黒兎少女
通り魔(2)

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 その日の夜。 「街中にいる悪魔は初めて見たわ」  倫子は興奮気味に、今日のことを話している。 「珍しくはない。これからもちょくちょく遭遇するだろう」  とサンドル。 「人間に憑きたがる悪魔は多いからな」 「ふうん」  ちなみに母親の朋子は、今夜は女友達の家に泊りである。倫子は想像したくもなかったが、アラフォー女子たちのパジャマパーティーを開くのだそうだ。  倫子は椅子をクルッと回して机にむかい、ノートパソコンで〝通り魔〟を検索する。 「これね。〝通り悪魔、通り者ともいう。気持ちがぼんやりとしている人間に憑依し、その人の心を乱すとされる日本の妖怪──」  ウィキペディア記事をそのまま読んでいく。 「──通り魔のそばで心を乱すと必ず不慮の災いを伴うので、これに打ち勝つためには心を落ち着けることが肝心だという。現代においても、理由もなく殺人を犯す人間を『通り魔』というが、かつてはそのような行ないは、この妖怪が原因とされていた〟か」 「だいたいそれで合ってる」  とサンドル。 (じゃあ、あの男子高生も……)  人間関係とか進学で悩んでいたところをつけこまれたのか。 「面倒なのは、その手の悪魔の格はピンからキリまでってことだ」 「今日の通り魔は?」 「話を聞いただけでは何とも言えん。倫子の今の力では、無用に近づかないのが賢明だ」  新人魔女へのこのような忠告は、使い魔の仕事のうちの一つなのだ。 「でもどのみち、もうどこかへ去ってしまったんでしょ」

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