愚神と愚僕の再生譚
6.友達のつくり方⑥ 妹を裏切るわけにはいかない。
◇ ◇ ◇
林田健吾と友達になるのは不可能だ。
夕食まで彼と過ごして散々な目に遭い、リュートはそう結論づけた。
無理だった。無謀だった。なんで友達になれると思ったのだろうか。愚か過ぎて過去の自分を殴りたくなる。
ともあれ目標達成が不可能な以上、健吾とはなるべく関わりを避け、彼が翌朝去るのを待つのがベターだ。
だから風呂上がり後に健吾から「9時に僕様の部屋に集合」と呼び出しを受けた時は正直、情報の行き違いがあったことにして無視しようかとも思った。
が、自分やテスターが呼び出されたということは、恐らくセラも同様だ。妹を裏切るわけにはいかない。
という訳でリュートは嫌々ながらも、テスターと一緒に世界守衛機関本部棟に向かっていた。そこの1階に健吾の泊まるゲストルームがある。
受付にはすでにセシルが話を通していたらしく、すんなりと通過することができた。
廊下に足を踏み入れると、前方に見覚えのある後ろ姿を見つける。
「あ、セラじゃん。おーい」
テスターが手を振って呼びかける。
少女は立ち止まって振り向いた。手を小さく振り返してこちらが追いつくのを待つと、苦笑交じりに聞いてくる。
「お兄ちゃん、シチューは落ちた?」
「ああ、たぶん」
リュートは、いまだひりつく頰に指を触れさせながら、うめくように答えた。
夕食時のことだ。
健吾がスプーンを床に落とした。それを拾うためリュートがかがんだ際、どこをどう触れたのか、健吾が手元のシチュー皿をひっくり返したのだ。
わざとかと思えば本当にうっかりだったらしく、その鈍臭さには脅威すら感じてしまう。というより熱々のシチューを頭から引っかぶったのだから、正真正銘実害ある脅威だ。
「なあ。連絡の行き違いってことにして、3人でばっくれないか?」
セラに合流できたのをこれ幸いと、リュートはそう提案するが。
「そんなことしたら後が怖いだろ」
「そうよ。ただでさえ幽霊騒ぎでにらまれてるのに」
あくびを嚙み殺しながらも、ふたりが即座に返してくる。
正論過ぎて食い下がることもできず、観念して歩を進めるリュート。
突き当たりにあるゲストルームに到着すると、セラがこんこんと扉をノックした。
「健吾様、セラです。3人到着しました」
「ん……入っていいよ」
間延びした返事を受けて、セラが扉を開ける。
ゲストルームに入るのは初めてだったが、なるほどその名が付くだけあって、訓練生の寮室とは違って広く、十分な家具・家電がそろっていた。
「遅いじゃないか」
セミダブルのベッドに寝転がった健吾が、声だけをこちらに向けてくる。その顔は40インチほどのテレビ画面に向けられており、どうやら彼は洋画を観ていたようだった。
「すみません健吾様」
謝るセラに、健吾は数秒置いてから顔を向け、
「まあいいけど。それじゃあ始めようか」
寝間着に包んだ身をのそりと起こし、持っていたリモコンでテレビの電源を落とした。
それがあまりに自然な流れだったので、リュートは自分が把握し損ねていた予定でもあるのかと思い、残るふたりと顔を見合わせた。テスターとセラの反応を見る限り、彼らも流れに付いていけていないようだが……
「始めるってなにをです?」
3人を代表して問うテスターに、健吾が鼻白む。
「なにをって……パジャマパーティーに決まってるじゃないか」
「……決まってんのか?」
「さあ」
「したことないわ」
「つかパジャマ着てねーし」
渡人組でひそひそと議論した後で、リュートは健吾を振り返った。
「すみません健吾様。俺たちパジャマパーティーについて、よく知らなくて」
「タメ口でいいよ。パーティーだからね、特別に無礼講」
「そりゃどーも。で、パジャマパーティーってなにするんだ?」
早速口調を戻すリュート。
「将来の夢とか好きな異性の話とか。あと枕投げとかいろいろあるけど。でもまずは……」
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