愚神と愚僕の再生譚
2.至極まっとうで謙虚確実な報酬の取得手段すなわち有償奉仕④ それは一体なんの真似?
◇ ◇ ◇
「で、お兄ちゃん。それは一体なんの真似?」
特殊第1運動場――通称特1の片隅で、腰に手を当て聞いてくるセラに、
「いや実は、ちょっと小金が欲しくて有償奉仕を申し込んだんだけど、空いてる時間がここしかなくて」
リュートはごまかし笑いを浮かべて身体を揺すった。
しかしセラは見逃してくれない。
「有償奉仕って……今日は須藤さん来るって分かってたのに、なんでそんなの申し込んだのよ?」
「だからこの時間帯しか空いてなかったんだよ」
「そんなに金銭事情が切迫してたわけ?」
「どっかのクソおやじのせいでな」
「ああそういうこと」
即座に納得するセラ。リュートはその対応に満足し、再び身体を揺らした。
「あの天城君」
セラとのやり取りを見ても納得――というか理解が――できなかったらしい明美が、首を傾けて聞いてくる。
「それが特殊ってこと?」
「いや、これは別口の特殊だ」
リュートは三たび身体を揺すり、それ――背負った籠の位置を調整した。
「俺が見せたかったのは、あれだよ」
特1の中央へと顔を向ける。
そこにどでんと構えていたのは、ポールや鉄棒、雲梯に壁、さまざまな障害物をちりばめた巨大アスレチックだった。
「特殊運動場っていうのは、迅速身軽な移動術を鍛える場なんだ」
「堅苦しく言うのをやめれば、パルクール練習場ってところですね」
ふんふんとうなずいた明美が、リュートの籠へと視線を戻す。
「その訓練に、籠が必要ってこと?」
リュートは首を横に振った。
「さっき言った通り、これは別口――有償奉仕だ。お小遣い制度なんてないからな。金銭を欲する場合は、成績優秀者への特別支給や、訓練校が認可した有償奉仕などを通して得るのが、スタンダードな稼ぎ方なんだ」
「で、これにつながるわけなんですけど」
セラがぱしぱしと、リュートの籠をたたいて続ける。
「訓練のひとつにテニスボールを使用するものがあるんです。が、基本打ちっ放しですから、ひたすらたまってくんですよね。それをアスレチックの点検がてら、拾って片づける有償奉仕があるんです」
「なるほど。だから天城君はそんな籠を」
「そういうことです。須藤さんがいてもやろうとするんだから、さもしいといえば、さもしい話ですよねー」
「地道と言ってくれ」
ぱしぱしたたき続けるセラの手から逃げるように、リュートは斜め後方へと身を引いた。
と、籠がなにか――恐らくは誰か――にぶつかる。
「やべっ――すみません」
「いえこちらこそ。前をよく見ていなくて」
飛びのきながら謝ると、生真面目そうな少年と目が合った。
「あ」
手を後頭部に当てながら、少年が間の抜けた声を上げる。
そんな表情をされる覚えはなかったのでいぶかしんでいると、セラがひょこんと割り込んできた。
「あ、タカヤさん。先ほどはどーもです」
「⁉ セラ先輩、お疲れさまですっ」
ピシッと挨拶を決める少年。
セラはそんな彼を微笑ましげに見ると、両者を知る者として仲立ちを始めた。
「タカヤさん、こちら――っていっても、すでにご存じでしたよね。リュート様です。そしてこちらが特別見学者の、須藤明美さんです。で、おふたりとも。こちらが4回生のタカヤさんです」
「見学者の方でしたか、これは失礼いたしました!」
「あ、いえこちらこそ、ご丁寧にすみませんっ」
タカヤと明美が、ぺこぺことお辞儀をし合う。
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