愚神と愚僕の再生譚
6.友達のつくり方③ ラビット&フォックス
◇ ◇ ◇
「ここが特殊第2運動場。通称特2です。特殊運動場というのは――」
特2アスレチックの前で、セラが健吾に愛想よく説明していく。
リュートはそこから少し距離を置いて、テスターとこれからのことを話し合っていた。もちろん小声で。
「なあテスター。あの坊ちゃん、どうすれば落とせると思う?」
「そりゃやっぱあれだろ。スタンダードに、ひたすらよいしょして心地よさの臨界点に達したところで、うまいこと流れをつくっていくしかないだろ」
「あれはどうだ? あえて厳しく接して『僕様にそんなこと言ったやつは初めてだよ』ってもってくパターン」
「それ失敗したら最悪な結果にならないか?」
「だよなあ」
リュートは肩を落とし、セラと健吾に視線を向けた。さすが彼女は、僕様坊ちゃんの機嫌を損ねることもせず、うまいこと相手をしていた。
「――というのが、キャリーボールです。それともうひとつ、RAFという種目がありますね」
「ラフ?」
「ラビット&フォックス。1対数人で行われるゲームです。ゴールをめざすひとりのウサギを、数人のキツネが追いかけます。キツネは与えられた武器で、ウサギが身に着けている印を破壊すれば勝ち。もちろん素手で破壊してもオッケーです。そしてウサギの勝利条件は、キツネの攻撃をかいくぐり、印を破壊されることなくゴールすること。ウサギ狩りってわけですね」
「へえ、面白そうだね」
好奇心に染まった健吾の目を見て、リュートはふと嫌な予感に駆られた。
「い、いやそうでもないですよ! しょぼくれた遊びです!」
縮地の術を使ったかのごとき素早さでセラと健吾の間に割り込むと、張りつけた笑顔で健吾に話しかける。
「とまあ、特殊運動場はこんな場所になりますね。ささ、次に行きましょう」
「待って。そのRAFってやつ、僕様もやってみたい」
健吾がぐい、と手のひらをこちらに向けてくる。
「え? い、いや。やめたほうがいいですよ」
顔に押し当てられた手をどけて視界を確保し、リュートは慌てて制止をかけた。
健吾は疑わしそうにそれを見返し、
「んん? なんだその目。僕様には無理って言いたいのか?」
「あ、いやその、無理っていうか」
無理。
失礼だが、どう見てもその手の運動が得意な体型には見えない。下手に怪我でもされて、『ずさんな受け入れ体制』などとメディアにでも流れれば厄介なこととなる。
「ええとほら、こんなの愚民のゲームですって。あなたが戯れにやるには低俗過ぎます」
「たまには低俗なこともしないとね。いずれ上に立つ者としては、庶民のことも知っておかないと」
「いやでも……そう、そうだ! その見るからに成き――高そうなお召し物が汚れちゃいますって」
「心配ないよ。こういうこともあろうかと、一番安い、汚れてもいい服を着てきたんだ。ずた袋のような服を着ている君には、違いが分からないだろうけどね。これは使い捨てさ。だからほら、早くやろうよ」
リュートの説得もむなしく、健吾はすでにやる気満々だった。ウキウキと気も早く、アスレチックへと足を運んでいる。
残されたリュートに、冷たい視線が突き刺さった。
「……リュート、やぶ蛇って言葉知ってるか?」
「私頑張ったのに……」
「俺が悪かったよ!」
どう言い訳することもできず、リュートは逆ギレした。
◇ ◇ ◇
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