黒兎少女
クラスメイト(6)
数日後。 日曜日である今日は、終日アルバイト(食品工場のライン作業)に精を出していた。平日以上に疲れていたが、倫子は今夜も机にむかって翻訳作業に勤しむ。 ノートパソコンに表示されている難解なアルファベットの文章群は、魔女のための魔導書『黒兎の書』の原文である。真っ黒のUSBメモリに、その全文のデータが入っているのだ。これは倫子が魔女になったとき、必需品として〝あの方〟から授かったものだった。 黒無地の遮光カーテンが小さく揺れる。 少しだけ開けていた窓の隙間から、灰猫のサンドルが音もなく帰ってきたのだ。 「倫子」 サンドルが呼びかける。愛らしい猫の身体に似合わぬハードボイルド風の渋い男性の声音だ。彼は倫子の〝使い魔〟だった。 倫子はすぐに手を止め、待ってましたとばかりにクルッと椅子ごとふりかえる。 「どうだった?」 「おまえの言ったとおり、梅本は東京の留置所にいた」 サンドルは主人である倫子の命令で、梅本の現状を探りにひとっ飛びしてきたのだ。 「自首して逮捕されたのはニュースでもやってたわ」 女子高生惨殺事件として、すでに世間も騒ぎはじめている。 「それから?」 「さっき自殺した」 倫子があのとき梅本に囁いた〈暗示〉魔法のセリフは、「逮捕されて自供を終えたら、自分がいちばん苦痛だと思う方法で自殺しなさい」だ。 「どうやって?」 「素手で自分の睾丸を引きちぎったらしい。二つとも」 なにかが弾けたように、倫子は腹を抱えて大笑いする。めったに笑わないため慣れておらず、その顔は不細工に引き攣っていた。 クラスメイト(終)
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