半世紀の契約
(21)依頼②

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

「まず一つ目。悪いが日時は、俺の都合に合わせてもらう。色々と立て込んでいるからな」 「それは構いません。全面的にこちらが合わせます」  当然の事だった為美子は力強く頷いたが、秀明はさほど感銘を受けた様子も無く、更なる要求を繰り出した。 「二つ目。衣装や小物の手配、病院との折衝は一切俺がやる。幸いあそこの付属病院には俺の後輩が勤務中だから、口を利いて貰う」 「え? あの……、衣装や小物の手配は分かるけど、病院との折衝って?」  戸惑いながら疑問を呈した美子に、秀明は冷静に説明を加えた。 「新郎新婦の姿を見せようとしても、その格好で病院の正面玄関から乗り込んだら騒ぎになるし、衛生上の問題になるかもしれない。事情を病院側に伝えて了解を取り付けた上で、手間暇を考えても同じ病棟内で着替えるスペースを貸し出して貰って、そこで身支度を整えるのがベストだ。どうせなら本格的にやるから、メイク担当や着付け担当の人間もそこに出張して貰う。その病棟に、規則に煩い医師や看護師がいないと助かるな」 「そう言えば、そうね……」 (そこら辺の事を、すっかり失念していたわね)  指摘されて呆然となった美子だったが、秀明は容赦なくたたみかけた。 「三つ目。妹達から俺の連絡先をきちんと聞き出した上で、言いたい事があったら、俺に直に連絡をよこせ」 「え?」  先の二つとは明らかに違う内容に、美子は(それにどんな意味が?)と不思議そうな顔になったが、ここで秀明ははっきりと不機嫌な顔付きになって、苛立たしげに告げた。 「会社に近いここをまた指定したって事は、相変わらず俺の住所を知らないし、知るつもりも無いよな? 連絡も美野ちゃんが寄越したし、電話番号もメルアドも、自分では控えていないんだろう?」 「それは……、皆が知っているから、わざわざ聞かなくても良いかと思って……」  かなりの後ろめたさを覚えながら弁解した美子だったが、そんな彼女の主張を、秀明は一刀両断した。 「仮にも婚約者なら、連絡先位把握しておくものだ。演技だとしても頼む以上、礼儀ってものがあると思うがな。それじゃあ、諸々が決まったら連絡する」  そう言いながら伝票を手に立ち上がった秀明を、美子は慌てて呼び止めた。 「え? あの、ここの支払いは!」 「何だ? 俺のする事に、何か文句でも?」  そこでテーブルの横で足を止めた秀明に冷たく見下ろされた美子は、とても「呼びつけたのは私なので、支払いは私が持ちます」と言い出す勇気は無かった。 「……いえ、何でもありません」 「そうか」  それきり美子の方を見ずに秀明は歩き出し、さっさと会計を済ませて歩き去ってしまった。それをぼんやりと眺めながら、美子は密かに悩む。 (どうして急に、あんなに機嫌が悪くなったのかしら……)  しかし容易にその答えは出ず、次に美子は秀明から言われた内容について考えてみた。 (でも確かに……、婚約者を演じて貰う相手の連絡先を全く知らないって、ある意味問題だし、有り得ないかも……)  そんな風に納得した美子は、少し悩んでから今後の方針を決めて帰宅した。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません