半世紀の契約
(25)お誘い①

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 病院関係者にも、まだ妹達には母親の病状を説明してはいないからと母同様に口止めをして、偽装結婚の件を上手く誤魔化した美子だったが、日が経つに連れて別な事で悩み始めた。 (やっぱりこの前の事は、幾ら何でも甘え過ぎよね……)  姉妹揃っての食事の最中、ふと悩んでしまった美子は、箸の動きを止めてしまった。 (改めてちゃんとお礼をするべきだとは思うけど……、『代金は全て自分持ち』だとあれほど強く言っていた位だから、お金は受け取ってくれないだろうし)  そして眉間に皺を寄せて、角皿に盛られているカレイの煮付けを凝視する美子。 (何か品物を贈るにしても、こういう場合にはどんな物を贈れば良いのか……。好みも分からないし)  そんな事を考えながら、端から見ると親の仇でもあるかの様にカレイを凝視している長姉を見て、妹達はこそこそと囁き合った。 「何か、また姉さんが変よね?」 「最近、まともな方が少ないと思うわ」 「やっぱり江原さん関係?」  そして美子の隣に座る美恵も、無言で面白く無さそうに姉を眺め、微妙な空気のまま、その日の夕食は終了した。 「美子姉さん、今、入っても良い?」  台所を片付けて明朝の準備も済ませた美子が自室で寛いでいると、美幸がひょっこり顔を出して尋ねてきた。それを怪訝に思いながらも、美子は鷹揚に頷く。 「構わないわよ。美幸、どうかしたの?」 「江原さんと喧嘩したの?」  部屋に入るなりストレートに聞いてきた末の妹に、美子は僅かに顔を引き攣らせた。 「……どうしてそんな事を聞くのかしら?」 「美子姉さんが変だから」 「あのね」  あまりの即答っぷりに、思わず項垂れてしまった美子だったが、美幸の断定口調は変わらなかった。 「だって江原さん絡みじゃない事で、そうそう姉さんがキレたり怒ったり暴れたり考え込んだりしないもの。それで、何?」  どうあっても引く気は無さそうな美幸を見て、美子は一つ溜め息を吐いてから、半ば自棄気味に言い出した。 「それじゃあ、ちょっと美幸の意見を聞きたいんだけど」 「うん、何?」 「ある事で江原さんに、ちょっとした借りができてね。心苦しいわけ」 「うんうん、なるほど」  わざとらしく頷いてみせる美幸に美子は内心苛ついたものの、怒りを抑えて話を続けた。 「それでお礼をしたいんだけど、お金は受け取って貰えないと思うし、品物を贈ろうかと思っても、どういう物を選べば良いか、判断が付かなくて困っているのよ」 「ふぅ~ん」 「それで、どうすれば良いか悩んでたんだけど、何か良い考えがある?」 (まさか美幸が提案してくる筈も無いけどね)  相談の形にはなっているものの、正直美幸の回答には全く期待していなかった美子だったが、美幸は事も無げに言ってのけた。

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