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14.― KOGA LIU ―  ユーチェンは上手くやってるだろうか。鉄志と蓮夢はどうなってるか。これだか らチームを組むのは苦手なんだ。気が散るんだよ。  流石の望月も動きが鈍ってきた。感覚は相変わらず研ぎ澄まされているが、身体 が付いて行けてない印象だ。鉄志の言っていた、必殺の連続を浴びせれば、今なら 一撃ぐらいは防げないだろうが、残念ながら俺の方もバテて来てる。追い詰めても 追い詰めても肝心なところを寸前でかわされる――仕留め切れなかった。  忍者同士、流派は違っていても同胞だ。ここまでの本気の殺し合いをした事はな かった。伊賀流がこれ程までとは、強過ぎる。 「思ってたより、しぶといな……」  こっちの台詞だ。さっと逃げてしまえばいいものを、甲賀流の俺に対する意地と ジャラへの執着。――ジャラはそこまで大切だと言うのか。 「諦めろ望月……。ジャラはユーチェンの弟、唯一残された家族だ。お前の勝手は 罷り通らないぞ」  おそらく望月にとって、今の状況は想定外。ジャラはもっと早く戻ってくると踏 んでいたのだろう。――きっとユーチェンが上手くやってくれている筈だ。  それを確かめる為にも、早いところ決着を着けないと。  「それはどうかな……」 「家族を引き裂いてでも手駒が欲しいか、望月!」  左手で頭を抱えた望月は俯き気味に静かに笑い出す。嘲笑はやがて高笑いになっ ていく。何がおかしい、外道の分際で俺を嘲笑うか。  “大蛇”の刃を握る力が強まる。 「家族だと、笑わせるな。ただの足枷だ……。それに貴様が言うか鵜飼。知ってい るぞ、つまらない事で家族をバラした張本人だって事を……」  甲賀筆頭の鵜飼家が離散状態に陥っているのは、兄貴が去ってから、あれよあれ よと噂が拡がってしまった。  ある事ない事言われ続けているが、原因の一つが俺にあるのは事実だった。  許せなかった、あんな目に遭ったのに、兄貴はそれを受け入れて自由奔放に振舞 っていた。苦しんでいた俺の事なんか考えもせずに。 「黙れ……」 「数年間にお前の兄、剣勇(けんゆう)に会って話した時、雲の様に漂う姿を見て 大体の察しは付いたよ。忍者のコミュニティは閉鎖的だからな。何処の“里”にも ある話だ。お前も“手懐けられた”口か?」  既に“大蛇”を望月の顔面目掛けて放っていた。避けられればすぐに鎖を下げて 再び放った。――不味いぞ、落ち着け。  鎖を回しつつ、望月に接近して接近戦を仕掛けた。時間差で襲い掛かる刃、鎖を 盾に望月の短刀をかわす。体術も“大蛇”の扱いも身体に染み付いているだけに過 ぎない。頭に血が上ってた。――駄目だ、落ち着け。  閉鎖的なコミュニティ。その通りだ、大人も子供も皆が見知った仲だ。そして子 供は大人に逆らえない。大人は誰もが“師”であり、子供は誰もが“弟子”と言う 関係だった。逆らえないんだ。  皆、分かっていても口にはしない。同じ筈なのに、どいつもこいつも兄貴の事を 知った途端に手の平を返した。兄貴が余計な事さえしなければ、こんな事にはなら なかったんだ。 「下衆が!」  荒ぶる“大蛇”の刃、足技を中心に間合いを保っていると。堪り兼ねたか望月が 飛び上がって一気に距離を離した。  深追いはするな、今の内に落ち着くんだ。呼吸を整えて、今すべき事を脳内で唱 える。望月を退いて、ユーチェンの元へ行く。怒り任せに立ち回って倒せる程、望 月は甘い相手じゃない。挑発に乗るな。 「恥じるな鵜飼、どうせそんなものだろ?」  あのバカ兄貴から聞いたのだろうか、俺達の事を、何があったかのを望月は知っ ている風だった。耐え難い、こんな屈辱は。  望月が突如、頭巾とマスクを剥ぎ取ってその場へ捨てた。――気息切れか。 「呪うは己が無力さのみ。我等は所詮、乱破だ。人の道を行けると思うな」  余裕ぶった鼻持ちならない態度は変わらないが、肩で息をしていた。右目は小刻 みに痙攣している。  これだけ激しく戦ったんだ。疲労困憊なのは当然だが、望月の疲労の感じはそれ とは違った違和感があった。  “超感覚”が故に、要する集中力は常人を遥かに超えるのだろうか。だとすれば 脳への負担と疲労もかなりものだ。  “トランス・ヒューマン”と言えども人間だ、限界は存在する。 「ケリを着けてやる望月……」  改めて構え直す。危険だが今なら――あれをやるチャンスかもしれないな。  望月も短刀を構え直した。やはり呼吸が乱れている。ここまで際どい戦いの連続 だったが、粘った甲斐があった。  覚悟を決めろ、命を捨てなければ成功しない。しかし、気負い過ぎると勘付かれ てしまう。気を鎮めて集中する。望月偲佳よ――目にもの見せやる。  鎖を垂らし時計回りに回転させる。空を斬る音が重みを増していく。望月の目は まさに鷹の眼だ。確実に刃を捉えていた。――さぁ、避けるがいい。  勢いよく刃を投げつけるが、望月は数センチ程度身体をずらして、あっさりと避 ける。  八の字に振り回して牽制し、鎖を右足に絡めて軌道を変えて望月に放つ。宙に舞 い身を捻らせて、これも寸前で避けられてしまった。  最後の一打。引き寄せた鎖を身体に巻き付け、身を屈めて背中越しに刃を放つ。  この距離では絶対に避けられない一撃だが、望月は正確に短刀で刃を弾いて勢い を殺した。ゼロ距離。  望月の表情が勝利を確信してか、笑みを浮かべているのを見た刹那、ドンと胸に 衝撃を受ける。両手でしっかり握られた望月の短刀が胸に刺さったのだ。激痛に全 身が震え、堪える度に息が噴き出すが――これで終わりじゃないぞ望月偲佳。  両足で踏ん張って、押してくる望月の勢いを止める。この耐え難い痛みも、驚愕 した望月の表情を見てると笑えてくるな。  望月の短刀は、俺の左腕を貫き、抑え込んだ。胸は深手に至らず、身体に巻き付 けておいた“大蛇”の鎖が急所からずらしている。――今度はこっちの番だ。  胸に刺さった短刀を押し抜く、貫かれた腕の筋肉が短刀を圧し、簡単には抜き差 しはさせない。望月は攻める手段を失った。  両腕で望月を抱き締め、右足に絡めた“大蛇”の鎖を一気に引いた。地面に転が った“大蛇”の刃が鎖に引かれ、飛び上がって戻ってくる。更に左足を望月の足に 絡めて、逃げられないように固定し、刃は見事に望月の背中に突き刺さった。  叫ぶ間も与えず刃を握り、更に深く刺して鎖を望月に巻き付ける。望月の腰を乗 り越えた反動で投げ飛ばして鎖を引き、望月を地面に叩き付けた。  半身を起こし上げる望月に向かって、俺を突き刺した苦無を投げ付け、更に“大 蛇”を放った。望月は“囮”の苦無を受け止める事は出来たが、間髪入れずに放っ た刃までは反応し切れず、刃は望月の胸骨を貫いた。  しかし、望月は受け止めた苦無を握り立ち上がった。まだやる気か。いや、当然 か。俺も同じ立場でも立ち上がるだろう。その上――武闘派の伊賀流だ。  「終わりだ、望月偲佳……。お前の負けだ」 「なんの……我等の飽くなき挑戦に終わりはない……」  血塗れの口元は薄ら笑みを浮かべていた。これだけの深手を負いながら、死の恐 怖も微塵も見せず、最期まで伊賀流の望月偲佳で在ろうするのか。  渾身の力を込めて両腕で鎖を引き寄せる。望月も向かって来る気だったが、鎖に 引っ張られる方が勢いがあった。望月偲佳――手強い相手だった。  突き出して来た苦無をかわして、顔面目掛けてカウンターで肘打ちを当て、望月 は完全に沈む。終わったな。  “大蛇”の鎖を首にかけ、感覚のない左腕に刺さったままの短刀を引き抜く。ぼ たぼたと血が滴ってくる。満身創痍、血の気も引いて吐き気が込上げて来た。  横になるか、座って息を整えたかったが、その後動けなくなりそうな恐怖があっ た。今はやめておこう、動ける内に動かねば。――周囲から殺気が立ち込める。  音もなく俺の間合いに入り込み、立ちはだかったのは初老の忍者だった。後ろに 目をやると、二人が小太刀を構えてる。もう一人の忍者は、望月の様子を見ながら 胸の止血をしていた。四人か。 「やるか? 構わないぞ……」  望月の短刀を逆手に持ち変えて構える。来るなら来い。こんなザマでも、負ける 気がしない。 「どうかこのまま、退いて欲しい」  このおっさん、隙がないな。後ろの二人からは恐れから来るピリピリした気配を 感じ取った。  俺次第と言う訳か、風火党め。ユーチェンの心配や時間があったなら、このまま 戦って全員潰してやれるのに。――同胞のよしみ、それが落とし所か。 「二度と、あの二人に関わるな。僅かでも貴様等の気配を感じたら、次は皆殺しに してやる……」 「承知した」  短刀を下ろすと、後ろの二人も小太刀を鞘に収め、望月を担いだ。遠くから小さ なヘリがやって来る。コイツ等で最後か。 「失せろ。急所は外してある……」  とは言ったが、狙ってやれる事じゃなかった。脳裏に一瞬“同胞”と言う言葉が 過ったのは事実ではあるが。  わざわざピックアップに戻ってくるとは、望月偲佳の人望によるところか、単に 貴重な戦力か。  出来る事なら望月に止めを刺し、この場の忍者共から情報を洗いざらい吐かせた かった。サイキック達を何人手中に収めたのか、何処に隠れるのか。しかし、今の この情況では、打つ手がなかった。  俺が、甲賀の筆頭でこの場に手下を引き連れていれば、追跡させて後日仕掛ける 事が出来た筈だ。口惜しいな。――三羽烏もチラ付いている。  初老の忍者が軽い会釈をして、その場を去ろうとした。 「アンタ、流派は?」  あまり馴染みのない雰囲気に少し興味が沸いてきた。勝手なイメージかもしれな いが、風火党の忍者なんて若輩者が多いと思っていたからだ。 「戸隠流、大地田友弘(オオチダトモヒロ)」  改めて振り向き、大地田が名乗る。戸隠流、これはまた随分と大物流派だな。  戸隠流は世代交代に失敗して、少数の年配者が多いと聞く。伊賀流に負けず劣ら ずの武闘派――百戦錬磨のベテラン集団。  そんな流派でさえ、二つの在り方で分断しているのか。思っていたより、深刻な 問題になっているかも知れない。 「伊賀者に伝えておけ、甲賀流を舐めるなと……。アンタも風火党に賛同してるの か?」  甲賀流として、言うべき言伝てを渡しておく。大地田の物腰は柔らかく貫禄があ った。望月一味の中で間違いなく参謀役と言った雰囲気だった。  俺の問いに対し、軽く鼻で笑って見せる。 「若い奴等の、手伝いをしてるだけだ……」  その見返りは何だ。人手の少ない流派なら、風火党のやり方で人材を多く確保で きる。ある種の利害関係と言ったところか。  俺の横を無心で横切り、大地田もヘリの方へ向かった。 「それが外道だと分かっていてもか?」  踵を返しヘリへ向かおうとする大地田を呼び止める。  改めて振り向いた大地田は頭巾とマスクを外した。精悍な顔立ちに右頬には派手 な古傷を刻んでいた。 「我等と共に行くサイキック達は自ら望み、志願した者達だ。人は成長し、変わっ ていく生き物だと言う事を、努々、忘れめされるな。鵜飼殿……」  不敵な笑みを浮かべたが、そこに悪意は感じられなかった。食えない男だ。  心変わりを重ねていくのが、世の常だと言っているが、変わらざる得ない環境に 追い詰めたのは、お前等だろと、何故か言い返す事も出来ないまま、望月を収容し て大地田達を乗せたヘリはそそくさと飛び去って行った。  俺は、外へ目を向ける事を疎かにしていたのかも知れないな。自分の事で手一杯 で、主君の望むままにこなしていれば何の問題もないと。  その結果がコレだ。――改めていかないと。  忍者共の件は一先ず置いて、急いでユーチェンの元へ向かわねば。残りの得物は 短刀と刃が欠けた“大蛇”のみ。  焼けた忍装束から使えそうなものを漁る。辛うじて焼けてない布地を短刀で裂い て、包帯代わりに左腕に巻き付けていると無線機のビープ音が微かに聞こえた。焼 けた忍装束から無線機を取り出す。  インカムは熱で溶けかかっている。取り外して直接無線に応じた。 『鵜飼! 何故、応答しない!』  開口一番に苛付いた調子で怒鳴られた。――クソリーダーめ。  しかし、無線越しに聞こえる鉄志の息は荒く、僅かな物音と過敏な反応をする身 動きを読み取れた。そっちも緊張した状況らしいな。 「悪いな、まだ立て込んでる最中だ」 『鵜飼、よく聞け。この施設が自爆する可能性がある。ユーチェン達と出来るだけ 離れろ』  漫画じゃあるまいしと笑いたくもなるが、蓮夢の言う通り、此処は情報と言う宝 の山なら、人材回収と情報独占は必須だ。  その手段が残された兵士の玉砕戦と施設の爆破だと言うなら、何処までも外道な 連中だと腸が煮えくり返る。 「残り時間は?」 『メインシステムのAI次第だ。蓮夢が高速戦車を追跡している。ハッキングを成 功させれば止められるが、万が一って事もある。早く離脱しろ』  今からユーチェンと合流して、その先の展開は不明。所要時間はなく変態ハッカ ー次第。――とんだ綱渡り状態だな。  ポイントβの戦況と、此処の状況次第でAIが判断を下す。とすれば、徐々に目 的を果たしつつある俺達の状況は、AIの判断を早める行為と言う事になるのか。 「了解した。アンタはどうする?」 『俺はまだ交戦中だ、お前達だけでも先に行け』  鉄志もギリギリの状況。鉄志の気質なら自己犠牲は厭わない質だ。ユーチェンの 状況も分からないし、俺も戦える余力があるかと言えば、かなり厳しい。  しかし、今の鉄志にも助けが必要なのは明白だった。 「分かった、死ぬなよ」 『こっちにケリを着けたら、施設を出て蓮夢を加勢しに行く。四人で、いや五人で 落ち合おう』  助けに行くか。その一言が言えないまま通信が切れてしまった。今の俺には、そ の余裕がない。何時崩壊すかも分からない施設に立っているという重圧も判断を委 縮させる。とにかくユーチェンの所へ向かわないと。  疲労と負傷が俊足を妨げる。走る度に身体の彼方此方が悲鳴を上げていた。すぐ に息切れを起こし更に足を鈍らせる。こんな状況でユーチェンと鉄志を助けられる のか。――蓮夢の事を信じ切れるのか。  ユーチェンがジャラを連れて飛び立った先は、施設のほぼ中心の円柱状の収容所 エリアだった。あそこなら身を隠せる場所も多く、狭い場所、広い場所と、戦い方 に選択肢があった。  ユーチェンなら上手く活用出来る筈だが、想定外だったのは、ジャラの実力が高 かった事だ。師に及ぶ所ではないが、望月の身のこなしを見事に体得していた。戦 闘の面においては充分一人前の忍者と言ってもよかった。  たった五年であれだけの兵士に否、忍者に仕立て上げるとは。この施設で行われ ていた事の悍ましさを痛感する。  収容所エリアの円柱に近付くにつれて、噴水の様に大きな水柱が上がっているの が見える。この場に似つかわしくない虹が浮かんでいる。その下に倒れている二人 の姿を確認した。 「ユーチェン!」  無意識に声が出て、倒れている二人の元へ痛みを引き摺りながら駆けて行く。無 事であってくれ。  相打ち。向かい合って倒れている二人、ユーチェンはジャラの手を握っていた。  ユーチェンは呼吸を確認できた。ジャラの首筋に触れて脈を図る。弱々しいが命 に別条なしだ。――だが急いだ方がいい。  ユーチェンを抱き抱えて、軽く頬を叩いて揺る。 「ユーチェン、しっかりしろ。起きろ、ユーチェン」  口の中を怪我しているのか、ユーチェンは呻いた後、血を吐いて咽た。 「鵜飼……やったぞ、ジャラを、ジャラを……」 「分かってる、ジャラは無事だ。流石だな。ユーチェン……」  そう、ユーチェンも五年だ。たった五年の歳月で、裏社会を相手取り闇を狩る九 尾の黒狐になった。そして今もサイキックとして成長している。  港区で初めて戦った時は、心底、腸が煮えくり返る程憎らしいガキ女だと思った ものだが、今は敬意しかない。 「鵜飼が人を褒めるなんて、槍でも降るかな?」  敬意は変わらないが小憎たらしさも変わらんな。 「馬鹿言ってないで呼吸を整えろ」 「望月達は?」 「望月は倒した。他の忍者共も去った。何も心配いらない」  ジャラと同じ境遇のサイキック達と共に。全てを救えるなんて、驕るつもりはな いが、同胞が絡んでいただけに、やはり引っ掛かっていた。  大地田はサイキック達は自ら望んでと言っていたが、ジャラも自らの意思で、望 月の元に付いたのだろうか。  この少年が目を覚ました時、傍にいる姉のユーチェンを見て容易く捨ててくれる のだろうか。――五年間の意思と決断を。 「流石だな、甲賀流……」   「動けるな、ジャラは俺が担ぐ。此処を出るぞ、鉄志から連絡が入った。この施設 は何時爆破されてもおかしくない状況らしい」  今はよそう。考えても答えが出るものじゃない。――逃げなくては。  半身を起こした後、四つん這いから目一杯の力を膝に集中して、ユーチェンは立 ち上がった。フラ付く姿を見て確信した。ユーチェンは消耗し過ぎている。  これ以上の戦闘は、させるべきじゃなかった。ジャラも昏睡状態で動けない。  この二人を連れて脱出する。俺もそれ以上の事は悔しいが出来そうにない。この 状況は、かなり厳しかった。 「鉄志と蓮夢は?」 「蓮夢は高速戦車を追っている。奴が上手くやってくれれば爆破を防げるかもしれ ないが、今は一刻も早くジャラを医者に見せるべきだ。鉄志も自力で切り抜けると 言っていた。今は信じて俺達もすべき事をしよう。逃げるんだ」  いけ好かない二人だが、信用してる。この状況で楽観視は出来ないが、無理にで も納得して突き進むしかない。  選択の余地がなかったとしても、それを踏まえて余力を残せなかった俺が未熟な のだ。いいチームだけに――己の不甲斐なさが腹立たしい。 「そんな……二人を置いてだなんて」 「今の俺達をよく見ろユーチェン。手負いのジャラに、俺達も満身創痍だ。行って も足手纏いになる。蓮夢に関しては俺達は何も手伝えない。そうだろ?」  自分に言い聞かせている様な気さえする。ユーチェンも、ようやく状況を飲み込 んだか、顔を背けて歯痒く表情を歪ませていた。  「俺達は、お前とジャラの為に命を懸けた。絶対に無駄にはさせない」  マスクを外してユーチェンの目を真っ直ぐ見据える。頼む、これ以上困らせない でくれ。  俺の本来の目的からは大きく外れてしまったが、是が非でもジャラを守り抜いて みせる。蓮夢と鉄志、ユーチェン。それに彩子の為にも。 「今はあの二人を信じて、俺達もすべき事に集中するんだ。頼む……」 「分かった……」  “大蛇”を捨て、ジャラを背負う。左腕が使い物にならないせいで、右腕で全て を支える。かなりハードだ。  収容所エリアから下まで降りて出口を見付ける。スムーズにいけば十五分以内に 施設の外へ出られる。それからは無人に近い状態のポイントΣまで後退すれば安全 だ。鷹野達HQがまだ復旧していないが、復旧されて通信できれば“組合”の部隊 から回収を要請出来る。  互いに拭い切れない思いを抱いたまま、階段を下っていった。  “五人”で落ち合おうって言ったのは貴様だからな鉄志。必ず生きて俺達の所に 来いよ。しくじったら許さんからな。

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