「そうですか。母が間抜け女ですか」 「あ、いや、美子君。今のはだな」 「それでは、誰でも入れるような三流大学に何とか押し込んだものの、元々大した能力も無い為に就活に悉く失敗し、唯一コネを利かせられる父親の会社に就職させれば、社内で社長令息の肩書を使って経費を誤魔化して自分の懐に入れたり、社内の女性に二股三股かけていたのがばれて到底庇い切れず、会社に居づらくなる様な息子しか産めなかったあなたは、恥知らずの殻潰しとでもお呼びすれば宜しいですか?」 「なっ!!」 「なんでそれを!?」 「お前! こそこそ調べてやがったのかよ!?」 そう言って酷薄な笑みを向けた美子に、珠子は怒りで益々顔を赤くし、正輝と剛史は狼狽えて怒鳴り返した。しかし美子は白けた様な表情で言い返す。 「あら、図星でしたか。あなた方の様などうでも良い人達のどうでも良い事を調べる為に、時間やお金を使うのは無駄と言う物です。ただ普段付き合いの無い家の葬式に、平日仕事を休んで来るなんてよほど再就職先に困っていらっしゃるのかと。自身の父親の会社にも居づらくなるなんて、余程のろくでもない事情かと思っただけですわ。勿論、今私が口にした内容だけでも無いのでしょう?」 「……っ!!」 「あの、美子君。これは」 もはやぐうの音も出ない連中と、狼狽えるばかりの小者を冷たく見やった美子は、感情を感じさせない声で言い放った。 「即刻、お引き取り下さい。これは藤宮家の総意です」 「は?」 「金輪際、我が家はあなた方を親族として遇するつもりはありませんし、訪ねてきても客として遇しないと、申しております」 「何を言っているの?」 すこぶる冷静、かつ冷め切った声での美子の宣言に、咄嗟に橋田家の人間は反応できなかったが、美子はわざとらしく溜め息を吐き、相手を真正面から見据えたまま、背後の妹達に呼びかけた。 「どうやらごく初歩的な日本語も理解できない、残念極まりない方々の様ですね……。美恵」 「はい」 「美実」 「当然よね」 「美野」 「分かりました」 「美幸」 「おっまかせ~!」 「あ、ちょっと美幸! お膳を飛び越えるなんて、何事よっ!!」 美子の呼びかけに答えたのも、腰を上げたのも年の順だったが、一番先に橋田家の席まで到達したのは、迷わず最短距離を選択した美幸だった。そして問答無用で剛史のお膳を持ち上げ、さっさと廊下に向かって歩き出す。 「よっと!」 「あ、おい! 何をする!」 慌てて引き止めようとした剛史の横で、美野が正輝のお膳を持ち上げながら、淡々と説明を加える。 「美子姉さんが今後一切、あなた達を客として遇しないと言いましたから。あ、ちょっと美幸! 足で襖を開けるのは止めなさい!!」 「は? ちょっと待て!」 驚いた正輝を丸無視して、美野が美幸を叱責しつつお膳を抱えて後を追うと、美恵と美実も当然の如く夫婦の膳に手をかける。 「親族でも客でもない人間に、饗する膳はありません」 「そういう事。……あら? 往生際が悪いわね」 「あなた達! こんな事をして良いと思ってるの!?」 橋田は呆然としていたが、珠子は憤怒の形相で美実に渡すかと自身の膳に手をかけて抵抗した。しかしその上から、料理の上に徳利の中の酒が降りかかる。 「お酒まみれのお料理が、そんなにお好みですか。そんな恥ずかしい酒乱の方は、藤宮家の親族にこれまで一人たりとも存在しておりませんが」 横から手を伸ばした美子が、徳利の中身を全て珠子の膳の中に流し終えてから侮蔑的な視線を投げかけると、珠子は顔を赤黒く染めて勢い良く立ち上がった。 「……っ!! 覚えてらっしゃい!!」 そして捨て台詞を吐いて足音荒く一家が出て行くのと入れ違いに戻って来た妹達に、美子が言葉少なに言いつける。 「美野、美幸。塩」 「はい!」 「行って来ます!」 嬉々として再び台所に戻って行く二人と、何事も無かった様に二つの膳を運び去る美恵と美実を見送ってから、美子はこの間唖然として事の成り行きを見守っていた参列者に向き直って、頭を下げて謝罪した。
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