イリーガル・デス・フォレスト・スパイダー”の糸で作られた布だと出ています」 確か、白い布で、レベル7相当だったはず・・・違っても大差ない。この服だけで、どれだけの価値がある? それが、人数分、下着も?意味がわからない。 「さて、次の話にうつりましょう」 「まて、イサーク。これが最後ではないのか?」 「は?まだ序の口ですよ?あぁツクモ殿から、俺たちが、ミュルダに帰ると言ったらお土産が必要でしょと言われましてね。下着になってしまいますが、領主とお孫さんのクリスティーネの下着と服も預かっています。どうされますか?」 「クリスのか?」 「はい。ナーシャがツクモ殿にお願いしたそうです。服のデザインはナーシャですので、あまり期待しないでくださいね。あっそれから、この布は、もう暫くは出さないとおっしゃっていました。すみません。俺たちが、価値に関して、いろいろ喋っちゃいまして、市場を混乱させるのはダメだろうという事で、領主様とクリス殿の分で最後になるようです」 「さっきの魔核もか?」 「どうでしょう。価値に関しては、認識されましたが、生活が便利になる物なら提供すると言っていました。でも、レベル1や2の物にするみたいですよ」 「そうか・・・」 イサークは、そう言って袋を取り出した。 こっちは、普通の袋だと笑っていたが、中身が超弩級の爆弾だとは誰も思わないだろう。 「イサークよ。これでおしまいだろうな?」 「そうですね。ピム。ガーラント。そろそろ、ツクモ殿の異常性がわかってもらえたと思うから、いいよな?」 「えぇ大丈夫だと思いますよ」「儂も依存は無いぞ!」 先程の収納袋から、大量の魔核と、大量のスキルカードが出てくる。 魔核は、大きさから、街で不足し始めている、レベル1~3程度のものだろう。数えるのも馬鹿らしくなるくらいの量だ。山になっている。スキルカードもレベル1~4程度だろうか?ざっと見た感じ、2百枚程度あるだろうか? 確かに、価値としてはそんなに高くないが、街として不足し始めている物だ。単純に嬉しい。スキルカードに関しては、数が多いが、街の穀物で支払えるだろう。魔核に関しても同じだ。備蓄してある穀物で払えるだろう。 そういう取引をしたいという事なのだろうか? 「イサークこれは?」 「カズト・ツクモ殿からの”支援”物資です」 「すまん。イサーク。儂は、疲れているかもしれん。もう一度言ってくれ、”支援”と聞こえたのじゃが?」 「えぇ”支援”物資といいました。ツクモ殿は、これだけの物を、ミュルダに無償提供すると言っているのです」 「はぁ?無償?なぜ?これだけの物を?」 いや違うな。先程のことから考えると、カズト・ツクモ殿にとっては、価値がある物と認識していないのだ。 「ねぇイサーク。まだ?」 「もうちょっとだ。待っていてくれよ」 「わかった。あっ!それから、さっき、リーリアちゃんのお姉さんから連絡が入ったよ!それも後で?」 「え?連絡って念話か?」 「うん」 「いい話か?」 「うん。すごくね!」 「そうか、それなら、最後かな?」 「わかった!」 なにやら、イサークとナーシャの会話も気になったのだが・・・。 「イサーク。それで、ツクモ殿は、なにか見返りを期待しておいでなのか?」 「どうでしょう。見返りという感じではないと思いますが・・・そろそろ、本題に入りたいのですがいいですか?」 「まだ本題じゃなかったのか?」 「えぇ残念ながら、でも、本題は、異常性はないですよ。多分」 イサークが語り出した話は、先程の話に輪をかけて信じがたいことだったが、いろいろなパーツを集めて考えると、納得するしか無い。 ツクモ殿が、獣人族を助けた。問題ない。ミュルダにとっては、良い事だ。助ける時に、アンクラムの兵とアトフィア教のほとんどを捕らえるか、殺害した。これも、別にどうでもいい。どうでもいいは間違いだな。ミュルダにとっては良い事だ。 獣人族の集落を作った? ダンジョンに潜らせている?ダンジョンから得た物を獣人族の自由にさせている? 捕らえた教団関係者・・・司祭だろう・・・を、護衛してアンクラムに届けた?その時に、ツクモ殿配下の人間が、アンクラムに潜入した? 可愛い女の子?とてつもなく強い?治療スキル持ち?清掃スキルも? 情報が多すぎて混乱する。 しかし、アンクラムが、ミュルダへの侵攻を中止したのも、常備兵の9割の損失があったこと。教会のトップ3が全員一時的に不在だったこと。それから、先程のスキルカードのほとんどが、アンクラムの兵が持っていた物だという事だ。武装も全部解除されて、男も女も、全裸でブルーフォレストに放置されたのだと言っている。 生き残れた者も、それでは、死ぬか、精神を壊されて、兵としては使い物にはならないだろう。女には、ナイフを一本だけ渡してあるそうだが、それが同士討ちを招いたのだろう。 儂がほしかった情報が手に入った。 安全になったと宣言するには、イサークたちだけの情報では足りないが、安心できる材料には違いない。 ツクモ殿は、ミュルダの恩人に違いない。 利用しようなどと考えるよりも、もっと違う関係が結べたらと考える事ができそうだ。
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