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12.― CRACKER IMP ―  覗き込んだ顔は緊張していた。無理もないか、昔から信頼し合ってると言え、大 ボス相手に、物申すのだから。  でも、準備は整った。全ての情報が繋がり、対策も構築中だ。大丈夫、きっと上 手くいく。  立派な書斎だ。統一されたアンティーク系の家具が並び、この部屋だけがヨーロ ッパにありそうな、お城の一部屋に思えた。組合長、河原崎の部屋。  装飾が施されたドアから、不釣り合いな電子音、ロックが解除され組合長殿がお 目見えになる。  証明のスイッチを入れるが、キャンセルさせた。この部屋の操作系統は既にハッ キング済みだ。うっすらとした間接照明のみの明かりに留めておく。  異変に気付きながらも、河原崎は慌てる素振りも見せず、ソファとテーブルを挟 んだ先の机に腰掛ける俺と目が合った。 「貴様……」 「悪いね、勝手に入らせてもらったよ……」  貫禄と言うか、尋常じゃない迫力だ。投げ飛ばされた記憶もあって、心が引っ込 みかける。  輝紫桜町で腐る程の悪党やロクデナシ、権力塗れの支配者共を見てきたけど、河 原崎は別格だ。――まさに“長”だ。 「殺されても、文句は言えないぞ」  装飾の入った銀色の拳銃を向けてきた。表情が読めないのが不気味である。  すぐに撃ちはしないだろうけど、やる時は躊躇なく引き金を引くだろうと容易に 想像できた。 「そう、恐い顔しないでよ。改めてお願いをしに来ただけなんだから。勿論、タダ でとは言わないさ……」  何を考えているのか分からない強面の相手なら慣れている。ジャケットをずらし て肌を露出させる。  相変わらずの茶番だが、早い内に互いの緊張を解した方がいい。 「爪先から頭のてっぺんまで、御奉仕してあげるよ。麻薬の様にハマる輝紫桜町の ポルノデーモンは如何? パパ……」  表情一つ変えない河原崎。テツといい、堅物が多いのかな“組合”は。煽り甲斐 がない。呆れるなり、にやけるなりしてもらいたいものだ。 「蓮夢、それぐらいにしておけ。興奮させて倒れられても困るんだ」  河原崎に背を向けて、ソファに座っているテツが口を開く。悪くないタイミング だ。間接照明を少し明るくする。腰を上げ、河原崎と対面した。  テツからは事前に、この会談の舵取りの様なものを任されてしまった。河原崎の 動向に目を光らせ、効果的に演出して欲しいそうだ。  飲み会の幹事とか、めんどくさくて避けるタイプなんで正直、荷が重い。 「鉄志、勝手が過ぎるんじゃないか……」 「分かってる、非礼は詫びる。でも譲る訳にもいかなくてね。座って話そうじゃな いか」  河原崎は微動だにしなかった。このままテツのペースにはさせまいと、牽制して いる。  これから俺達がやる事は、河原崎を巻き込んで、欧米主体の軍事作戦に加わる事 だ。必ず承諾させる。  さっさとテツと話してもらいたい。河原崎の後ろに向かって目線を送る。 「俺がアンタなら、素直に座って話を聞くがね……」  背後の僅かな影から現れた忍者。河原崎の目が一瞬泳いだ。  流石、忍者だな。そこにいるって分かっていても気配がなくなる。まさに闇に溶 け込むってヤツだ。  三対一、殺意こそなくても俺達の圧力は感じている。特に鵜飼の鋭い眼光は河原 崎にプレッシャーを与えていた。いい感じ。  テツに促されて、やっと河原崎がソファに座り向かい合った。  何とか余裕ぶった表情をテツは作ろうとしているがその分、動きがぎこちない。  もっとふてぶてしくソファに深く座ってふんぞり返った方が、河原崎にインパク トを与えられるし、グラスの酒も自分の物の様に遠慮なく飲めばいいのに、どうし て遠慮がちに飲むかな。――そう言う不器用さが愛おしいけど。 「ユーチェン、河原崎にも酒を注いでくれないか?」  段取りを話した時、一番乗り気だったのはユーチェンだった。黒衣とキツネの面 は迫力抜群だ。河原崎も三人に気を取られて、特に隠れてもいなかったユーチェン にやっと気付く。見事、その容姿に釘付けになった。  酒の入ったデキャンタボトルとグラスを念動力が浮かび上がらせ、滑らかに河原 崎の目の前で酒を注いで見せた。便利だな、念じるだけで物理的に物を動かせるな んて。  感覚的には、デジタルブレインを使うのと似ているのだろうか。 「氷、要ります?」  大き目のロックアイスが、ユーチェンの手の平でフワフワと浮いている。  河原崎もサイキックを実際に見るのは、おそらく初めてなんだろう。視線の奥に 好奇心が伺える。 「結構だ」 「そう……」  開いた手をグッと握ると、宙に浮く氷は粉々に砕けて散らばった。その様に、反 射的にビクリとなった。――おっかな。  普段のユーチェンは世間知らずで物静かなのに、黒衣を纏うと人が変わった様に 堂々と振る舞って見せる。まさに人を見下す怖ろしい妖だ。  同時に、その甲殻を以て、喪失と焦燥に押し潰されない様にしている。  ずっと独りで戦ってきたんだ。しんどかったろうに。  テツにアイコンタクトを送った。さて、芝居がかった演出はここまで。俺とユー チェン、鵜飼が只者じゃない事は理解してもらえた。  ここからはテツが舵を取る。 「二人ではどうにもならないって言ったな、だからチームを編成した。ハッカーと 殺し屋、甲賀流忍者とサイキックによる遊撃部隊だ」  テツが座るソファへ回り込み、四人を河原崎へ見せた。  明確な目的を持たず、臨機応変に戦闘区域で活動する遊撃隊。まさに俺達にピッ タリな言葉だった。 「遊撃? 何をするつもりだ……」 「アンタ等“組合”を勝たせてやるよ。その代わり、二つ程条件を呑んで欲しい」 「サイキックの兵士、戦闘型サイボーグ、戦車にドローン、オートマタ。勝てる見 込みが低いのは歴然だ。こちらの兵士が幾ら優秀でもな」  テツは立体端末を取り出し、言葉だけじゃなく。明確に敵のスペックを河原崎へ 提示した。  “組合”を勝たせられる根拠はまだ乏しいが、残された時間で高める事は出来る と確信している。 「俺達四人を前線への独立出撃、HQにオペレーション席を一つ。これが一つ目の 条件だ。もう一つは……」 「私の弟が敵の側にいる。救い出したら一切干渉しないで欲しい」  この状況に顔色一つ変える事のない河原崎に痺れを切らし、狐の黒い面を外した ユーチェンが話に割って入る。  真っ直ぐで強い意志。干渉すれば容赦しないと無言で河原崎に突き付けていた。  河原崎も鋭い人だ。ユーチェンの思いのその先まで見透かそうと思考を巡らせて いる。心の揺らぎを感じた。 「君は、その肉親の為に、そうして戦って来たのかね?」 「生きる理由に、しがみ付くしかなかった……」  静かに面を被り、再び黒狐に戻る。本音を言葉にしても心は面で覆い隠された。  ユーチェンは俺と似ているな、それしかない仕方がないと、諦めてひたすら突き 進んで行く。――サイボーグになる前の俺と似ている。  独りでは、前進してると勘違いして、軌道のズレに気付けないタイプだ。 「“組合”とサイキック達の犠牲を最小限に抑えるには、敵の指示系統から制御系 に至るまで全て破壊して、その混乱時に素早く制圧する事だ。俺なら全てに侵入で きる」  河原崎が静かに見据える。目玉の裏側のデバイスまで貫かれる様な雰囲気に身体 が強張った。下手なハッタリは全て見抜かれてしまいそうだ。 「捜索、救出に関しては、偵察用のドローンを飛ばして個人を特定させる。かなり な広範囲だけど、そちらのHQにオペレーターを置いてくれれば、効率は上がる」  立体端末の補足情報にも目を通してくれているが、掴み所のない人だった。俺や テツの案に対して、賛成とも反対とも言えない、静かな表情をしている。  それでも、昼に会った時は完全に取り合わない姿勢だったのが、今は俺達の話に 耳を傾けてくれていた。間違いなくチャンスの筈なんだ。 「制圧後はエリアMとYと共同で施設の後処理を行う。そっちの片付けが終わった タイミングでな。見返りは施設をもらう。悪くない話だろ?」  鵜飼が段取り通りに、行政機関側の取引を持ち込む。市長さんが提示した条件ら しい。  後始末と黙認を条件に施設をもらう。これは“組合”に対する抑止だ。握る弱み もお互いに半々。その場凌ぎでも、落とし所としては上等だ。 「お前の主君は?」 「俺の口からは話さん。だが、今回の一件に関しては目を瞑るつもりだ……。アン タ等が“必要悪”だと言うのなら、一先ず受け入れると主君は覚悟を決めている。 俺はこの眼で、それを見定めるまでだ……」  フードとマスクに隠れた顔を横目に見ていると、コイツなりに重圧を背負ってい るのかと感じ取れた。その風貌と厳格な姿勢で威圧感もあるが、身の丈に合ってな い様にも思える。  この若さで公僕だとか御国だとかを背負って戦うってのは気疲れしそうだ。ホモ フォビアのクソ忍者だけど、憎み切れないな。  河原崎。底の見えない人だけど、非情な人ではなさそうだ。ユーチェンの事を察 し、鵜飼の素性から行政の折り合いを考えていた。  お膳立ては出し尽くした。ここからはテツ次第だ。気付かれない様にテツの肩に 指を当てて合図する。 「体勢も整っている。情報も充分にある。俺達は“組合”の任務において、間違い なくプラスになれるんだ。無茶を押し通す価値はある」  テツから目を話す事なく、グラスの酒を飲み干してテーブルに置いた。 「“組合”の首席レベルの連中が定めた任務だ。勝手な真似をすれば、我々とてタ ダでは済まされない。分かってる筈だ鉄志。我々に余地がない事は……」  “組合”は歴史の永い組織だが、思想はシンプルなものだった。属する者に求め るものはただ一つ――“忠誠”のみ。  故に、それに反する行為。裏切りや背徳、不誠実や脱却は何よりも重く、死を以 て贖わくてはならないそうだ。  “ナバン”も“組合”も、少量の甘い蜜で釣って、搾り取るだけ搾り取る。拒む 事も出来ず、逃れ様とすれば――デカい代償を払う事になる。 「忠誠の為に、負けると分かっている戦場に傭兵を送るのか?」 「アンタだって本音は望んじゃいないんだろ? 人と時間に出資してきたのに、目 先の利益で浪費して搾取されるなんて、その忠誠と秩序って、本当にそれだけの価 値があるの?」 「河原崎、これを見て欲しい……」  ここまでは昼間と同じ押し問答だが、今のテツは――切り札を持っていた。  スーツの裏ポケットから、例の戦闘型サイボーグの写真を取り出して河原崎に手 渡した。 「先週、港区で起きた密輸船爆破事件。海楼商事が裏で仕切ってる密輸業だ。これ は鵜飼が潜入時に襲いかかってきた、戦闘型サイボーグの姿だ」 「それがどうかしたか……」 「マイクロ・マグネティックなんて代物をインプラントしたサイボーグなんて滅多 にいない……。背格好も似ている。河原崎、コイツはイワンだ。イワン・フランコ だ」  磁力を帯びたマイクロデバイスの集合体。事前にプログラムしておけば、形状は 自由に変えられる上に、密度を調整すれば柔軟な皮膚や肉の質感から、弾丸も弾け る程の硬度にも容易く変えられる。  適合率さえ高ければ、何でもインプラントできると言う良い見本だった。  テツに海楼商事の調査を押し付けたクソ上官のイワン・フランコ。余程嫌いなの か、テツはコイツの事を話したがらなかった。  この映像のサイボーグが“組合”の人間だとしたら、欧米の“組合”はとんでも ないミステイクをやらかしていると言う事になるが。こればかり信憑性を図り兼ね た。テツにしか分からない事だ。 「根拠に乏しいな……。何故イワンが裏切ると言うのだ?」 「海楼商事は兵士育成の為に、方々から凄腕を招いている節がある。我等忍者の中 にも外界進出を掲げる一派が絡んでいた。おそらくイワンも、その内の一人。奴は “組合”とは別の組織と繋がっているのだ。そして“組合”があの施設に目を向け た事で“組合”内部の情報を流しながら、上手く立ち回っていたのは、想像に難く ない……」  イワンの真意はともかく、信憑性を高める捕捉だ。複雑に絡んでいる。  テツも鵜飼も、海楼商事の悪事に敵対しているのに、自分の一部がその敵と関り がある。マスク越しの顰めた眉が、口惜しそうにしていた。 「俺達は時間稼ぎに利用されたんだ。単独任務なんて非効率な方法で……。密輸船 が来て、積み荷の兵器を手に入れるまでの間。そしてイワンにとって、何らかの利 益を得られるタイミングまでな」  非効率と一言片付けられるのは不本意だな。有らん限りを尽くしていた身として はと、言いたい所ではあるけど、結果は核心に迫り切れなかった。  ここにいる四人全員が、もしもあの時にって悔やみを抱いてるザマさ。 「この情報は確かに状況証拠のみかもしれない……。しかし、もし真実なら取り返 しの付かない事になるぞ」  予想もつかない状況だ。イワン・フランコが“組合”を裏切る事でどんな影響が 起きるのかなんて。確かな事は“組合”の傭兵達が更に不利になる事と、囚われた サイキックの兵士達にも希望はないって事だ。  イワン・フランコの一人勝ち。或いは海楼商事を操る、黒幕の支配層共のの完全 勝利。  世界中の裏社会において、圧倒的な影響力を誇る“組合”の失墜を誘発しかねな い。混沌は大きなうねりとなって、裏も表も巻き込んでしまうだろう。  容易に想像出来る事だけに河原崎の表情も曇り出した。その心が僅かに四人の側 へ傾きつつあると感じた。大きな組織を束ねる器を持った人間が、僅かな懸念や不 安要素を見過ごす様な馬鹿ではない筈だ。 「何故、執着する? 鉄志……」  “ナバン”で仕込まれたセンサーが鋭く反応する。――落とした。  河原崎の心は鉄志に傾いている。その後ろにいる俺達にも。  天秤にかけていた冷たくて重々しい組織の掟や忠誠心と、俺達の核心。傾きは水 平に揺らいでいる。でなけりゃ個人的な質問はしない。  テツ、頑張れ。もう少しだよ。揺るぎない本物の――心を見せてやれ。 「執着なんかじゃない。アンタもよく知ってるだろ、俺の“性”だよ。相棒や仲間 の為に全力を尽くす。日本に戻ってから、すっかり忘れていた……。それを、取り 戻しただけだ。だから引き下がらない。アンタと俺達でデカくした“組合”だ。こ んな事で潰されて堪るかよ」  こんな組織。俺にはそう思えても、鉄志にとっては仲間達との時間が残る唯一の 居場所なのかもしれない。  あんなに嫌っていた輝紫桜町の色に、染まり切ってしまった俺の様に。  だから傍にいたいのだろうか。変えられない現実を知る者同士の傷の舐め合いと か、一時的な逃避をしたくて。――危ういよな。  かと言って、素直に諦める事も出来ないし、引き下がる気もないから厄介だ。  ソファから腰を上げたテツと共に、河原崎は俺達を見据えた。 「河原崎、やらせてくれ。アンタを失望させた事は一度だってない。今回も証明し て見せる」 「地獄の大歓楽街で生きてる俺に言わせればさ“組合”も海楼商事も、この日本っ て国だってどうでもいいのさ……。でも、目的の為に必要なら、何だって引っ繰り 返す。全部まとめて、面倒見てやるよ」 「この無頼者には賛同できんが、五年後もこの地が在り続ける為に、まずは海楼商 事の悪事を断ち切る。貴様等“組合”とは鉄志を通して協力する……今はな」 「邪魔者は全て薙ぎ払ってきた……。どうか、邪魔しないで欲しい」  気付くと、四人揃って我の強い主張を河原崎に言い放っていた。それでも、これ が俺達の理屈も飾り気もない本物の想いだった。  河原崎の静かで鋭い眼を一際強く見据えた。――俺は絶対に譲らない。 「パンク共が……。改めて零時に此処へ集まるがいい。必要な物を揃えてやる。成 すべき事を、成すがいい……」  テツが静かに深く一礼したので、寸前でガッツポーズしそうな身体にブレーキを かけた。騒いで飛び跳ねたい気分なのに。  振り向いたテツは小さく頷き、の表情も明るかったが、すぐに表情をキリッと切 り替える。  「これでチームは結成された。作戦まで二十九時間を切っている。一時解散して英 気を養え」  入り口の電子ロックを解除して、部屋の照明を標準まで戻す。  今は午前三時、次に此処へ来るまで約二十一時間か。必要なマルウェアの作成と “エイトアイズ”のメンテナンス。やるべき事と考えればキリがないが、どれだけ 詰められるか。 「鉄志」  二人が早々に退室したタイミングで河原崎がテツを呼び止めた。 「良い相棒を持ったな。しかしこの借りは大きいぞ……」 「覚悟してるよ」 「心配するなよ、組合長さん。これから俺が作る貸しで、帳消しにしてやるさ」  テツの後ろから抱き付いて、河原崎に言い放ってやった。  良い相棒と評価されるのは嬉しいけど、テツの重荷にはなりたくなかった。寧ろ “組合”に対してデカイ貸しを作ってやる。  今更、虚勢の一つや二つ重ねたって何て事はないって、意気がって見せた。侮れ ないな――河原崎って人は。  部屋を出ると、ユーチェンは面を外し、鵜飼は腕を組んで待っていた。  皆一様に安堵と緊張を交えた目をしている。俺も近い気分だ。この四人で敵組織 を完全制圧して、ユーチェンの弟、ジャラを助け出す。  二人の元へ行き、テツは右手を差し出さした。 「共に戦える事を光栄に思う。必ずやり遂げよう、俺達ならやれる」  スポーツチームとかでやる、景気付けみたいな事でもする気だろうか。  一応、相棒として最初に手を添えておく。 「暑苦しいノリ……」  茶化す言葉を受け流したテツはフッと笑みを浮かべていた。 「俺は嫌いじゃないがな」  鵜飼の手が重なる。コイツと上手くやってくには、色々気疲れしそうだな。かと 言って下手に煽ればテツがムキになるし。  黙ってさえいれば、強いし頼れるけヤツなんだけどな。 「鵜飼、蓮夢、鉄志。ありがとう……」  最後にユーチェンが両手で上下を包み、声には出さず、四人でグッと結束を固め た。対立や誤解を重ねてきた四人だけども、何となく上手くやってけそうな気がし てきた。大丈夫。  曲者揃いの四人、生まれもスタイルも何もかもが違う四人。  そんな事を思っていると、不意にあの単語が浮かび上がってきた。 「“ダイバーシティパンク”結成だね」 「何だそりゃ?」 「見ての通りの、多種多様なはぐれ者の集まり、パンクだろ?」  鵜飼は怪訝そうな表情を浮かべているが、ユーチェンは満更でもなさそうな雰囲 気だった。こっちも思い付きで口走っただけで、特に拘りらしいものはなかった。  でも、俺達は多様で唯一無二だ。自分達にしか出来ない事を重ね合わせれば、き っと凄い事が出来る。無限大の可能性を感じずにはいられないんだ。 「この際なんだっていい、略称の“DP”をコードネームにしよう」  二十九時間後、これまでの人生で経験した事もない世界に足を踏み込んでしまう か。一体、どうなるのか。俺に何が出来るのか。  違う、俺がやらないとダメなんだ。想像を超えた世界で唯一、俺にしか出来ない 事をやらないとならないんだ。――俺の価値がここで決まる。  やってやろう、サイキック達の為に、不条理に晒される傭兵達の為に。  ユーチェンとジャラの為に。特別思い入れはないけど鵜飼の為に。  そして、テツの未来の為に――その先に俺が求める“何か”があると信じて。

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