8.― CRACKER IMP ― この図書館はお気に入りだった。デジタル化されていない膨大な情報が集約され ている。ハッカーの仕事をする様になってからは、調べ物に重宝していたんだ。ま さか“組合”の本拠地だったなんて。 意外とテツとすれ違っていたのかも知れないなって思うと、なんかロマンチック に思えた。笑えるよな、こんなに拒まれているのに、やっぱりテツの事を諦めきれ ない。ホント、情けないな。 輝紫桜町のポルノデーモンだった俺が、こんなにも一人に執着してるなんて。 テツの本心が分かった訳じゃない。でも、押し殺してるって事だけは分かった。 これ以上、俺の方からは何も言えない。何れにしても、ここからは仕事の方にし っかり集中しないと。 クライアントの為にも、そしてテツといられる時間が限られているなら、必ず良 い結果で終えたい。そんな風に考えてないと、前に進めなかった。 顔パスで一般人の入れないスペースへ入った。十メートルはある偏光ガラスの大 窓は程々の光を建物に取り込んでいる。この建物は何から何まで洗練されていた。 レトロ調のエレベーターの前に立っている、スーツ姿がテツの姿を捉えると、ゆ っくりと近づいてきた。 「鉄志、昨日はすまなかったな……」 「いいんだ秋澄。紹介するよ、相棒の蓮夢。任務の功労者だ」 今更そんな紹介しなくたって、全部知っているくせにと思う。テツの雰囲気から すると、秋澄とはかなり親しい様だった。――携帯とは違う無線端末を傍受した。 「組合長、秘書役の秋澄だ。君とは一度会って話してみたかったんだ。鉄志が世話 になったね。そして今回の件も感謝している」 手を差し出されたので軽く握手する。傍受した電波を解析すると、義手の制御デ バイスの様だ。腕だけじゃなく、義足の信号も出ている。そうか、テツが言ってい た負傷したお仲間ってこの人の事か。歳の具合もテツに近いし間違いないだろう。 「それはどうも……」 秋澄の俺に向ける視線でピンときた。使い道のない、どうでもいい俺の特技が発 動してしまう。――この人、ゲイだ。 しかも、バリタチだな。テツもそうだったら良かったのに。 「組合長がお待ちだ。こちらへ……」 少し狭いエレベーターに乗り込んで手動のシャッターを秋澄が閉める。義手のレ スポンスが数コンマ遅い。本人は慣れで何とかしているみたいだが、微調整した方 が良さそうだ。制御デバイスのソフトもかなり古い。 この施設もサーバーで管理している様だが、テツと秋澄、施設内にいる数十人の 携帯端末からシステムへの入り口を見つける事が出来た。プロテクトはそれなりに 強固だが、テツの携帯をハッキングした時に使ったマルウェアを流用すれば、突破 出来そうだ。テツには悪いけど、俺なりの対策と自衛は取らせてもらうからな。 あの“夢もどき”のせいなのか。デジタルブレインのパフォーマンスが格段に上 がっていた。それもこれまで以上に良くなっている。 理想的な感覚。これぐらい感覚的にタスクをこなしたいって思っていた。七年か けて理想へ近付けてきたが、今はかなり良い感じだった。 “組合”のシステムも大した事ないな。侵入に成功する。今は何もしないが、や ろうと思えば何だって出来る状態だ。 今になって思えば、海楼商事のセキュリティは間違いなく“俺の様な”者に対抗 する為のセキュリティシステムだったんだ。そして“ガーディアン”を用心棒に雇 って万全の体制。きっと俺と同じ、ネットワークデバイスに直結して、感覚操作で きる――違法サイボーグ。それが“ガーディアン”だ。 デジタルネットの世界も、次の段階へ移行しつつあるのかも知れない。その防御 策も構築されつつある。 厄介に思える反面、ハッカーとしては、やり甲斐を感じるところもあるけど。 エレベーターは四階で止まったが、テツも秋澄も動かなかった。何かの手違いだ ろうか。再びエレベーターが動き出す前に小さく深呼吸した。いよいよか。 “組合”のボス。やっと話すべき相手に会える。ずっと感情を抑えてきた。テツ と手を組んだ時点で、必ずリスクが生じるのは覚悟の上だった。 それでも、クライアントさんの弟一人助けるぐらいはやれる筈だと高を括ってい た。デカい組織がそんな事に拘る筈ないと。――でも、実際は違った。 急に日の光がエレベーター内に射し込んで来る。最上階は屋上。逃げ道なし。 見張らしも良く、解放感があって気持ちの良い場所だ。大理石の床、向こうには 屋根付きのスペースがある。大きな暖炉とアンティークなテーブルやソファ、デス クが置いてある。武器屋の安田や、裏社会の連中がこんな所で商談や悪巧みをして いるとはな。 雰囲気で分かった。あのスペースの中央に立っている、一級品のスーツとコート に身を包む中老がボスだと。後ろの美人は副が付く役職の雰囲気があった。 逸る気持ちが足を急かすが、駄目だ、落ち着け。テツの顔に泥を塗る様な真似は 避けるべきだろ。 先ずは話さないと、質問に答えてもらって、それから交渉か取引だ。テツもその 気でここへ来たし、俺を連れてきてくれた。――落ち着け、まだだ。 でも、どうなんだろう。分かり切っているのに、それを聞いて拒否されて、交渉 や取り引きも取り合ってもらえないと目に見えてるのに。 何故なら、ここにいる“組合”は何処かの“組合”の言いなりになっている。日 本に構えた支部に大した発言力はない。テツからはそんな雰囲気が漂っていた。 何だか、結果が分かってるのにやるのは、馬鹿馬鹿しいよな。 高々、俺達二人の人間が、組織と組織の衝突に入り込める訳ないんだ。 もう堪えるのは止める。テツの手が肩に触れたけど、掴み損ねる。俺の方が早か った。真っ直ぐボスの元へ向かい、胸倉を掴んで引き寄せた。 「海楼商事が攫った“サイキック”達をどうするつもりだ! “二日後の八時”に 何をする!?」 手持ちの情報を全部ブチ撒けてやった。余計な言葉はもうウンザリだ。話すべき 事を話してもらう。この施設はハッキング済み、安田の偽銃が誰の手に渡っている のかも、二日後に何をしようとしているのかだって、全て筒抜けなんだ。 もっと揺さ振ってやりたかったが、老いぼれのクセに全然重心がブレない。すま したツラをして見下しつつも、何かを狙っている目。 支配階級な奴等、特有の顔だった。クソが――勝てる気がしない。 気持ちが押されてしまった瞬間、胸倉を掴む右手を捻られ、一瞬で押し倒れてし まった。大理石に背中を潰されて息が詰まる。 視界が定まる事には、シルバーモデルの拳銃が眉間に向けられていた。 「人の言葉が理解出来るなら立つがいい。輝紫桜町のハッカー……」 「河原崎……」 テツからボスの名が溢れる。河原崎、変わった名字だ。 俺なんかじゃどうにもならない相手らしい。折れてないけど、メチャクチャ痛か った。 ゆっくり立ち上がると、河原崎は向けていた銃を下ろしたが、もう一人は相変わ らず銃を向けていた。 綺麗な目をしているが、性格はかなりキツそうな感じだ。 「ルオシー、銃を下ろせ。目障りだ」 銃口が消え、危機が去ったのを確認してから右肘の関節部を擦っていると、河原 崎が軽快に笑って見せる。 「威勢が良いな、気に入ったよ。大した相棒じゃないか鉄志」 テツのバツの悪そうな顔に、罪悪感が込み上げるが、俺の怒りはまだ収まってな かった。 海楼商事が世界中から人を攫っていたのは、売る為でもなく、バラす事でもなか った。――仕立て上げる為。 盲点だった。攫われた人々の事や、その理由なんか考えた事もなかった。 まさか攫われた人達全員が――サイキックだったとは。 「先ず、我々への協力に感謝する。命を懸けてくれたそうだね、相応の対価を払わ せてもらうよ。鉄志もそれを望んでいる」 知性に富み、包容力と暖かみの言葉とは裏腹に、どこかフラットで硬さを感じる 心に思えた。 ありがたい話だな。テツの雰囲気から“組合”の報酬ってのは、かなり羽振りが イイからな。お金は欲しい、HOEの稼ぎだって一ヶ月持つかどうか。テツにも借 金してしまったから。それでも。 「俺の話から逸れるな、金で黙るつもりはないよ。攫われた人達の中には俺のクラ イアントの身内がいるんだ。救出する邪魔はさせない」 今は金を受け取る訳にはいかない。と言うより“組合”相手では、弱味や貸しの 類いになりそうな気がする。 もっと厄介なのは“組合”がサイキック達をどうするかだ。聞かずとも答えは見 え透いてる。 攫われた人達の詳細が分かるまでは“組合”の目的も、意図も分からなかったけ ど、強力な力を持つサイキックならば、優秀な人材としてこの上ない。 しかも戦闘訓練まで済まして即戦力だった。喉から手が出るぐらい“組合”なら 欲しがるだろう。 武器と傭兵を掻き集め、駐屯施設を武力制圧してサイキック達を“組合”に取り 込み、海楼商事の積み重ねたものを全て奪い取る気だ。 海楼商事がやっていた事は、サイキックやサイボーグを主軸にした次世代の戦闘 ユニットの開発。 どこで運用されるのかは分からないが、これが確立されれば、世界の在り方、戦 争のレベルも一気に引き上げられる。――とんでもなく、イカれてるよ。 ここまでのテツの話と、この施設のデータアーカイブをハッキングして、引っ張 り出した情報を照らし合わせる限りでは、テツとここの“組合”組織は海楼商事の 軍需産業の事を知らなかったのは間違いない。 所謂、海外の“組合”が把握してて、情報を制限して日本の“組合”を都合良く 駒使いしていたってところだ。 何にしたって、この島国は立場が弱過ぎる。俺がガキの頃からとっくに破綻して いた。尤も、俺はそれどころじゃなかったけど。 「残念だが、もう止める事は出来ない。かと言って勝手にうろつかれても困る。次 は命はないぞ」 ふざけるなと言い返そうと思ったが、テツに制止される。間に割り込まれてテツ は河原崎と対面した。 「河原崎、これでいいのか? 外の連中の言いなりになって、日本人傭兵を何百人 も投入して……。相手は得体の知れない次世代の部隊だぞ。最新の戦闘型サイボー グに常識が一切通じないサイキックの兵士だ。ドローンやオートマタ、高速戦車も 配備されている可能性が高い。単純な制圧戦が通用するとは思えない。これじゃ消 耗品扱いもいいとこだ、イワン・フランコのやっている事は度を越えてるぞ」 「相変わらず分を弁えない奴だ。部外者を連れ込み、組合長を危険に曝したな、た だでは済まさないぞ……」 「構わんよ、ルオシーは下がれ。話の邪魔だ」 さっきからイイとこなしだな、ルオシーは。ウザがられてるのか、それとも何か 別の理由があるのか、河原崎とは近い立ち位置に見えるけど、信頼関係は皆無だ。 ほくそ笑んでいると、ルオシーに睨み付けられたので、流し目であしらってやっ た。軽い一礼と共にルオシーはエレベーターの方へ向かって行った。 「鉄志、お前達の活躍で日本の“組合”は大きくなった。しかし元々“組合”に内 も外もない。あるのは掟と忠誠心のみ……」 それは建前なんだろ。って言いたくなるが、二人の会話に入り込める余地はなさ そうだった。テツと河原崎から立場を超えた絆が垣間見える。 テツ達の世代が、日本の“組合”が最初に送り出した傭兵部隊だった。 「アンタは望んじゃいない……。俺達の事をそう想ってくれた様に、兵士達の事を 案じている筈だ」 「勘違いするな鉄志。兵士だけの“組合”ではない。これに属する全ての日本人に 対して、私は厳正に執り行うだけだ」 「なら、俺達も前線へ参加させてくれ。作戦に影響は与えない。たかがツーマンセ ル一つ投入するぐらい大した影響はないだろ」 テツも河原崎も苦しいところだな。二人の信頼関係はかなり深い様だ。河原崎は 冷静な表情を決して崩さないが、テツの言葉がかなり響いてる。テツも分かってて 言っているんだ。 どんなに身構え様と、俺の戦場に対する認識はかなり甘い。だとしても、救出す るなら、赴かなければならない。 千人規模の銃撃戦に二人で乗り込んで、何とかなるものなのか。今のテツからは 根拠を見出だせなかった。とにかく任務へ関わろうと、俺やクライアントへの心苦 しさで動いている。――河原崎もきっと見抜いているだろう。 「鉄志、無理だ。この作戦は全て、イワン・フランコに前任され欧米の“組合”中 心で行われる。もう、我々が入り込める余地はない」 「二人では何も出来ない……」 秋澄が河原崎の横へ付き、鉄志に話した。その様を見て確信したが、やはりこの 場にいるルオシー以外は、現状を望んでいないらしい。それでも――掟と忠誠か。 人材を利益と財産とするなら、欧米側の“組合”は独占したい。日本の“組合” には関わらせないって訳だ。 河原崎の言う通り、後ろ楯もサポートも出来ない現状では、二人で行っても無意 味かもしれない。それが現実なのか。 「“組合”の目的は海楼商事が構築した軍隊、つまりは優れた人材の回収だ。虐殺 はしないよ。制圧して取り込むだけだ」 「運が良ければ、その中の生き残りになるとでも? 納得できないよ……」 秋澄を牽制する。運任せな上に、二の次の様な扱いもムカつく。 それでも、周りが熱を持ち始めたせいなのか、逆にこっちは冷えてきた。このま まだと平行線を辿るだけの会話になりそうだ。 視野を広げるか――狭めるか。 「俺やアンタが作戦に関わる権利はある筈だ。このまま言いなりになれば、俺達だ って取り込まれるぞ。どうか、再考して欲しい……」 やはりここから先、駒を進めるには河原崎を動かすしかないか。雰囲気はテツと 似ているが、辛抱強くて信念がそのまま厳格に繋がっている。でも、テツの指摘通 り、部下の身を案じているのも事実だ。 一介の殺し屋に過ぎないテツを今でも気にかけて、立場を無視した関係でいるの も、ある種の親心や責任ってヤツかも知れない。 さて、どうすれば落とせるか。 「お前達を警戒して拘束しないだけ、ありがたく思え。話は終わりだ、行け……」 河原崎はエレベーターの方向へ手を出して促し、話を切ってきた。その瞬間、目 が合う。偶然ではない、意図的な視線に思えた。 どうやら、ここまでの様だ。 「河原崎……」 テツは諦め切れない様子だったが、尻目にして、エレベーターへ向う。既に頭の 中では、各情報を紐付けする作業に取りかかっていた。 “組合”は動き出した。もう止める事は出来ない。海楼商事も黙っちゃいないだ ろう。 これには予測を立てられないが、荒神会に密輸船、アクアセンタービルと再三に わたり攻撃を受けて来て、こちらの狙いがサイキック達にある事は気付いている筈 だ。必ず身構えている。 “組合”は六〇〇人弱の傭兵、海楼商事はサイキック達とサイボーグ、オートマ タを含めて、同じぐらいの規模で間違いない。 俺とテツでその中に入り込んで、たった一人を見つける。 確かに、馬鹿げてるよ。何かもっと、根本を見直して考える必要がある。でない と――河原崎は納得しないだろう。 「蓮夢、待て。おい蓮夢」 走って追い付いたテツが、行く先へ回り込み、足を止めさせる。一息付いて、神 妙な面持ちで真っ直ぐと見つめてきた。 「お前、まさか一人で行く気じゃないよな?」 「何言ってんの? 二人でどうにもならないって言われたのに、一人で行ったらバ カじゃん」 しっかりしてもらいたいな。戦場に行くなら、テツが頼みの綱だって言うのに。 テツの頬に触れる。強張った筋肉が解れるまで触れていたかったけど、程々にし ないとな。 「テツ、あの人が俺達を押さえ付けなかった事には意味があるんだ。それを考えな いと……」 今の俺達は、河原崎にとって意図しない事をやり兼ねない不安要素。言われて気 付いたが、拘束しないのは不自然だった。あの視線も。 「考えるって、何をだ? 河原崎を納得させる事をか?」 「二人では何も出来ないか……」 俯き加減に指を口元に添える。河原崎の言葉を思い返した。 確かに二人は少ない、なら増えればいいのか。そんな単純な話でもないだろ。 でも、一人でも増えれば出来る事も増える。成功率も上がる。現状、デメリット となる要素は何もない。――プラスで考えてみるのも悪くないかも。 俺はクライアントの家族を助けたい。テツと河原崎は日本人傭兵の犠牲を懸念し ている。これを解決するには。 効率重視で引き算して無駄を削ぐのが何時もの思考だが、今回は逆のアプローチ で思考してみる。成し遂げる為に必要なものを足していくんだ。そうすれば問題点 が見えて来る。ソイツの解決策が見付けて行けば、活路は開ける筈だ。 サイキックの中からクライアントの弟を見付けるにしても、犠牲を増やさないに しても、重要なるのはスピードだ。 素早く戦闘を終わらせる事が出来れば、敵も味方も犠牲は少ない。出来るだけ早 く“組合”が勝利すればいい。――どうやって。 問題点は多いけど、悪くない考え方かも知れない。この方向性で考えれば、クラ イアントの家族だけじゃなく。他のサイキック達も多く救える。 サイキック達が“組合”に吸収される事が最良ではないけど、こんな事で理不尽 に死ぬよりはマシな筈だ。今はそう信じるしかない。 “組合”の側を早く勝利させれば、結果的に多くを救える。それと並行して救出 も行う。 確かに――二人じゃどうやっても無理だった。 「テツ、ここから先も手を貸してくれる?」 「そのつもりだ。それに、この案件は日本の“組合”が失墜しかねない問題だ。俺 にとっても都合が悪い」 デジタルブレインのAI達が近年の戦場における、戦術システムの運用方法に関 する情報を引っ張り出す。ネットから得られる簡単な情報ばかりだが、俺にはベテ ランの相棒がいる。少しばかり知識共有できればいい。引き続き、使えそうなネタ を探させよう。 まだ僅かばかりだが、何をすべきか見えて来た。――希望はある。 「あまり望ましい手じゃないけど、やるしかない……」 当初の目的のみを果たす為に、小規模で物事を考えても通用しない。周囲のレベ ルが高過ぎる。 だから、俺達も目的のレベルを引き上げるしかない。 一人を助ける為に、全員を助ける手段。そして自身の生存よりも、味方の勝利を 最優先にする。――もう、やるしかないんだ。 自分のルールを曲げて、手を汚す事になっても、諦めて堪るかよ。すぐにでも行 動を起こさないと。 「蓮夢、何をする気だ?」 テツの問いにふと気付くと、視界はあらゆる情報で埋め尽くされていた。ネット の情報は何重にも重なり、海楼商事から奪った情報レポート、ハッキング中のウィ ンストン記念図書館内のデータアーカイブ、シミュレートソフトやらでゴチャゴチ ャに犇めていた。タスクを脳裏に引っ込めてテツを見据えた。 これだけやっても、頭痛が起きる気配もない。イイ感じだけど、それでも満たさ れない。 もっとだ。クソみたいな現実を――ひっくり返したいなら、もっとだ。 「テツ、仲間を集めよう……」
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