黒兎少女
通り魔(6)
1‐Cの教室。一時間目後の休み時間。 倫子はいつものように、窓際の自分の席で文庫本を読んでいた。 「柏木さん」 そこへ香織と彩音があらわれる。二人とも、雲が晴れたように明るい顔をしている。 彩音は昨日から通学を再開していた。悪魔憑き状態のときの記憶がまったくないのが幸いしたようだ。ほかの生徒たちも気を使って、あのときのことは話題にしないと取り決めているらしい。 「柏木さん、ありがとう。あなたが治してくれたって聞いて」 「あたしからもありがとう」 彩音と香織はそれぞれ感謝の意を表すものの、半信半疑というか、狐につままれたような顔をしている。 「でもいったいどうやったの?」 香織がもっともな疑問を口にする。 「それは企業秘密よ」 倫子はそっけなく返す。とくに魔女としての守秘義務があるわけではないが、説明が面倒くさい。 「もう二人は仲直りはしたの?」 ついでになんとなく訊いてみる。 香織は幸せそうに彩音と微笑みあいながら、 「うん。おたがい、ほかの友達と遊びに行くのは禁止にしたんだ。遊ぶときはいつも二人一緒でって。一生」 (いっしょう? 聞きまちがいか?) 倫子は一瞬耳を疑う。 そういえば、以前はふつうの手の繋ぎかただったのに、今はおたがいに指を絡ませあう恋人繋ぎをしている。 (まあ、どうでもいいけど) 「それで柏木さん。あの、お礼の話なんだけど」 と彩音。 「ええ」 肝心なのはそれだ。悪魔祓いを終えてから、すでに三日が過ぎている。 「今日、家に電話してくれれば、両親が話をすると思うんだけど……」 「そう、わかった。必ず連絡させてもらうわ」 倫子は嫌な予感がした。彩音の口ぶりが、なぜか気まずそうなのだ。
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