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 クロノから宝石魔法で魔力の底上げをしてもらった時から、私はずっと考えていた。  強すぎるこの魔力を最大限活用するため、一体何ができるだろうかと。  何度かダンジョンに潜って戦ったとはいえ、私は戦闘のプロではない。  いくら指輪で力を増幅させても、きっと実戦では宝の持ち腐れになってしまうだろう。    それでも、役に立ちたいと思った。  魔王として、私についてきてくれる部下たちのために。  ううん、それも本音ではあるけれど……何よりも私の傍にいてくれる、彼のためにこそこの力を使いたい。  ずっとずっと、そう願っていた。  そして、戦いが始まり、彼が窮地に立たされた時──私は一つの考えに思い至る。 (指輪で増えたこの魔力をすべて、クロノに与えることができたなら……!)  クロノの守護結晶の力は並外れていて、ほんのひとかけらでも絶大な防御力を有していた。  なら、それをもっと広く、大きく展開できれば──それこそすべての民を守り、敵を打ち倒すことができるのではないか。  彼が竜族に追い詰められた時それをひらめいた私は、敵の視線がクロノに向いた隙に、いつか使った古代契約魔法を再び発動させる。  契約内容は、指輪で増えた魔力も含め、生涯持てる私の力をすべてクロノのために捧げるというもの。  だから今、私たちが勝つために、クロノにさらなる力を与えよと。  そして、私が魔力を自分の身体から消したのは、囮になるためじゃなく、それを全部大地に注ぎ込んだから。  その契約により、大地と魔力のパスがつながり、幾重にも増幅された力が彼へと入り込む。 「──守護結晶を全面に展開させて下さい!」  果たしてその方策は功を奏し、すべてを包み込むほどの防御陣が完成する。  それは包み込むというよりは、天地を分断すると言った方がいいかもしれない。  幾何学模様で連結された、広大な魔力結晶の大壁面。  その壁は、地上の民と天空の竜たちを分かつように、地平の果てまで展開されたのだった。 「すげえ……」  クロノが呆然とつぶやく。  彼自身が使い手であるにもかかわらず、これを自分が出したとは信じられないという表情だ。  でも、まだまだ。  守るだけじゃなく、敵に勝つために──そして、クロノが頂点に立ち、皆を率いていくためには、守護結晶この力をさらに強くすることが必要となる。 『──この場にいる、すべての魔族に命じます! 我、ロゼッタ・アグレアスの後に続き、全員の魔力を礫帝クロノ・ディアマットに結集しなさい! 皆の力を合わせて、敵を打ち倒します!』  テレパシーで同族たちに呼びかける。  『自分がするのと同じように、契約魔法の念を唱え、大地に自らの魔力を捧げよ』と。  フレイヤたち上空の四天王が私の意図を察し、それに従う。  残りの兵や民たちも、それに続いて同じ文言を一斉に唱えはじめた。  『──我ら魔族の名のもとに、ここに誓いの呪言ことばを捧げる』  『──大地に眠る精霊たちよ、我らの願いを聞き届けたまえ』  『──我らに宿る力のすべてを、我らが魔王のために行使する』  『願わくば、我らにあだなす目の前の障壁を、その魔力をもちてうち滅ぼしたまえ──』  ドッ、ドッ、ドッ……と、心臓の鼓動のような魔力の流れがクロノに注ぎ込まれてゆく。  力強く、深い律動。戦場にいるすべての魔族たちが、一つの大きな生命体になったかのようだった。  守護結晶の輝きが増してゆく。  魔力の密度が充満し、それが白から黄金の光へと変わる。  皆を守るその力は、もはやただの防御壁と呼ぶには値しない。  言うなれば、それは『絶対守護領域』── 「撃ってください、クロノ!」  私は彼へと叫ぶ。  生成された結晶からは、強大なエネルギーがあふれ出していた。  呼びかけられ、そのことを瞬時に理解したクロノは、それを砲撃として敵へと解き放つ。 「おおおおおおっ──!!」  ──ドドドドドドゥッ!  光の一斉掃射が竜たちに直撃する。  それはまるで、地表から空へと流星が巻き戻っていくかのような光景。  上空の味方に魔力の弾が当たることはなく、抜群のコントロールと強さによって、クロノはすべての敵に致命傷となる逆転打を与えた。  ──ズガガガガガアッ!! 「なっ……何だとぉっ!?」  竜たちが次々と撃墜され、敵の将帥ラグナが動揺の声をあげる。  クロノはその隙を見逃さず、守護結晶を盾として、彼に突進し上空へと押し上げた。    ギュオオオオオオオッ──!! 「お、おのれッ……矮小な人間ごときに……ッ!」  ラグナはその突進を受けて、こらえきれないといった様子で魔力を開放した。  皮膚が裂け、内側から竜の身体が現れる。  それこそが竜族の本当の姿。  露出した肉体は何倍にも膨れ上がり、目の前のクロノを一飲みできるほどに巨大化する。 「食らってやる……! 貴様など、我が牙と爪で引き裂いてやるわッ!」 「やってみやがれ、この野郎ぉっ!!」  クロノは退かない。  守護結晶を自らを包む球体になるよう連結させ、そのままの勢いで竜の口の中に突っ込んでいく。 「がああああああっ!!」 「おおおおおおおおっ!!」  そして、お互いの魔力がぶつかり合った時、片方がもう片方を貫き、彗星のようにきらめいて飛び出した。  貫いた勝者は、もちろん──クロノだ。 「ば、馬鹿なっ……こんな馬鹿なことがあああぁっ!!」  ラグナが怨嗟の断末魔を上げながら地表に落ちてゆく。  竜の肉体を突き破って出てきた私たちの礫帝、クロノ・ディアマットは、返り血を浴びながら何よりも美しく輝いて見えた。  守護結晶を解除して、クロノは高らかに右拳を掲げる。  夕陽に照らされるその姿を受けて、私たちは大きな勝鬨かちどきの声をあげたのだった。

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