黒兎少女
先輩(5)

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 十日後、香織を通して連絡があった。  小柴加奈恵が死んだそうだ。悪性の肉腫と診断され、切除手術中に出血多量で息絶えたという。その際、考えられないような医療ミスがあったらしい。手術中の医師が突然発狂したかのような……。  そんなことは倫子にとってどうでもよかった。それよりも、あの呪いを仕掛けた人物のことが気になる。 「手掛かりが何もないし、こちらからはもう探りようがないわね」 「面倒が起きないならけっこうなことだ」  サンドルはそういうものの、倫子はモヤモヤしていた。隅田朝美から謝礼として、待望ともいえる初めての依頼料(五万円)を受け取るが、その喜びよりもモヤモヤのほうが上回っていた。    そんな矢先。  学校帰りの倫子が川沿いの道を歩いていると、並木の陰から、十歳くらいの男の子が姿を見せる。金髪碧眼の絵に描いたような白人の美少年で、執事服を身につけている。 「なに?」  倫子は思わず足を止める。   少年は年に似合わぬ礼儀正しさでお辞儀してから、 「柏木倫子様ですね」 「ええ」 「ぼくはミス美夜子みやこの召使いでジュリアンと申します」  流暢というより、ネイティブの日本語だ。 「美夜子さんというのは……」 「先日亡くなられた小柴様の呪いを請け負った者です」 「!」  倫子は面食らってしまう。こんなにも堂々とコンタクトしてくるとは。 「ミス美夜子が、ぜひ柏木様とお会いしたいと申しておりまして、こうして参上いたしました」 「用件はなにかしら?」 「特にございません。これも何かの縁、縁さえあれば、魔女仲間として親睦を深めるというのがミス美夜子の信条でございまして」 「小柴加奈恵のことで、何かクレームがあるんじゃないの?」  先手を打って探りを入れてみる。 「その件でしたら何も問題はございません。料金はすでに前金で全額いただいておりましたので。依頼人の生死などは別に」  ──なるほど、それなら納得がいく。 「招待をおうけするわ」 「ありがとうございます」  ジュリアンが子供らしくニッと笑う。歯が人食い鮫のようにギザギザだ。 (この子、使い魔だ……! 人間タイプもいたとは)  住所を書いたメモを受け取り、 「いつ伺えばいいかしら?」 「どうぞ、柏木様のお好きな日にお越しください。それでは失礼します」  ジュリアンはまた丁寧にお辞儀し、去っていく。その後ろ姿は、まるっきり人間の男の子だ。

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