愚神と愚僕の再生譚
6.友達のつくり方⑨ お前はお前でそれでいい。
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「リュート様、やり過ぎです」  駄目元でいさめると、意外にも兄は素直に拳を引き抜いた。 「ああ、悪い悪い。友達つくろうと、つい必死になっちまった」  友達つくろうと必死になって、なぜ拳を食わせるのかは謎としかいえない。  リュートは快活な笑みを浮かべると、仕切り直すようにしてけんの横に座り込んだ。 「んでさ、本題。お前友達になってくれんの?」 「へ?」 「言ったじゃん。考えとくって」  たん、びくびくしていたけんの態度が一変した。顔の引きつりを多少残しながらも、勝ち誇った笑みを浮かべ、 「か、考えるだけだ! 考えた結果、お前は僕様の友達にふさわしくない! 僕様の靴をなめるのがせいぜいだ! なんてったって僕様はエリートなんだから! お前は僕様と違って下層市民のさらに下層の最下層民なんだから、本来なら僕様と同じ空気を吸うのすら許されないんだ! だからお前は僕様に――」  リュートはいまだ持っていたフォークを逆手に持ち替え、けんの眼前すれすれに突きつけた。 「僕ボクうるせえよボンクラ。つべこべ言わずに友達になれ殺すぞ」 「ひいいいぃっ⁉ 友達っ! 僕ら友達いいいぃっ!」 「……ざ、斬新なつくり方だな」  ほおづえをつきながら、テスターが苦笑いを浮かべる。というより、少し引いているようであった。 「なんか、ちょっとかわいそうな気もするわね」  フォークの先端と網膜でキスしようとしているけんを見て、セラもぎこちなく笑みを浮かべた。  リュートの強引な友達付き合いはまだ続く。 「それよりお前さ、ちょーっとばかしダイエットした方がいいんじゃねーか?」 「ぼ、僕様が太っていると言いたいのか? これは体質で仕方なく……」 「いやいやいやいや、別に俺は気にしねーよ? 気にする方がおかしいんだ。お前はお前でそれでいい」  グッと拳を握った後で、リュートが指を立てて力説する。 「けどさ、林田家のご子息様としては、イメージってもんも大事だろ? なあに俺にまかせてくれりゃあ、ものの1分でお前をスタイリッシュに仕上げてやるよ」 「い、1分で?」  少し興味が湧いたのか、けんが期待を込めたまなざしをリュートに送る。 「ああ任せろ」  リュートはカートリッジを取り出し、けんを引き抜いた。 「この辺りのお気楽なぜいにくをズバッといっちまえば、洗練されたスタイルに早変わりだ」 「そんな血しぶき舞いそうなのは嫌だよ!」 「遠慮すんな出血大サービスだ。おらいくぞ」 「ひいいいい! 助けてえええ!」  襟首をつかまれたけんがばたばたと騒ぎ、リュートがねじ切れた笑みを浮かべる。 「おいおい、あんま動くと内臓までズバッといっちまうぞ」 「あああああっ!」  部屋を駆けずり回って必死の攻防を繰り広げるふたり――いや、必死なのはひとりか――を視界に収めながら、セラはテスターに問いかけた。 「どうするテスター君? める?」 「んー……ここまで来たら、突き抜けた方が批判も受けないかもな」 「本当に突き抜けちゃいそうだけど。主にけんが」 「ま、そのときはめればいいんじゃないか。ぶつかり合ってこその友達だろ」  そういう問題ではないような気もしたが、 「……そうね」  盛り上がっている(?)ふたりに割り込む度胸もなく、セラはテスターと傍観することを決めたのだった。 ◇ ◇ ◇
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