愚神と愚僕の再生譚
1.極めて健全かつ堅実身近な資金調達方法すなわち学内バイト③ 君もあの男には気をつけなよ。
◇ ◇ ◇
「うし、これで最後だな」
ゴミ袋を収集BOXに投げ込み、トントンと肩をたたく。
3往復してようやくゴミ出しが終わった。といっても収集BOXはクラブ棟のすぐ近くにあるので、いうほど面倒でもなかったが。
リュートはクラブ棟へと戻りながら、ふと気づいた。
(そういや謝礼のこと聞きそびれたな)
別にフリストの誠実さを疑うわけではないが『多額の謝礼』というふわっとした情報だけでは、やはり心もとない。
(事務局から募集の許可を得たってことは、不当な内容じゃねーんだろうけど……それとなく聞いてみるか)
すたすたとクラブ棟の前まで来たところで。
ガチャリと扉が開いた。
「あ」
開いたのはギジケンではなく、その隣――残魂研究会の部屋。
「リュー?」
扉から出てきた女生徒がこちらを見て、緋色の髪とそろいの丸い緋眼をしばたたかせる。残魂研究会の会長、ツクバだ。
「おはようございます。ツクバ先ぱ――」
言葉半ばにデコピンを食らう。
ツクバは両手を腰に当て、ずいと身を乗り出してきた。
「君ねえ、あれから全っ然研究会に来ないじゃないの。もっと会員としての自覚をもってほしいわね」
それがさも当然の苦言だとでもいうように、形のいい唇が言葉を紡ぐ。
リュートはそれを半眼で見返しながら、
「自覚っていうか、会員になってることすら知りませんでした」
「なに言ってんのよ、考えとくって言ったじゃない」
「言いましたけど」
「つまりはオッケーってことでしょ」
「社交辞令って知ってますか?」
「既成事実って知ってる?」
「負けました」
「よろしい」
満足げにうなずき、ツクバがすとんと両手を落とす。彼女は扉に鍵をかけると、振り返って頭をかいた。
「でも来てくれたところ悪いんだけど、私ちょっと用事があんのよね」
「大丈夫ですよ。また来ますから」
勘違いしているらしいツクバに、適当に調子を合わせる。彼女はギジケンとは犬猿の仲だったはずだ。助手のバイトをしているだなんて知れたら、後が怖い。
と、ツクバが思い出したように口を開いた。不快げに目をすがめながら、
「そういえば君、香水かなにか付けてる?」
「え? いや、付けてませんけど」
ぎょっとして否定する。どうやら例のエレガントな香りが、身体に移ってしまっていたらしい。たった少ししかとどまっていないのに、なんともすごい香気だ。
「じゃあまたギジケンから漏れてきてんのね。あの香害男」
ツクバが厄よけの仕草をしながら、ギジケンの扉をにらみつける。
「君もあの男には気をつけなよ。会員いないもんだから、すーぐに取り込もうとすんの。うっかり話そうものなら、こっちの意思も都合も無視して、いつの間にか会員にされてたりするわよ」
「否応なしですか。それは怖いですね」
「でしょー」
こちらの皮肉は無視してツクバがうなずく。もしかしたら、素で気づいていないのかもしれない。
「それじゃあ私急ぐから。またね」
「ええ、また」
小走りに去っていくツクバを見送り、リュートはギジケンの部屋へと戻った。
◇ ◇ ◇
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