愚神と愚僕の再生譚
3.爆ぜる理不尽③ 冷罵をもって応じてくれた。
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◇ ◇ ◇ 「ぁあくそっ、鬱陶しいっ!」  打ち払っても打ち払っても、何度も飛びかかってくる小道具たちに、リュートはたまらず罵声を上げた。  さすがにもう素手での応戦はしていない。りんを後方にかばいながら、未発動のけんを右手にしのいでいる。  当初の方針を変えて、ここにとどまっている理由はただひとつ。 「角崎、鍵は飛んでるかっ?」 「そんなこと言われたって、鍵って小さいんでしょ? もし飛び回ってても分かんねーわよ!」  全くありがたくない正論だった。  ざんこんはコツをつかんできたのか、小道具のしょう速度も上がってきた。重いものは操れないらしく、椅子や大道具の類いが飛んでこないのは幸いだったが。 「くっそ、早くなんとかしねえと、ここのクラスのやつらが戻ってきちまうっ……」  歯をきしませていると、背後から毒づく声が聞こえてきた。 「ったく、あんたのせいで散々だわ!」 「俺のせいかよ⁉」  肩越しに振り向くと、角崎はみつかんばかりの勢いで、手錠のかかった右腕を振り上げ見せつけてきた。 「当たり前でしょ! この馬鹿! 疫病神のクズ守護騎士ガーディアン!」 「別に俺のせいじゃねえだろ!」  手錠をがちゃつかせながら、リュートはねじり上げられた左腕を引っ張り下ろした。 「俺だって被害者なんだからな! なんでお前にそこまでこき下ろされなきゃ――」  反論の途中で気づく。いつの間にか小道具の襲来がやんでいた。たたき返された小道具が、床のそこかしこに散らばっている。 「止まった? なんで……?」  りんのつぶやきに、はっとする。  リュートはけんを収め、慌てて彼女に呼びかけた。 「この際理由はどうでもいい! 鍵だ、今のうちに手錠の鍵を見つけるぞ!」 「どこにあるのよっ?」  聞いてくるりんに、適当に段ボール箱の辺りを指して答える。 「知るかあの辺りだろ! 探せとにかく探せ絶対どっかにあるはずだ!」 「命令しないでよね!」  反発しながらも一応はリュートに従い、一緒に段ボール箱に近寄るりん。  リュートはかがみ込むと、自由な右手だけで、段ボール箱の中をあさり始めた。  箱の中身はざんこんのせいでだいぶ減っており、探しやすくはあった。しかし肝心の鍵が見つからない。 「見つからないんだけど!」  もうひとつの段ボール箱の中をかき分けながら、りんが絶望的な声を上げる。 「手錠があるんだ、絶対鍵もあるはずだろっ」  半ば自分に言い聞かせるかのように、リュートはりんを励ました。  が、どう見ても箱の中には入っていない。 (やっぱ床に散らばってる中に混じってるのか……?)  りんも同じ結論に達したらしい。はじけるように反転し、いつくばるようにして床の上を進みだす。 「っ――おい、あんま引っ張んなよっ」  今度はリュートがりんに従って――というよりほぼ引きずられて――床をい、痛みに顔をしかめる。  銃はしょぼい玩具おもちゃだったくせに手錠はやけに本物然としていて、見たところダブルロックの仕様のようだ。しかし肝心のロックをかけていないので、暴れるほどに、手錠の締めつけがきつくなっている。  リュートの訴えに、りんは冷罵をもって応じてくれた。 「痛いならあんたが合わせて動きなさいよ! このウスノロ!」 「お前こそ、こんな時くらい譲歩して優しくできねーのかよ!」 「十分譲歩してるしあんたみたいな金髪不良と会話してる時点で!」 「好きで金髪にしてんじゃねえ!」 「なにその『本当はしたくないけど仕方なく~』的なウザい立ち位置っ。素直にオシャレしてみたかったって白状しなさいよそしてドン引きされて死ね!」 「そ、そんなに似合ってないのか……?」  さすがに少しばかりショックを受け、金髪の毛先を指でつまむリュート。  しかし、悠長に落ち込んでいる場合でもないので気を取り直し――帰ったら即行で地色に戻そう――床を凝視しながら鍵を探す。 「くそ、ねえな。どっか別の場所に保管してあるのか? だったらどうしようもねーぞ」  などと愚痴をこぼしていると、 「あ」  りんの、間の抜けたような声。 「見つけたのかっ⁉」  リュートは顔を輝かせてりんを振り向き、そして固まった。  りんいつくばったまま、ある一点を見上げていた。  教室後方の扉。開けっ放しだったのと、鍵探しに夢中で気づかなかった。何人もの生徒たちがぜんとした顔で、リュートたちを見下ろしていることに。  どうやら早めに授業が終わって、教室に帰ってきたところらしい。  入学当初も似たような展開があったなあと、人ごとのように――つまりは現実逃避なのだが――思いながら。 「……どーも」  リュートは投げやりに敬礼した。 ◇ ◇ ◇
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