黒兎少女
先輩(1)
西棟三階にある図書室。 その閲覧スペースの片隅で、倫子は一人で昼食(毎朝自分で作っている弁当)をとっていた。 (やはり一人は落ちつく) 教室では見せない、リラックスした表情。窓際を背にし、三方を本棚に囲われた空間はちょっとした個室感があり、心地良い。今日は自習をしている他の生徒の姿もないからなおさらだ。 昼食を終え、続きを読もうと文庫本に手をのばしたそのとき、 「柏木さん」 クラスメイトの木村香織が不意にあらわれる。長身の快活なスポーツ少女は、静的な図書室には似合わない。めずらしく親友の九条彩音の手を引いておらず、一人だ。 要件に心当たりはなかったが、自分の時間を邪魔されて、倫子の気持ちは薄く曇る。 香織は申し訳なさそうに手を合わせて、 「お願いがあるんだけど」 倫子はますます憂鬱な気分に陥る。 (お願い? 宿題を見せてほしいとか? それとも教師から用事を頼まれてその手伝いか? 貴重な昼休みを潰して今から? それとも放課後に居残りで?) 「どんなこと?」 「あたしの中学の先輩のことなんだけど。1コ上で、市清の二年生」 市清とは、清廉市立清廉高等学校のこと。学力もスポーツもほどほどの共学高校だ。清廉女子高から徒歩で十分とかからない、お隣りである。 「変わった病気で、もう一週間くらい学校も休んでて。柏木さんなら、もしかしたら治せるかと思って」 香織の表情から察すると、状況はわりと深刻なようだ。 「わたしは医者ではないわよ」 「柏木さんには、彩音を助けてもらった不思議な力があるでしょ」 「……それで?」 「その先輩、もしかしたら呪いをかけられてるかも」
応援コメント
コメントはまだありません