「あら、誰かしら?」 「あ、私出るね」 夕飯時、インターフォンの呼び出し音が鳴り響いた為、一番端末に近い所に座っていた美幸が立ち上がって駆けて行った。そして受話器を取り上げて応答する。 「もしもし? …………はい、分かりました。今出ます」 そしてすぐに通話を終わらせた美幸が、受話器を元に戻すと同時に、廊下に向かって走り出す。 「宅配便の人が来たから、受け取って来る!」 「あ、ちょっと待ちなさい、美幸!」 そこで一瞬遅れて、また秀明からの物かもしれないと思い至った美子は、慌てて椅子から立ち上がって自身も玄関に向かって駆け出した。同席していた美実と美野が驚いた様に目を見張ったが、美子はそんな事には構わずに一直線に玄関を目指す。そして美幸がまさに玄関の戸を開けて、外にいる人物に声をかけている所で追いついた。 「ご苦労様です!」 「あ、藤宮美子さんにお届け物で」 「待ちなさい、美幸!」 「きゃあっ! ちょっと、美子姉さん!!」 ギリギリのタイミングで乱入した美子は、背後から美幸の左手を掴んで配送員から引き離しつつ、大きな花束を抱えている彼に向かって言い放った。 「それの送り主は、江原秀明よね!? とっととそれを持って帰りなさい! 絶対、受け取りませんからね!!」 「もう! 美子姉さん強情!!」 「何とでも言いなさい! 私宛の物を私が拒否して、何が悪いのよ!?」 「あの、藤宮さん……」 心底困った様な情けない表情になった配送員を見て、美幸は溜め息を吐きつつ、美子の隙を狙って右手を自分のフレアスカートのポケット中に入れた。そしてそこに入れておいた物を掴みだすと、配送員に向かって軽く放り上げる。 「本当に素直じゃ無いんだから……。じゃあ、お兄さん。パス!」 「え? あの、これは……」 「さっさと使って!」 片手で咄嗟に受け取ったものの、小さな円筒状の黒い物を見下ろして当惑した配送員は、すぐにその意図を察して美幸に頭を下げた。 「え? まさか美幸」 「ご協力、ありがとうございます! 荷物はこちらに置いておきますので。お邪魔しました!」 「ちょっと! 待ちなさい!!」 美子が顔色を変えて詰め寄る前に、彼は素早くシャチハタで受け取りの欄に押印し、花束を慎重に玄関の上がり口に置くやいなや、勢い良く踵を返して駆け去って行った。そして美子は門まで追いかけたものの、素早く配送用のバンに飛び乗った男が勢い良く走り去って行くのを見送って、歯軋りしながら玄関まで戻って来る。 「うおぅ、ゴージャス花束。江原さん、随分気合い入れてるよね? 美野姉さんから話を聞いて、シャチハタ常備が役に立ったわ」 花束を見下ろして感心している美幸を見て、美子は完全にムキになって呟いた。 「送り返してやる……、美幸。それ、そのままにしていて。触っちゃだめよ」 「え? 美子姉さん?」 そのまま肩を怒らせて、恐らく集荷を頼む為の電話をするであろう姉の姿を見送った美幸は、「こんなに綺麗なのに…」と呆れ気味の呟きを漏らしたのだった。
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